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蛙乗修行日記 - still it's going on.-

さて。ひさびさのレポートである。
レポートを書くのは実に半年ぶりくらいだ(アップロードは1年近くぶりか?)。

2月にジョニーが日本を去ることにより漢勝負がひとまず決着してから、いくぶん気が抜けていた。
決着は俺の完敗であり、やがていつの日かの雪辱を誓う俺としては練習に励まなければいけないのが道理ではある。
でもね。やっぱりね。

いざ、一区切り付いて、ここ3年のバイク関係の出費とか冷静に考えるといろいろとね。ちょっと、「アレ?おかしいな?」と思ったりもね。
なんか、漢勝負がその舞台をツーリング中の競り合いから「梨塾」に移してからのいろいろな変化は、いろいろと刺激的で、悔しい思いを何度もしながらも、愉しくもあった。タイムは伸び悩んでるけど、それでも以前にくらべれば確実にバイクの腕は上がったし、いろいろ知らなかった世界を垣間みたりすることも出来た。
でも、思い返すに、けして高給取りではない自分の現実に照らし合わして、そのままどこまでもエスカレートして行けるものでもない、という現実的な気持ちもある。

これまでの出費…車両はともかく、大小の転倒修理、頻繁に替える高級オイルと高級タイヤ、トミンを走るための費用、これらは恐ろしくて計算する気にはなれない。もちろん、世の中には、プロレーサーでもないのに俺の何倍もの投資をして走っている人がたくさんいることも知ってる。けど、上手くはなりたいし、いつだって目の前を走ってるヤツに負けたくないという感情はもちつつも、最終的には「レースが好き」というよりはむしろ「バイクが好き」な俺には、これまでの出費もおおいに頭痛の種だった。
ZX-6Rの(ちょっと微妙な)格好良さ、痛快な走りはとても気に入っているが、足が付かないことと前傾のキツさから来るツーリング時の不便さにはちょっと困っており、正直、これ以上コイツに金はかけずに、もう少し万能なマシンに買い替えたい気持ちも湧いている。

とはいえ、これまでのことは後悔しているわけではない。ただ、つまらない言い方になるが、楽しみで走るなら、経済的にも楽しみですむレベルでバランスをとっていかないと行けない。
そんなわけで、練習のペースは落とすことにした。

ただ、見えてきた「世間のレベル」というものに対して、いまの自分のタイムはとても納得できるものではない。こんな程度で終わっては、それこそマイティフロッグが泣いている。このサイトを見てから来た、というような人たちに梨塾で負けっぱなしというのも悔しい。
なので、結局、ジリジリと修行は続くのであった。

今回は3本立てで参ります。

7月。ニュースペックのタイヤでGO!!

7月初旬に、2月以来、久々にトミンに走りに行く。
実は理由があった。7月には、梨塾の特別番、「なし耐」があるのだ。なし耐は、2人でチームを組み、30分交代の4本、計2時間の合計ラップ数を競う耐久レースだ。基本的にはいつもの梨塾の延長で、相変わらずツーリングファッションで参加可能な気軽さだが、やはりチームを組み、1日かけて予選、決勝と行い順位を競うということで、いつもとは違う盛り上がりを見せる。らしい。

そう、実は俺はなし耐にはまだ実際に参加したことはない。なし耐は俺にとってはいわく付きだ。
2年前。俺が梨塾に初めて参加した年、漢勝負が激化した年。もしかしたら、なし耐は第1回開催だったかも知れない。その時、俺は参加申し込みをもちろんしていた。特別イベントだし、いつもより一人あたり参加費が安くなるのも魅力だった。しかし、特別日程であることをすっかり見落としていたことが俺の誤算であった。
通常の梨塾同様に月末開催だと信じ込んでいた俺が、7月第3週のなし耐当日、ジョニーから電話がかかってきた正午前にいた場所は、土浦のトミンサーキットではなく竹芝桟橋のホテルのレストランであった(別の重要な用事を入れていて出掛けていたのだ)。
俺のなし耐初参加は、申し込みのみで幕を閉じたのであった。

