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蛙ノ穴修行日記 - 参 -

関東ロームに隠された呪い

喫緊の課題である「29秒突破」を来年に持ち越したくない、そして、走らない期間が空くことによって感覚が鈍るのを恐れたために、クソ寒くなり、逝く、いや、行く年来る年を意識してみたりお師匠もダッシュするほどに忙しかったり、或いは、ジーザス生誕祭が間近に迫り、街角を飾るツリーに寄り添う恋人達の影が白い妖精のひらりひらりと舞い踊るを恋に恋焦がれ待っているかのようなこの時期、ピザを配るサンタクロースのトナカイならぬ三輪バイクを横目にマイティフロッグをひと吼えさせ、3週間振りにアタックスーツを装着した俺は東京外環大泉〜常磐道土浦北へ向けて俺は走り出したのであった。

アタックスーツ(=ツナギ)の中にTシャツ2枚と腹巻を装着したが、まだ寒そうなのでさらに上からアーミージャケットを羽織る。いわゆる「N3B」というヤツで、もこもこのファーでトリムされたフードが付いている、かなりあったかいモノだ。襟元には「EXTREAM COLD WEATHER」とか書いてあるし。(しかも10年以上前の高校生の時に買ったヤツだし。ケチだな。)フードは高速で膨らみそうだと心配したが、厚手の生地だからか、実際にはバタツキはさほど気にならなかった。たぶん時速200キロくらいまでなら。

ただし、その厚手のフードが首の後ろにたまっていると、ヘルメットの後部が引っかかる。前傾の厳しい6Rでは、これが予想以上に顔を上げにくくし、頭を上(前)に向けられないので体ごと無理に起こすことになり、背筋を反らせた変な姿勢で乗ることになってしまった。暖かいし、ポケットが多いのは助かったのだが、今度からは違うのを着よう・・・。

今日は天気も快晴。
姿勢が変でなければ非常に爽やかに走れたはずのいい日和だ。ほどなく着いた土浦北のインター出口はいつも通り空いている。
これもいつものように、カードで料金を払っていると、料金所のオヤジが声をかけてきた。

「これはすごい綺麗な色のバイクですね。鮮やかで・・・」

・・・お?

フフフ、わかるかね、君にもこの色合いの素晴らしさが。これ以上白が入れば眠たい、しかしこれ以上黒が入れば落ち着き過ぎる絶妙な明度。そして、下品にならない限界の鮮やかさの彩度に、冷たすぎない温度と瑞々しさを湛えた色相。例えるなら、梅雨の晴れ間に輝く硬い稲穂の青さではなく、その下の黒々とした土を覆う清冽な水に泳ぐ若いアマガエルの背中である。格好いいのか悪いのか。とにかく、俺はこの色合いに惚れて購入を決めたのだよ・・・とほくそ笑みつつ、二言三言の言葉を交わしていざトミンへと向かった。

コースには、この寒い時期にしては結構な台数がいるな、と思ったが、それらの大半は午前に走ってこれから帰る人たちで、中には何人か見知った顔もあった。
NSRで27秒に挑むTAKさんは、今日は0.1秒しか縮まらなかったと悔しそうだが、250で28秒中盤はかなりのものだ。ライバルと呼んでもらったものの、完全に一歩前を行かれている。
初秋の梨本塾で会ってから時折ここの掲示板にも現れてくれるIXYさんとIGAさんも来ていた。彼らはちょうど塾に初めて出た頃の俺とジョニーのように、あれから何か目覚めてしまってお互いをライバル視しつつ練習に余念がないようだ。いや、その入れ込みようはあの頃の俺より遥かに熱心だ。この日からハイグリップタイヤを入れて、タイムも既に30秒フラット近く。うかうかしてると喰われてしまいそうだ。

さすがに今年は俺も結構ここに通ったので、ほかにも挨拶をする相手が何人かいるようになった。俺は狼(※今は昔の動物占いによる)。馴れ合わないのがモットーだが、まあ、こういう状況も興味深いというか、楽しいね。えへ。現場で見ると俺は楽しそうにしてないように見えるだろうけど、実は楽しいんですよ、皆さん。まああまり感動を顔で表現しないタイプなのです。

この日はさらに、梨本塾のトップ2と言える二人まで現れて、これはいい勉強が出来そうだ・・・という期待が高まる。

さて、それはそれとして、走る。
今日は、立ち上がりの目線と、以前はなんてことなかったのに最近になってメタメタになってしまった左ヘアピンのラインに注意するという課題を考えていた。

しかし、それはともかく、どうもよくない。なんだか体が堅くて、思うように曲がれないし、アクセル操作もギクシャクする。せっかく梨塾トップ2の一角、ロッシ(と俺が心の中で呼ぶ佐藤さん)がたまに先導してくれるのに、だいぶ・・・たぶん29秒後半まで落としてくれているペースにもろくに付いていけない。ああもったいない。
しかし、しばらく後ろを走っていて思ったのは、およそ27秒ホルダーに先導してもらうといつも思うことだが、「えらく簡単に見える」ということだった。
造作なく減速し、曲がり、加速して行く。マシンの挙動も体の動きも妙なところがなく、とても簡単な操作をしているように見える。だが、後ろで走る俺は、減速でタイヤがホップしたり、無理に寝かそうとしてバランスを崩したりしながら走り、なるべく同じラインをとっているつもりで同じような位置にクリッピングポイントをとっても、そこを通過するときのマシンの向きが明らかに外を向いている(つまり曲がってない)。なので、俺はその後まだマシンを曲げなければならず、当然アクセルを開けるのが更に遅れて立ち上がりでえらい差がつく。あっちは本気の全開にしてないのだから、これはもう、マシンのパワーやそういうことは関係ない。ていうか、そう、明らかに曲がってないのだ。

