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蛙乗修行日記 - break the wall that I rebuilt -

独占禁止法は、1890年に米国で初めて制定されましたが

その100年ちょっと後の10月某日。
俺は思案にくれていた。タイヤの交換により走りは復活の兆しを見せている。しかし、いまだに30秒を切る事さえできていない。怪我の功名か走りも多少変わった手応えはあり、いい方向に持って行けるのではという期待が、前回の走行時にはあったのだが、またしばらく走りに行けず、なんだかその自信も徐々に不確かに、輪郭がぼやけて来ている。

ここは一丁、本格的に寒くなる前に、いや、この前のいい感触を忘れてしまう前に走りに行くか!そう思ってはいたんだが…。
いかんせん、締め切りが徐々に迫る仕事が忙しい。いやしかし、俺は仕事の速さには結構自信を持っている。このやたらに長文な走行日記を読めばわかるように、俺は文章を書くのも速い。そしてプログラムを書くのもまあまあ速い、たぶん(ただしゆっくりやっても品質が向上しないのが難点だ)。しかしさすがに休みは取りにくい。

ところで、なぜ走りに行くのに仕事が忙しいのが問題なのかというと、別に休日返上しているわけではない。俺は休みが大好きなのでそう簡単に休日出勤はしない。しかし、この週末も次の週末も、トミンは完全に貸し切られているのだ。土日で走りに行ける日を待っていたら11月後半になってしまう。
忌々しくも皆と俺の練習場を至って合法的に独占しているいくつかの団体の、そのひとつは今月末の梨塾なのだが、先月に参加費振込のみ参加して今月も参加できるほど俺の財務状況は芳しくない。
つまり、以上のことから論理的に考えると、俺はトミンで練習をするには、会社を休まなければならないことがわかったのだが、俺はそもそも、先月末の梨塾を食中毒で休んだ時に、会社も当然休んでいる。しかも、その翌週くらいには今度は風邪をひいてまた休んでいる。忙しい中で頻繁に休んでしまったので、常日頃から「有給は使うためにある」が座右の銘の俺様であっても、さすがに気がひける。

そんなわけで木曜の夜、残業の合間にふとトミンの予約カレンダーを見て、当面週末は貸し切りが続くことに気づいたものの、しかし結局、休暇の申請はせずに帰宅した。

この日、仕事中に水分を十分摂らなかったのが関係あるかはよくわからないが、帰りのJR中央線はいつもの混雑サラリーマン臭に加え、車両が古いのかやけに揺れが激しく、ちょっと乗り物酔いしてしまった。帰宅後、気持ち悪いのはきっと水分不足のせいだと決めて酎ハイとバーボンを飲んだが、台所の電灯をつけずに作った水割りは明るいところで見たらやけに琥珀色が濃かった。でもこれで水分補給はばっちりだろう。

で、寝て朝起きるてみると、天候不順な最近ではありがたいようないい天気。うーん、やはり…。…。おや?どうも目眩がするような気がする。これはきっと風邪が残っていたに違いない。
これからいよいよ締め切りが近づき本格的に忙しくなる時期に体調を崩しては、プロジェクトのメンバーに大きな迷惑をかけてしまうと判断した俺は、やむを得ず会社に電話した。

「どうも目眩がするので大事をとって今日は休みます」

壁は再建されていたようで

さて、トミンには13時の15分ほど前に到着した。ああ、体調?しばらく安静にして目眩は収まりつつあるのを確認した俺は、せっかくなので茨城の新鮮な空気も吸っておいた方が健康にも良かろうと思った訳ですよ。

で、さすがに平日はいいねえ!4台しかいませんよ。モンキーを交代で乗るカップル、R1000の若者、そして以前に塾で何度かお会いしているNSR250Rのあーつさん(ですよね?二つ名は)。「ガイさんですよね?」と、そろそろ慣れてきたと言いつつ、純粋日本人のいい大人が「ガイ」なんて端から効いたらバカかはたまたアキバ系かと思われないとちょっと心配な挨拶をされた時、失礼ながら顔はよく覚えていなかったのだが、バイクと名前には覚えがあった。お互い、とりあえずは牙なり爪なり水かきなり研ぎましょう。

