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時間の悲しみ(第一話)
−−−もし、好きな人がいたら・・・ きっと会いたくなるだろう・・・    でももし、その人が近くにいなかったら・・・    会えなかったら・・・  あきらめる? それとも、愛し続ける?−−− −−−−−俺は〔神崎諒〕。今は中学三年、受験生だ。俺には、今、好きな子      がいる。学年が1つ下の子なんだけど・・・・ もう、その子には      忘れられていると思う。でも・・・ やっぱり、好きだ。    −−−−− 〜〜〜〜〜〜今から三年前〜〜〜〜〜〜 俺が小学六年生の時・・・ 〜〜〜4月〜〜〜 分掌で俺は小学校の「児童会役員」になった。じゃんけんで負けて。学校の行事、例えば、運動会や学 芸会、集会等を企画するのだ。この仕事がどんなにつらい仕事かは俺も良く知っていた。去年、俺の一 番の親友、〔俊〕が「児童会役員」になっていたのである。俊とは幼稚園時代からの親友で、一週間の 半分くらいはどちらかの家で一緒に遊んでいた。が、俊が「児童会役員」になった五年生のときは、一 週間に一回遊べるかどうか、という状況だった。それだけ大変な仕事なのである。こんな仕事いやだ。 やりたくない。しかし、じゃんけんでまけてしまったし、仕方が無い。適当にやっとけば何とかなるだ ろう、と思っていた。 〜〜〜5月〜〜〜 「児童会役員」の始めての集まりがあった。初めは顔合わせということで自己紹介だけだった。でも、 俺は自己紹介なんて聞いていなかった。「児童会役員、いやだ。」その気持ちでいっぱいだった。「児 童会役員」は全部で六人。五年生3クラスと六年生3クラス、その各クラスから男女一人ずつが選ばれ るのだ。このときはまだ、なにもなかったのだ。・・・ああ、確かにこんないやな仕事には就いたけど さ。 〜〜〜6月〜〜〜 9月下旬の運動会に向けての話し合いで、急激に忙しくなった。毎週、週の半分以上は話し合いがあっ た。運動会にも運営上いろいろ仕事が必要らしく、司会二人、会場準備二人が必要だというのだ。会場 準備は立候補者が二人いてすぐに決まったのだが、司会はなかなか決まらなかった。そして、仕事につ いていない人全員でじゃんけんをすることになった。で、じゃんけんに弱い俺は、ものの見事に負け、 司会になってしまった。もう一人は、五年生の女子の〔高橋沙織〕っていう子だった。髪が長くて、お となしくて、かわいい。それが、俺から見た、彼女の第一印象だった。彼女は先生が「司会をやりたい 者はいないか」と聞いたときに、立候補していた。多分、自身があったのだろう。それに対し、俺は人 前でしゃべるとあがってしまう性格だ。なのに、司会なんてできるか、と思いながら、司会の原稿を書 くことになった。原稿は、自分たちだけで下書きをしたあと夏休み中、8月10日の午前10時に先生 のところに持っていき、添削してもらわなければならない。その日から下書きを始め、夏休み前に全て 下書きを終えた。しかし、このとき、俺は大きな見落としをしていた。そう、二人でやるのだから、原 稿は二人で分担してお互い半分だけ書けばいいのである。何で思いつかなかったんだろう、と思った。 ・・・なぜだろう。こんな仕事、どうでもいいはずなのに・・・ 「失敗」したって気にすること無いはず・・・ そりゃ、自分が楽したかった・・・ でも、それ以上に・・・ 沙織に余計な苦労をさせてしまった・・・ から・・・ このときから、少しずつ彼女のことが気になってきていた・・・ 〜〜〜8月10日・原稿添削の日〜〜〜 夏休みなのに学校に行くのか、と思いつつも、原稿を持って学校へ行った。沙織はもうきていた。二人 で先生のところへ行き、添削してもらった。