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新・漢を磨け!俺の修行日記 -#2 Override -

そして、我がZX”バトルホッパー”6Rは復活した。

話を少し戻して、修理の経緯を。俺と同じような不運(←正確には自爆)に見舞われた人には参考にして欲しい。
バイクを壊してからというもの、いくらかでもこの出費を埋めるために、平日の生活費を切り詰めることにしていた。つまり、タバコを止めたり、昼は弁当を持参したり、飲み物はユニマットのコーヒーにしたり。
しかしこれらの実行にはたいして努力はいらない、というか昼休み出不精の俺には慣れれば楽なくらいで、月に2万近い出費を抑えている筈である。

さて、そんなわけだから出費を嫌って床屋も行きたくなかった(もともと面倒なので嫌い)のだが、あまりにオタク全開な長髪になってきたので、髪を切りに行く。そして、この日はその後にバイク屋に行くことになっていた。 もらった見積もりは、修理代44万円弱。・・・。恐ろしすぎる。
だが、これは、あちこち壊れていたので、「とりあえず完全に直す見積もりを出して貰って、そこから実際に直す部分を選択する」という方法をとった為だ。
とは言え、電話でこの額を聞いた時にはどこがどのくらいの値段かわからないので、ひどく不安だった。
どのくらい不安かと言うと、美容師さんに「なんだかすごい凹んでますね」と心配されてしまうくらいだ。
そしてこの日、実際にバイクとMAX見積もりを前に、店のスタッフと相談したのだが・・・ 結局、シートレールとブレーキレバー、いくつかのカウル、摩滅したネジなどを交換し、費用は20万円を若干切る程度。高く見えるが、殆どが部品代である。このバイクの部品は結構高いのだ。ちなみにシートレール(サブフレームって言うのかな?)は5万円弱だった。
後は、前カウルと後カウル(これは左右で分かれるかと思ったら単品だった)が数万ずつ、それにリヤフェンダー、メーター周りのステーなどが主な修理箇所だ。

まあ、タンクやシールドの傷は気になるが、それらは冬のボーナスでも貰ったら代えることにしよう。やはり、もう少し奇麗な状態で乗りたい。慣らし終わって24時間ともたなかったからな・・・。

しかし、とにもかくにもとりあえずは手持ちの現金で直す算段が付くとだいぶ気が晴れて来た。さあ、気を取り直して腕を磨かんと。と、一度は消えかけたかに思えたパッションが再び熱を帯び始める。
これくらいのことで懲りて大人しくしか乗らなくなってしまったら、スーパースポーツを買ったことさえ無駄になってしまう。そう思ったが、それはいらぬ心配だったようだ。

そして金曜日の午後。バイク屋、「ウィンドジャマーズ」から修理完了の連絡が入る。うおっしゃ。
・・・と、ここであることが頭にひっかかる。数日前にジョニーからも情報を貰っていたことだ。
確認のために、「梨本塾」を主催するSTANDARD SPEEDのホームページを見る。日曜、つまり明後日のイベント「梨耐」(2時間耐久の模擬レース)で、事情により一人だけ追加の参加者を募るとのことのことだ。
・・・明日バイクは受け取れるのだから、間に合う。元々はこれに参加する予定もあり慣らしも急いでいたのだ。まだ行ける。行くか?





俺は考えた。
冷蔵庫から缶ビールを持ってきて、画面の前で飲みながら、だいぶ考えた。いや、正確にはあまり深くは考えてなかった。思いを巡らすとでも言うべきだろうか。簡単に言うと、参加できた場合のことを想像していた。うん、これがだいぶ正しい。
しかし、その結果、俺は今回はやはり参加は見送ることにした。

