第
六
話
blind
brothers
太陽系を構成するそれぞれの天体の動きは、地球の大気
中に飛び交う私の精子と密接な関係性を持っています。
そこで私は、近隣の核家族に核廃棄物をプレゼントして
こう言ってやりました。
地球儀を蹴っ飛ばせば誰でも精神的エース・ストライカー
だと。
ええ、そうです。嘘じゃないっ。宇宙食の原材料は宇宙
人なんだ!だまされているんだ私たちは・・・
何だと?失敬だな君は。私は顔のホクロを取る手術で二
度、死にかけたことがあるんだ。そんな私を信用できな
いのか?
いやはや・・・それはさておき、みなさんもう一度、LO
VEについて考えてみませんか?
さもないと、飢えた子供たちの目の前で俺はステーキを
ほおばる覚悟だ。
学会の講演でそう力説した渋沢教授が、社交パーティに
全裸で登場したのはみなさんの記憶に新しいところだと
思う。
そこで天文学の権威に全裸で野球拳を挑み、そして破れ、
全身の皮膚を剥ぎ取られて今は集中治療室にいることも。
だがその渋沢教授に二人の息子がいることはあまり知ら
れていない。
渋沢ミミオ、渋沢ハナオという双子の兄弟。
しかし二人とも幼少時の事故が原因で盲目となってしま
ったがために、その存在を教授が隠したのだ。
そうして世間体を理由に愛されなかった兄弟は、父親か
ら逃げ、スラムである第9エリアで殺し屋として生計を
立てていた。
盲目だが、人並みはずれた聴覚を持つミミオと、同じく
抜群の嗅覚をもつハナオという双子の殺し屋が第9エリ
アで台頭している・・・。
そんな噂は、黒田五右衛門の直属の密偵機関「ブエノス
アイレス委員会」にも伝わることとなった。
「・・・なあ、兄ちゃん。星の王子様って知ってる?」
ハナオが小さい声でつぶやいた。ミミオは、カレーの王
子様しか知らねえ、と言って銃をカバンにつめた。
コンクリート打ちっぱなしの、崩れ損ねた小さなビルの
二階。穴が開いただけの窓から、月の光が差し込んでい
る。
気温は高いくせに夜の風は涼しくて、体のどこかをくす
ぐられているような感じだ。
「大切なものはさあ、目には見えないんだって。・・・
なあ、兄ちゃん。」
ミミオはハナオの話をまともに聞かずに、カレーの王子
様がインド人かどうかについて考えていた。
「だったら僕らにも見つけられるかな。目の見えない僕
らにも。」
ハナオは首からさげた小さな白い十字架に触れながら言
った。
ミミオは不機嫌な顔になってコンクリートの上に寝転ん
だ。
「ハナオ。起きてる時は夢見んな。世界は残酷で、俺た
ちはクズで、幸福は実在しない。大切なのは生き残るこ
とそれだけだ。もう寝ろ。」
委員会が僕らに命令してくるとは思わなかった。
でもこれはチャンスなんだ。
ピコルを殺すことができればここより衛生管理と治安の
いいエリアに住めるだろう。
そうしたら、兄ちゃんと二人でまともな生活をして、本
当に大切なものを探そう。
この仕事が終わったら、殺しをやめよう。
ハナオは強く決意し、そしてゆっくりと眠りに落ちた。
小さな白い十字架と、真っ黒い銃を握り締めて。
|