すると、先生の口から、こんな言葉が出てきた。「これで いいと思うけど、どっちがどこをしゃべるのかは決めたのか?」と。決めていなかった俺たちは、いつ も話し合いをしている部屋へ行き、しゃべる場所を分担した。決めるのにそんなに時間は要らなかった。 しかし、決めた後先生にそのことを報告しに行ったら、今度は「それじゃあ、どちらの原稿を使うんだ?」 といわれた。そうだ、原稿が二つあるんだから、どちらかを選ばなければならない。「二人で話し合っ て決めろ」というので、またさっきの部屋へ戻り、二人で話し合いを始めた。沙織は俺の原稿を使えば いいのではないか、といった。しかし、俺はなぜかわからないが沙織の原稿を使いたかった。結局、二 人の原稿をまとめ、ひとつの原稿にまとめることにした。そして、まとめた原稿を二人に分担し、読む 練習をすればいいのだ。まとめる作業には約2時間かかった。先生に報告に行くと、「夏休み中、しっ かり練習するように。では、今日はこれで終わり。」といわれ、そのまま家に帰った。 また、沙織に迷惑をかけてしまった・・・ あのとき、彼女の言うとおり、俺の原稿を使っていれば、 『原稿をまとめる』、その作業にかかった時間なんて必要無かったのだ。ただ、俺の勝手な気持ちで彼女 から2時間という長い時間を奪ってしまったのだ・・・ 〜〜〜9月・運動会の日 運動会の日。この日の司会のために、俺は毎日原稿を見ながら練習してきた。本番では暗記しなければ ならないが、暗記は夏休みの間にできるようになっていた。一週間前の総練習のときは少し緊張してい たけど、今日は大丈夫。絶対に成功すると信じていた。そして、俺は運動会の間、一度もつまづくこと なく、しゃべることができた。しかし、それ以上に沙織のしゃべり方は完璧だった。つまづかないだけ でなく、言葉の一つ一つに感情がこもっているように思えた。 運動会の終了後、仕事についていた四人(俺を含む)は先生に呼び出され、「四人とも、よくやってくれ た。特に、司会の二人、すばらしかったぞ。」とほめられた。だが、俺は、二人、というより、沙織の おかげだ、と思っていた。俺のは棒読みだったような気もするから・・・ 〜〜〜11月 12月の学芸会に向けての話し合いが始まった。運動会のときと同じように、話し合いの回数は理解不 能なほど多かった。しかし、俺の中には運動会のときの「嫌」という気持ちではなく、沙織に会える、 という「喜び」の気持ちのほうが多かった。・・・といっても、やっぱり話し合いは嫌だけど。この時 も司会二人、会場準備二人が必要だった。当然、俺は司会に立候補した。きっと、今回も彼女は司会に 立候補する、今度は彼女を助けてやりたい、そう思っていた。しかし、今回はそうは行かなかった。俺 と沙織のほかに司会に立候補したやつがいたのだ。三人でじゃんけんをして決めることになったが、や はり、負け。こうして、このときも、俺は彼女に何もしてやれなかった・・・ 〜〜〜3月・卒業式 卒業式の日。俺は緊張していた。「親がいる前でこけたりしたら・・・」、「卒業証書の受け取り方を 失敗したら・・・」等々。しかし、卒業式は何のトラブルも無く終えることができた。 卒業式が終わった直後、俺はあることに気付いた。そう、沙織はまだ五年生。俺が中学生になってしま ったら、彼女とは一年間、ずっと会えないのだ・・・ そう思うと、俺は胸が苦しくなった。「一年間 も会えないのか・・・ いや、沙織が中学に入ったって、彼女に会えるとは限らない・・・」俺の中に は、彼女に何もしてやれなかったことに対する悔しさと、彼女に会えなくなる悲しみがこみ上げてきた。 こうして、俺は、彼女に何もしてやれないまま、小学校を卒業、そして、中学校に入学したのである・・・ 第二話に続く・・・