ところで、実は今回はマイティフロッグに秘密改造を施してあるのだ。
なんと数千円程度で確実に明確に加速がよくなる、俺が大好きなその改造とは、スプロケット交換だ。つまり、ファイナルをショートにする(って表現でいいの?とにかくギヤ比を大きくする)ことだ。これはマフラーより何より、間違いなく効く。まあ引き換えに最高速が落ちるけど、250km/hくらいの最高速が10km/h や20km/h落ちても実用上何も困らない(トミンではもちろんそんな速度出ないし)ので、気にしない。
行きの高速道路では、今まではいつも5、6速を頻繁に切り替えて走っていたのが6速のみで楽に走れるようになっていて、思いがけず良い効果があったな、と思ったのだが、肝心のトミンではどうだろうか?

実はそれほど劇的な効果は期待してない(これくらいで簡単に速くなれるなら、俺はSVから6Rに変えた時点で3秒は速くなっている筈である)のだが、一方で、心配性の俺は、低速が力強くなったことでまた立ち上がりでハイサイドしないだろうか、とか、エンジンブレーキが効き過ぎてコーナーで余計に失速しないだろうか、とか、そんなこともちょっと考えつつそろそろと走り出す。

だんだんとペースを上げていく。なにせ4台しかいないので、追っかけられもしないし前に引っかかりもしない。気楽というか、自分の走りのことだけに集中できていい。いいし、ファイナルの変更も、なかなか悪くない。心配は杞憂だったようで、コーナーでやたらに回転が落ちることがないし、1コーナ−の立ち上がりから3コーナーまでの2速で走る区間で回転が上がったので駆動がかかり操作感が良い。
コーナーでやたらに失速しないのは、前回の練習の成果もあるだろう。
さらにペースを上げ、膝パッドも景気よく削れていく。
しかし…20周ほどして、P-LAPのタイムを確認すると、いいところで30秒中盤。おかしい。まあ、最初だし。前回と同じ程度か。
その後は、20周ほどの走行と休憩を繰り返す。
次の走行で30秒前半にはなったが、そこで頭打ち。おかしい。感覚的には悪くない。以前の俺の走りに比べて明らかにスムーズになっていると、自分では感じている。メインストレート(100m)でも、ちゃんとシフトインジケータが光るまでアクセルを開けているし、ほぼすべてのコーナーで膝も擦ってる。
自分の感覚的には、いつになく上手く走れている気がしているし、もちろんタイムを出そうとしているのだから本気だ。空いてるから進路もオールクリアだ。

…なのに、どうしても30秒止まり。この八方ふさがりな感覚…覚えがあるじゃないか。まさに「30秒の壁」。おかしい。ちょうど1年前の秋、確実に打ち壊したと思っていた壁は、タイヤをパイロットパワーに変えてしばらくこっち側に戻っているうちに、いつ間にかガッツリと再建されていたらしい…。

足りないモノは何? -What is needed to break the wall down? -

これはおかしい。タイヤがPパワーだった時は、タイムが出ない明確な理由があった。タイヤにでない。俺にだ。俺が、あのタイヤの接地感を信頼できなくて、バイクを寝かすこと、そこからアクセルを開けることにひどく不安を感じていたから、走っていても明らかにタイムも出てないことが理解できていた。
しかし、今は再び、全幅の信頼を置いているレンスポルトを履いているし、実際に接地感は良好だ。28秒が出ない理由だったら、わからないが納得はできる。理解できていない理由があると思えるからだ。しかし、何度となく出せていた29秒が出ないのは納得できない。

今日は、前回より遥かに頑張ってタイムを出すつもりで走っている。ラインやフォームには気をつかっているが、それもまあ俺にしてはうまくまとまっているのだからマイナス要素になっているとは思えない。

休憩しながらも、非常に悔しいし不可解だ。しかし、そう思いながら何度か走行するうちに、徐々に以前に29秒台が普通に出せていた時とは何か違うことにも気づき始めた。…どうも、ヌルい。減速も加速も、何かぬるい。タイムを削ろうと思って、出来る範囲で全開でやっている、つもりだが、どうも本当に全開だか怪しいと疑う自分もいる。何か感覚が違う。

