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第八話

she 
loves 
butterfly

命取りになるぜ、命取りになるぜ、命取りになるぜ、 それは、それは命取りになるんだ。 フィッシュボーイは神輿の上で陽気に歌っている。命 取りの歌。フィッシュボーイの義理の母ロボットが、 子守唄として歌ってくれていたものだ。 義理の母ロボットはベーシストだったが、カーテン売 り場では歌姫として、もてはやされたりもてあそばれ たりしていた。だがそんなことは今関係ない。 ピコルキッズたちは、ピコル君とフィッシュボーイを 神輿から降ろすと「これから友達とテロの約束がある ので」と言ってスーツに着替えて帰って行った。 「川だ。」 フィッシュボーイの目の前に大きな川が横たわってい た。川を流れているのはラー油だった。 ゼロエリアと第9エリアの境界線、ラー油川である。 ラー油を見たら性犯罪者だと思え、という格言を思い 出したピコル君は、その格言を忘れることにした。 近くに舟が見当たらない。ピコル君とフィッシュボー イは頭を抱えた。そしてひざを抱えて座りこんでしま った。 頭とひざをいっぺんに抱えてしまったピコル君は、ヨ ガの境地に達していた。 ヨガの神が降りてきた。 「キュウリ下さい!キュウリ!キュウルィ!」 ヨガの神が叫んだ。ピコル君は手持ちのキュウリをう っかりきらしていたため、秘密袋の中からキュウリっ ぽいモノをいそいそと取りだしヨガの神めがけて投げ つけた。 キュウリにむしゃぶりついたヨガの神は、一通り満足 すると「キュウリよりも肉団子のほうがよかった。」 とでも言いたげな顔をしながらこう言った。 「何か困っていることはないか?今ならなんでも一つ だけ願いをきいてやるぞ。」 ピコル君とフィッシュボーイは顔を見合わせ。調度よ かった、というような目でうなずき。同時に言った。 「愛をください!」 ヨガの神は少し黙り、こう言った。 「愛は与えられたり奪ったりするものではないよ。自 分で作り育てなさい。」 ヨガの神は、「パンドラの箱を入れていた箱」を彼ら に与え、徒歩で帰った。ピコル君とフィッシュボーイ は、周囲に誰もいないことを確認してその箱を開けた。 中には、細かく分類されたパーツと、組みたて説明書 が入っていた。組みたて完成予想図には、愛を司る女 神が描かれていた。 二人は10日間眠らずに作業に没頭した。 ラー油川のほとりで、体力の限界に達してはいるが目 だけはギラギラさせたピコル君とフィッシュボーイが ぶっ倒れていた。完成が近かった。 女神は生まれようとしていた。だが、どこをどう間違 えたのか、その体は左右バランスがおかしく、手足が ぶらーんとしていた。 しかしもうどうでもよかった。ささいなことだ。半蔵 は最後のパーツを取りつけ、服を着せ、後頭部を軽く どつきまわした。 ついに女神の完成だ。女はゆっくりと目を開けてこう 言った。 「蝶々・・・。蝶々がいっぱい。綺麗・・・。」 女には目には見えないはずの蝶が、見えているようだ った。 焦点の定まらない目を、虚空にさまよわせて、女は少 し笑った。 二人はその女を、蝶子と名付けた。