そして1年前。再度やって来た夏の祭りを前に、納車したての、我が初大型マシン、初の最新モデル新車購入、そんな俺のプチドリームエクスプレスと呼んでいいZX6Rは、「車体に慣れるため」と言って出掛けたなし耐2週間前のトミンでフレームまで逝く大ダメージを受け、再び俺のなし耐挑戦の道は閉ざされた。
2週間という期間は、さすがに俺の精神的ショックを十分には癒してくれなかったのも事実だったし、また、予算を打ち合わせながらの修理が間に合わなかったのもまた事実だった。

そして迎えた今年の夏。もはやトミンにジョニーは現れないが、俺にはまだやらねばならないことがある。春からそう考えていたなし耐がいよいよ近づいて来ていた。
ジョニーとの勝負はないが、やはり走るからにはなるべく速く走りたい。それに、ジョニーとの勝負のために参加していたような梨塾ではあったが、その中で、ジョニー以外にも負けたくない相手というのも何名か意識されるようになっていた。

準備として、まず俺がやったことはタイヤ交換であった。履いていたレンスポルトは、昨年の秋に入れて以来、何度となく繰り返された修行によりだいぶ消耗している。さて、何のタイヤを入れようか。初めて使ったハイグリップタイヤ、メッツラー・レンスポルトは実に良かった。となると、他のハイグリップタイヤも気になる。昔からへそがあらぬ方向に向いている俺は、どうも確実に良いものを見つけるとそれ以外が気になる。みんなが気づいていないダークホースがあるんじゃないか。ギブミーサプライズ、and I will surprise you. そんな気分だ。例えばミシュラン・パイロットレースとかはどうだろうか?ダンロップは?ピレリとかちょっとマイナーでいいかな?

そんなふうにつらつらとタイヤメーカーのサイトを検索していてふと目に留まったのがミシュラン・パイロットパワーだった。このタイヤは、いわゆるレース向けのハイグリップタイヤではない。が、公道をターゲットに置いたタイヤの最高峰として新たに開発され、モトGPタイヤの技術をフィードバックして作ったとかいう、卓越した温まりやすさと軟らかさがウリ、なんといってもモトGP常勝ミシュランの新主力商品だ。しかも、それだけスポーツ性を追求しながら、スポーツバイクにスタンダードで評判も高いパイロットスポーツを超える雨天時の排水性をも確保しているという。パターンの見た目もスピード感溢れる斬新なものだ。
ちょっと値段が高いが、なんかいいじゃない。これなら、ツーリングとかで雨に降られても安心して走れるんじゃないだろうか?
もっともスポーツ度の高い公道タイヤ、とは言え、やはり公道タイヤ、レースをメインターゲットにしているレンスポルトより絶対的なグリップは劣るだろう。しかし、どのみち俺のタイムはまだタイヤを制限要因とするのは気が早いし、ま、若干悪くなるくらいないら上達することでカバーすればいいや。ジョニーとの勝負はないし。
バイク屋のスタッフに聞いても、本人は未装着らしいが、付けたお客さんの評判はいいとのこと。寝かしやすいとか、不安がないとか。また、疑り深い俺はさらに、ネットで検索し個人ページでのインプレも探してみた。いずれも、温まりやすい事、寝かしやすく、グリップに不安がないことを報告している。悪い話はない。ふーん、良さそうではないですか。