ネガティブ・スピリチュアル・パワー - Burn It Again Now -

何かが足りない。まあ、技術的にはいろいろと足りないのはわかっているが、そういう話じゃなくて、もっと、根本的な何かが足りない。俺はもともと、眼前に追いかける敵がいないとベストタイムが出ない性質ではある。しかし、それでなきゃ30秒が切れないってことはないはず。ちょっとブランクがあったら戻って来れないほど高い壁ではないはずだ。
かつて、あるレーサーは、弟の参加する草レースを評して、足りないのは勝つ為の狂気だと語った。たしか。ちょっとうろ覚えだけど。俺に足りないのもそれか?…うーん、いやいや、それは確かに無いかも知れないが、練習で無駄に狂っても仕方ないし、狂気をもってようやく29秒じゃあなあ。

しかし、狂気はいま俺には要らないが、確かに足りないのはそういう…何か精神的な部分のような気がしてきた。技術的な問題は、地道にではあるが改善しているつもりだしその手応えもあるのにタイムが戻らないのは、「もうこれで全力だよ」と自分を甘やかしているのではないか。そうだ、そうに違いない。

そう思ったら、腹が立って来た。くそ、だいたいそんな甘ったれだからジョニーにも負けっ放しなんだよ。
この調子じゃ、このまま、「俺も一時はトミンで30秒は切っていた」なんて程度で終わるんじゃないか?

いやいやいや、そんなわけには行かない。そう思ったときに、何かに気がついた気がして、再度走行を開始した。依然、感覚的は悪くない、以前よりスムーズな気がする、けど、この狭いコースで休める部分などないんだからと、ひとつひとつの進入と立ち上がりで、少しでも速くと気持ちをより集中させて走る。と、ある時から、2コーナーの緩い左から右の3コーナーへの切り返しや、最終コーナーの立ち上がりで懐かしい感覚を感じ始めた。
…ああ、そうだ、こんな感じだった。ふと走行中のP-LAPを見ると、30.0という数値が見えた。よし、もう一息、という気持ちと、くそ、これだけやってまだ30秒か!?という複雑な気持ちになったが、せっかく乗れてきたので再び走りに集中する。

しばらく走り、集中力が途切れ(というか、体力不足のため、疲れてくると右手許がおぼつかなくなってくる)て来たのでコースアウトしてタイムを確認する。あーつさんが、今のは見ていて速そうな感じだったから30秒は切れてないとおかしいと、有り難いことを言ってくれるが、数値は30秒前半が並ぶ…と、最後の方で2本、29.8秒が出ていた。
おお!10の位が3じゃない!懐かしい文字列だ!実に…2月以来…つまり、半年以上ぶりに30秒を切ることが出来た…。前回の走行時は「次回は切れてあたり前」と思っていたが、実際に久しぶりのこのタイムが出てみると地味に嬉しい。それに、否応無くアドレナリンが大量放出されある意味「火事場の馬鹿力」が発揮できていまう梨塾の模擬レースとか、速い人に引っ張ってもらうとか、そういう外部要因の助けなしで再び30秒の壁を乗り越えられたというのが、非常に微妙だが絶妙に嬉しく、久々にささやかな達成感を味わった。

この日は、もう時間も迫っており、疲れも出て来たので、これで走行は終わりにした。
あーつさんも自己ベストが出たようで、練習はコソだけど、その成果はいずれ然るべき所で出しましょう、話して帰途についた。

結局のところ、まず足りなかったモノは…それは、ひとによっていろいろに表現するものかも知れない。しかし、俺の場合は、こう言わせてもらおう。

俺は今日確かに…小宇宙を感じた、と。

だがしかし、当然こんなところがゴールではない。まだ自己ベストには及んでいないが、しかし、乗り方自体は以前より安定している(まあ自己推定では)。そういう意味では、今日の29秒も後半とはいえ、確かに集中力は要したが恐怖と格闘して根性で出したわけじゃないので、まだ自分としても余力を感じるところがある。
流れは悪くない。一発タイムでの自己ベストは29.2秒だが、それは1LAPのみで、何度か出せていたのは29.4秒。
次回はまずこれを超えることを目標としよう。

さてさて、めでたく29秒台には復帰したガイwithマイティフロッグ。この昇り調子を維持して年内の自己ベスト更新はなるか!?あまり期待せずに次回を待とう!(TOPへ