まだ、バイクは戻っていない。明日には乗れる。だが、思えばまだ一度も全開にもしたことがないマシン。いまの俺に必要なのはまず慣れ、そして練習だ。耐久という年に一度の特別編であることは魅力だったが、それでも梨本塾への参加は、俺にとっては「ジョニーとの勝負」と等価である。そして今は勝てない勝負をしに行くタイミングではない。
勝てないから勝負を避ける、というのは逃げか?「やってみなければわからない」か?
それは違う。
勝てる算段のない勝負に賭けることが尊いのは、自分のできることをやり尽くしてこそだ。
俺はまだなんの準備もしていない。バイクを買っただけだ。まだなんの努力もしてないで、現状では明らかに俺よりも腕を上げた敵に勝負を挑むのは、勇敢なのではなくて傲慢だ。
(※もちろん、これは俺の、ジョニーとの漢勝負における個人的な感情であって、「梨本塾」は本来は技術の優劣に囚われずに楽しもうという趣旨のイベントであることを断っておく。俺はそこに勝手に自分なりの「意義」を持ち込んで参加してるだけだ。)

俺は、やはり、次にあのイベントで走る時には、絶対にジョニーには勝ちたいのだ。ヤツに勝つために参加したいのだ。
だから今回はパスだ。いまは根性無しとも口先野郎とも言われて構わない。ヤツにはそれを言う権利があるだろう。
だが、今回のイベント参加を見送ると同時に俺はプロジェクトを考えた。「オーバーライド作戦」である。ちなみにこれはたったいま命名した。そしてたぶんもう使わない名前だろうな。オーバーライドは乗り過ぎではなく、上書きという意味である。
その驚愕の内容は・・・今年は釣りとかはちょっと控えて週末はバイクに乗って腕を磨かんとなあ・・・、そしてジョニーに勝てるという確信を得たら再び「梨本塾」にジョニーに合わせたタイミングで参加して、ヤツを顔面蒼白にしてやろうぞ、という素晴らしいものだ。

・・・。・・・はい?具体性がない?
そんなことはない。俺はちゃんとカレンダーも見ながら考えたからな。どこにもメモったりはしてないけど。

で、無事にマシンも戻り、その最初の週末を迎えたわけだが・・・今週はとりあえず、あんまり乗れない。計画の都合上、今週にやっておかなきゃならない他の事もあるし。
が、とりあえずマシンは受け取る。久々の6Rは、それでもだいぶ見れるようになっていた。よく見るとタンクやマフラー、ミラーなどに傷があるが、カウル、フレームは奇麗になったので、新車の雰囲気をかなり取り戻していた。

メインスイッチを入れると、電気系の作動音とともにデジタルタコメーターが2周する。
おお・・・これじゃ・・・儂が待っていたのは・・・と感嘆の溜息を漏らす古老の気持ちでエンジンスタート。ドヒュン、と快調なエンジン。我が心の内なる萎びた爺はみるみる精気を取り戻す。やっぱ急いで電話して耐久出ようか?ええい、そういう場当たり的な発想がいかんのだよ俺の場合は!俺はノリで動くと怪我するタイプなんだと自覚しろ!もはや先走りの若人へと変貌しようとした気持ちを平常心に戻す。
そして発進。国道に出て、アクセルを開ける。どんどん開ける。・・・あぁ、眩暈が。
ていうか、これはつまり、俺の目がこの加速についてってないんだよな。予想を越える速度で変化する視覚情報を処理できてないんだ。人間の眼は便利に出来てて、移動の速度が速くなれば、不必要な部分の情報を落とす。MPEGの圧縮と同じようなものだ(いやMPEGが人間の視覚の特性を利用したんだな)。だが、移動速度が予想と超えているので、上手く処理できてないのだ。
それほど6Rの加速が凄まじい。という言い方もいいが、それほど「俺がまだ乗れてない」と表現すべきだろう。

そう、おそらくはそれまで俺が乗った中での最速マシン、SV400S。しかし6Rに対してはどうしたって鈍い。そのSVを降りて2ヶ月近くしての6Rの納車。それから駆け足での慣らし。次の日、サーキットに出て5分でハイサイド。・・・・。

振り返れば、いまの俺が「乗れてる」ワケがない。俺がバイクに乗るセンスは日本の全ライダーの中にあれば平均よりは上にいるかなあ?とか思ってるが、初めてのSSレプリカを1日で乗りこなす才能に恵まれていると考えるのは無理がある。