結局、ゴタゴタ言ってもバイクを旋回させられてないから俺は立ち上がりも遅れるのか、と思った。前よりはマシになった、だが、まだまだってことか。

それにしてもこの日は調子もイマイチだった。全体の中で29秒台に入っている本数も少ない。それも後半ばかりだ。路面はドライで、混雑もそこそこ。もうちょっと出てもいいのだが・・・。

そして、こういう調子の悪い時ほど、余計なことが気になるものだ。つまりは集中できてないのかも知れない。雑誌の記事で、ZX6Rのステップ形状が滑りやすくて良くない、と読んだのを思い出した。俺はテスターみたいにいろいろ乗り比べないから気にしてなかったが、確かによく滑る。溝が主に横方向に切ってあるのと、端っこの盛り上がった部分には溝がまったく無いのが良くない。特に、底が硬くてフラットなレーシングブーツで、濡れてたりするとやけに滑る。滑る滑ると考えていたら、「内足が滑ってリヤタイヤに絡まったら大怪我するよ」等と現実味に乏しい心配まで頭を過ぎる始末。
俺には、実はこういう心配性なところがあるようなのだ。

で、実際この日はコース外にぬかるみがありブーツに泥が付いていたからか、それともネガな自己暗示にでもかかったか、最終コーナーで旋回中に外足を滑らせて完全に踏み外し、そのままひざ裏をシートに引っ掛けた状態で立ち上がり「おお、これが有名な『マモラ乗り』か!」などと妙な感心する羽目になった。・・・いや、タイムが上がらないのをステップのせいにするのは良くないが。使い心地が悪いのは確かなので、予算ができたら交換したいものだ。

一度、1コーナーに向かって行った時にギヤ抜けし、対処が遅れてコースアウトした。いつもなら、それだけのことなのだが、この日はその部分は大変なことになっていた。

関東ロームという言葉をご存知だろうか?

1万年ほど前の、富士や箱根の噴火による火山灰などが、偏西風に乗って東に運ばれ、広く関東平野に積もったものである。火山由来で鉄分を多く含み、それが酸化したためにいわゆる「赤土」となって安定した地盤となっているものだ・・・。さて、俺が思うに、トミンの周囲はおそらく関東ロームである。国道6号を逸れてトミンに向かう道の両脇は広大な畑と芳しい家畜臭(とシールドに張り付く大量の虫)、そしてやけに真っ直ぐな道でプチ北海道の風情だが、そんな風に農地に適しているのも関東ロームの特徴だ。

しかしだ。トミンのミニサーキットは、行ったことがあればご存知だろうが、周囲の土地より数m低いところにある。駐車場や本業の教習コース、となりの林などから1、2m以上低いのだ(3コーナー付近には更に低い谷地がある)。
そして、これも俺の推測であるが、そのために1コーナーから3コーナーにかけては、関東ロームの下に広がるより古い地層(土というか岩というかの層だね 資料)が露出しているのだ。そしてそれは、専門家には竜ヶ崎層と呼ばれるものではないかと思われるのだ。この層は、三角州などの環境で堆積したらしく、三角州のような流力の弱い場所では細かい粒子が選択的に積もる。そうすると・・・って、なぜそんな話をいきなり?とお思いでしょう、そろそろ。

つまり、粘土質なんですよ。

普段なら、コースアウトしてもそのまま、後続車に気をつけて戦列復帰すればよい話だ。だが、この日は、前日の雨でぬかるんだ粘土にタイヤを取られ、完全に制御不能。溝にはまってなんとか転倒は避けたが、ぐちゃぐちゃの粘土に溝なしタイヤがスタックして、まったく動けなくなってしまった。

助けてもらって脱出したが、泥だらけになってしまった。(梨本塾のトップ2のお二人、ありがとうございました。泥が・・・。)
この泥が、ただの泥ではない。先に言ったように粘土だ。助けてくれた(そして本人も少し前にはまった)”帝王”曰く「乾いたら取れなくなるよ」。うむ確かに。コイツは危険な気配だ。すぐにホースで洗い流して、気を取り直す。

その後、しばらくは泥で滑るタイヤにビビリながら(もちろん可能な限りはコース外で落としましたよ、社会人の責任として)も、また徐々にペースを上げるが、イマイチ感は拭えない。

結局この日の最後。
もう今日はタイムは諦めよう、と思いつつ、しかし時間いっぱい走って最後の一周。1コーナーで抜いた車両が妙な動きをしていたので、気になって出口で振り向いた。いや、邪魔されたとかそういうことは全然なくて、ただ、ふと目線をそっちに送ってしまった。そしたら出口で膨らみ、また30センチほどコースアウト。・・・・そしてそこにも粘土地獄が。

今度は堪え切れませんでした。幸い、粘土の上に滑るように倒れたので、大きな破損はなかったものの、2003年の締め括りも結局、しょうもない転倒でバイクとアタックスーツ、ブーツをドロドロにして終わったのであった。

いいさ、今年はこういう年だったんだ。来シーズンこそは。

・・・しかし、極度に寒いのに弱い俺はしばしの冬眠に入る。今年は結局、みなさんの表向きの期待(ジョニーに勝つ)には応えられませんでした。真の期待(転倒、トラブル、負け戦)にはよく応えたと思うんですが。来年こそはみなさんの真の期待を裏切ります。(TOPへ