第十四話
夢見
☆
GOKOCHI
みなさんごきげんよう。組立式人間のラブリーアンド
ガブリエル蝶子でございます。
年収三千万以上の男とファッションと海外旅行と
水虫の治療法にしか興味のないワタクシではございま
すが、
今日は語らざるをえません。
ピコル君の深い悲しみと絶望を。
そう、私とピコル君がゲルニーク・ホテルの部屋で、
実家に執拗なイタ電をしていたときのことでございま
す。
ベルを鳴らしてホテルのボーイが届け物をしてきたの
です。妙な封筒でした。
私がそれをおそるおそる開けてみると、中から一本の
カセットテープが出てまいりました。
え?それ女子限定?男子禁制?とニヤニヤしながらピ
コル君はそれを私から奪い取り、
古いウォークマンに入れてテープを回し始めました。
ヘッド・バンキングを始めるピコル君。私も負けじと
ポジティブ・シンキングを始めました。
ポジティブ・シンキング・・・。ポジティブシンキン
グ・・・。明確に思い描くのよ・・・。
退屈な毎日→この先老いていく自分→きっと若い頃の
ように男にチヤホヤされない→人間が信じられない→
引きこもる→紫外線に当たらないので美白効果→より
美しくなる→いい男に言い寄られる→唾を吐きかけて
蹴りを入れる→優越感→自分に自信が出る→より美し
くなる→政治家の愛人になる→金と人脈を奪い取り捨
てる→それを元手に選挙に出馬→美しすぎて当選→あ
まりにも美しすぎて首相に→究極の美に国民がひれ伏
す→美男子だけを集めて朝から晩まで大はしゃぎ→チ
ャクラが体中に満ちてさらに美しく→人間の領域を超
える→不老不死→永遠の美→神となる→宇宙空間の中
に大いなる愛を感じる
私が具体的な構想を練っている間に、テープを聞いて
いた
ピコル君の顔は青ざめていました。
心配になり、私はピコル君のヘッドホンを外して声を
かけたのです。
「ごはんにする?お風呂にする?それともシベリアで
強制労働?」
ピコル君は私の問いかけには応じず、ウォークマンを
床に叩き付けてこう言い放ちました。
あかん、おばあちゃんの知恵袋の緒が切れたわ
こんなコケにされたのは初めてや
彼はそのままエプロンをつけてキッチンに向かうと、
フライパンに油をひいて一心不乱にウォークマンを炒
めはじめました。
そこに豆板醤をかけて、いい匂いがしてきたところで
一度そのことをスッパリと忘れて夏休みの計画を秒刻
みで立てました。
フライパンの火が天井に達した頃に、改めてそこに消
火器をぶちまけて、
醤油を目薬のように目にさし「目ぇさめるで」とつぶ
やきました。
最後の仕上げとして部屋中の壁に「死ね」と書き、
冷蔵庫を蹴り倒して転げ出てきたハムを指差して私に
言いました。
「どや、うまそうやろ。俺が本気だしたら料理くらい
なんぼでも作れんねん。食ってみ。」
ピコル君があまりにも爽やかにそう言うので、
私は「ポオ」と一言お礼を言った後、警察に連絡しま
した。
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