第
七
話
dance
without
you
フィッシュボーイはイライラしていた。タクシーの一
件以来、黒田の仕向けたわけのわからない刺客に何度
も出くわして手間取らされていたからだ。
コンビニで「温めますか?」と言われ「温めてくださ
い」と言ったら自宅を放火された。
数十人の女子高生に囲まれ、「サインください!サイ
ンください!」とせがまれ、危うく三千万円の借用証
書にサインさせられそうにもなった。
満員電車の中では、ハゲてアブラぎった中年男に「や
めてください!・・・この人痴漢です!」と濡れ衣を
きせられた。
バーでは、「あちらのお客様からです。」と、ワラ人
形を渡された。
SMクラブに行ったら、女王様の変わりに王様が出て
きて、「とにかく西の門を固めろ」と警備を命ぜられ
た。
競馬場に行けば、来ていた客全員に「お前に賭ける」
と望みを託され、自分のオッズがものすごく低くなっ
た。
デートの待ち合わせ場所に、法廷を指定された。
我慢の限界に達したフィッシュボーイが「シンデレラ」
の絵本をビリビリに引き裂いて叫んだ。
「たぁーだの玉の輿の話じゃねえかああ!!金か!?
顔か!?それとも権力か!?いいか、言っておくぞ・
・・!俺には全部ねえ!!!」
そしてついに、ピコル君までもが・・・ブ・チ・キ・
レ・タ!
自分の片耳を引きちぎり、ゴッホの自画像に貼り付け
て叫んだ。
聞こえるか!幸福乞食の未熟児ども!!
これから、セックスより楽しいことを教えてやるぜ!
俺が、お前の、ミッキーマウスだ!
祭りが始まった。ゼロエリア特別区じゅうのピコルっ
子たちが、そのカリスマ性にひきつけられて大集合し
たのだ。
ピコルっ子たちが叫ぶ!「まつり上げろ!まつり上げ
ろ!」
ピコルを乗せた神輿が、ゼロエリアと第九エリアの境
界線向けて、マッハなノリで突き進む。
砂混じりの熱風が、上昇気流となって太陽に吠えかか
る。
神をも恐れぬ子羊たちが、卑屈な魂に火をつけて、精
神の闇夜に花火を打ち上げたのだ。
フィッシュボーイが、空色のカスタネットをかき鳴ら
す!ピコルキッズが聖書をラップで読み上げる!
そしてピコル君が救いの歌を高らかに歌い始めた。
♪「抱きしめて kaku-baku-dan!! 〜愛とはつまり見
栄と依存心と性欲の複合的な感情に過ぎないのか〜」
ベルマークを集めた
一生懸命集めた
4年くらいかけてマジで集めた
コンビニのゴミ箱に捨てた
タトゥーを入れた
顔面に入れた
鬼という字を大きく入れた
読みがなも上に小さく入れた
俺はもう以前の俺じゃない
美人にだって緊張しない
知恵の輪なんてもうホントに筋肉の力だけでこじ開け
るし
スパゲティーのことはこれからパスタと呼ぶ
お前はもう以前のお前じゃない
ブスにだって優しくする
弁慶の泣き所は朝から笑いっぱなしだし
夏場になったらもう逆に蚊の血を吸ってやる
とまらない とまらない
もう絶対にとまらない
右手の痙攣とまらない
おわらない おわらない
もう永遠におわらない
カードの支払いおわらない
I 'm dancing without you
I 'm singing without you
But I 'll be with you
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