そんなわけで、まずは峠でもサーキットでもない普通の道で思う様アクセルを開けて、車体に慣れてみようと思った。いや、もちろん交通状況の制約はあるけどさ。そんなことさえ、やってなかったワケだからな。
で、雑用を兼ねて東京西部のちょっと混雑な道々を走ってたのだが・・・・いやあ・・・イイなあ・・・やっぱし。
加速は本当に素晴らしい。高回転での音もいい。気がついたんだけど、マフラーだけからじゃないのね。前方にぽっかり空いたラムエアインテークからもモロに音が出てる。このハーモニーが素敵だ。
そうだ、と思って1速を適当に引っ張った位置で若干だけ半クラッチを当てると、なんともいい感じでフロントが上がった。ほぼ停止からのウイリーでポコンと上がるのとは違う感じで面白い・・・そうか、ロードでやるウイリーってこういう感じか・・・。
バク転が怖いので遠慮勝ちな高さになってしまうし、不発になってしまうこともあるが、これはもっと練習しておこう。ヤツを倒したらウイニングランをキメたいものだな、くくく。
バーンアウトってヤツもやってみっか?と思ったがそれはタイヤが死んでしまうからな。タイヤが減ったら練習だ。ちょっと走ってやるヤツが出来れば格好いいなあ・・・。

さて、そんな風に妄想を膨らませつつ楽しく走っていると、どうもやけに頻繁にリアタイヤが跳ねるのが気になる。
まあ、マシンの性格上、ある程度以上のギャップを吸収できない硬さは当然なのだが、それにしても・・・あまりにも簡単にリヤがは跳ねて、たまに空転してる。これでは、サスがサスとしての役割を果たしていないのではないか?
そもそも、マニュアルによれば出荷時の設定で想定しているのは体重65kgとのこと。しかし、俺はどっちかって言うと短身痩躯というヤツで、体重も53kg前後だ。つまり、デフォルトで想定されているより10kg以上軽い。普通はバイクは、乗ったら機種によって多少の差はあれど若干はサスが沈むと思うのだが、それが殆ど・・・いや感覚的にはまったく感じられない。これはどうも適正値とは思えん・・・ということで、サスの設定をいじってみることにした。
フルアジャスタブルのサスなんて初めてなので、マニュアルを見ながら、慎重に行う。雑誌などによれば、こういうのは一度完全にユルユルにして、徐々に締めていったりすると変化が掴みやすいとあった気がするが、俺はそんなに手間はかけられん。だいたい、家の近所は道路の混雑も酷く、とてもサスのセッティングを走行で試せる雰囲気ではない。
そこで、俺のアバウトロジックで演算した結果に従い、ヤマ勘で設定値を決めた。まず、変更前に基準となる出荷時状態をセオリー通りマニュアルに記録した。それから、フロントのイニシャルを1段緩めた。ダンパーは前後ともテンションはそのまま、コンプレッションだけ180度分緩めた。これは、ライダーの重量が軽くなることで出る影響はおそらく、サスが縮み難く伸び易いという状況だろうと考えて、バランスをとったつもりだ。リアのイニシャルは特殊工具?を使うし、説明書にも「店に頼め」とあったので、店に行って要望を伝え、「気持ち柔らかく」してもらった。作業にはリヤフェンダーが邪魔で外す必要があったようだ。聞いたところ、540度程度緩めてくれたそうだ。

それで乗車したところ、若干変わったような気もするが気のせいかも知れないなあ・・・っていう程度で、効果はよくわからなかった。しかし、店から家に帰る道ではコーナリングもフル加速もぜんぜん無いので無理もないか。とりあえず、これで少し様子を見てみようと思う。

さて、復活の準備は徐々に整いつつある。俺のなかではマイ・バイク人生の新章突入という気分である。気合一発で走っていたこれまでのライディングに内面的に決別できるのか?それともこのまま能書きライダーに成り下がるのか?
次週、いよいよ本格的に修行開始(予定)。(TOPへ