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第  十  話

blind
brothers 2

「うわ・・・なんだこのニオイ。」 赤く濁った川がゆっくりと流れている。ハナオは堪え かねて手で鼻をおさえた。 「死体のニオイだよ。文字通り、ここが正常と異常の レッド・ラインってわけだ。」 ミミオはその不気味な流れに耳を済ませた。 この大量の死体は、川上の処理場から流れてきている という。 ゼロエリアで、さらに点数を落とした人間たちのムク ロだ。 公にはされていないが、精神異常者・犯罪者・身体障 害者など 社会的なあらゆる不良品がそこで処理されているのだ。 パーフェクトクリーンをうたう独裁政治の、全ての矛 盾の辻褄あわせを、 ゼロエリアとこのラー油川が背負わされていた。 「それに、有害物質のニオイも混じってるよ。ゲルニ カタウンを通らずに、 このラー油川を泳いで渡るのはまず無理だね。」 「ああ、ピコルは必ずゲルニカタウンを通る。そこで 待ち伏せるぞ。」 ジャリジャリと音を立てて、川沿いを歩く兄弟。 この仕事が、おそらく容易には終わらないという予感 を、 二人は感じていたが口には出せなかった。 ハナオは、委員会から送られてきた点字資料をもう一 度読んだ。 ・・・・・排除指令(点字資料)・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 標的 : ピコル・ド・オードトワレ 居住地 : ゼロエリア特別区 (99号指定重症患者 隔離地域) ミミオ・ハナオの御兄弟へ。どーもどーも。 あなたたちの評判は聞いてますよー。すごいらしいっ すねえ。 目、見えないのにどうしてターゲットを確実に殺せる の?勘?勘なの? 今回が初の委員会指令ですよ。上記の人物を、とりあ えず殺して、 第一エリアの委員会窓口まで届けてね。 成功の暁には、なんと10000点あげちゃう! お望みのエリアに住むも良し、洒落たインテリアを買 い揃えるもよし、 好き放題に焼肉を食うも良し、なんでもあり! とりあえず、他の刺客も狙ってるターゲットだから、 まあ、早い者勝ちだから、そこのところはお願いね。 ピコル追跡のための「ニオイ」は、同封してあるカプ セルで記憶してね。 (けっこう入手大変でした) ただ、ちょっとここでは言えないんだけど、いろいろ 事情があって手ごわいよ。ピコルは。 がんばってねー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「兄ちゃん。ピコルって、どんなやつなのかな。 ただのキチガイにしては、委員会がこだわる理由がわ からない。」 「さあな。ただ、ゼロエリアではちょっとしたカリス マらしいぜ。 不思議な力を使うとか、使わないとか。」 「不思議な力?超能力、みたいな?」 「ああ。現に、今まで委員会が送り込んだ刺客どもは、 誰一人帰ってきちゃいねえ。 全員、気が触れて消息不明。だ。」 不思議な力。と聞いた時に、ハナオの脳裏に昔読んだ 新聞記事が浮かんだ。 「それって・・・まるで・・・。」 「そうだよ。俺は、ピコルはもともと機械児だったん じゃねえかと思ってる。」