そんなことを考えて、結局、パイロットパワーを装着し、そのタイヤの様子見と、なし耐前の腕ならしのつもりでトミンを訪れていた。

さて、当日は天候にも恵まれ、青空の下で久しぶりのトミンを走ることができた。というよりは、むしろ季節柄、あまりにも容赦ない日差しのもとで目眩を起こしそうになりながら走ることとなった。それでも朝一本目の10分ほどの走行のうちにだいぶ感覚を取り戻し、徐々にペースがあがっていく。それでもまだラップタイムは31秒ほど。とはいえ、まだ余力は残しているつもりだし、ニュータイヤは噂に違わず寝かしやすい気がしていた。よし、そろそろ本気で…、そう思った矢先、右の第三コーナーを立ち上がりでリヤタイヤが流れ出した。え?一瞬、1年前の悲劇が脳裏をよぎるが、ここはそのままきれいに(?)スリップダウンすることができた。
おかしいなあ。暑さでぼうっとしていたのもあって立ち上がりでのアクセルの開け方が少しラフだったかもとは思うが、転倒するほど雑だったつもりはない。まあ、不幸中の幸いと呼んでいいかどうか微妙な線だが、破損状況はブレーキレバーの曲がりと右ステップ折れに止まっている(カウルやマフラーの傷はもう考えないことにする)。

この日、その後も走行は続けたが、どうも気合いを入れて走ろうとすると接地感が乏しく不安があり、あまりペースを上げることはできなかった。きっと右コーナーの続くコースで右ステップが折れて短くなっているせいかな?と考えてとりあえず納得することにした。

雪辱どころか屈辱のなし耐

転倒を喫した「腕ならし」のおよそ2週間後。ステップとブレーキレバーは無事に修理が済み、一時は「二度ある事は三度」に嵌りかけたが、なんとか三度目の正直の方向に軌道修正し、遂になし耐に参加することができた。
今回は、掲示板で声をかけてくれた梨塾常連のけんじさんとチームを組んでいる。R6に乗る彼にはマイティフロッグに乗ってからの梨塾で一度競り勝ったことがあるが、総じて言えば彼の方が俺よりちょっと速い。故郷の北海道手稲をこよなく愛するグッドガイであり、ジョニーと違っていい人であるが、やはり勝ちたい相手の一人ではある(今回はチームメイトだけど)。

当日は、自分の体力の無さと、溝付きタイヤのアドバンテージからむしろ曇り時々雨くらいを望んでいたが、知る人ぞ知る雨男の俺はまた同時に、期待するように物事が進まないことでも名高い男であり、思い切り晴天に恵まれてしまった。
ま、とはいえ、青空はやはり気持ちいいし(柄じゃないとか言うな)、暑い方がより「耐久」気分を満喫できるというもの。結構、愉しい気分でいよいよ走行が始まった。

普段の梨塾は一日のフリー走行の最後に20周(トミンでは10分程度)だけ競争だが、この日の「なし耐」は、朝イチのわずかな時間だけが練習走行で、あとは一日かけて競争だ。その朝イチの走行で、ボチボチと10周くらいかけてペースを上げて行くと、あっけなく30秒フラットあたりまでタイムが詰まった。
一応、自己ベストは29.2秒だが、それはハイグリップタイヤを入れてからのもの。純粋に公道用のタイヤでは実はまだ30秒を切ったことがないので、俺は密かに、それを今日のひとつの目標にしていた。この分だと、それは思いのほか簡単に達成できそうだ。

相方のけんじさんは、R6から乗り換えたCBR600RRでガンガンに攻めている。買ったばかりの筈なのにすでにマフラーとバックステップが換装済みで当然レンスポルトが入っているのにも驚いたが、それ以上にこの日の走りは突き抜けていた。実際、タイムも28秒台を連発しており、なんだかワンステップ上のクラスの走りに見えた。
まあマフラーとステップの効力はトミンではおまじない程度かと思うのだが、タイヤの差はあるので今日はけんじさんには敵わないな、とは正直なところ思ったが、まあ俺もこのタイヤなりのいい走りをしたいところだ。これでレンスポだったら28秒台だな、と云われるような。

そんな意気込みでの予選タイムアタック。まず一周目、少し様子見で走るが、なかなか感触はいい。実は前回の練習の時から少し乗り方を変えていて、それがいい感じだ。まあ簡単に言うと、無理にバイクを起こしたまま旋回しようとしないように心がけていたのだ。立ち上がりでアクセルを開ける時に起きてればいいのであって、曲がる時には寝かしていいと。どうせ俺がどんなに思い切り寝かしてもたぶん、単純な角度としてはマシンやタイヤの限界を超えることはなかろうと開き直ってみたのだ。

バンクセンサーの擦り方も自然になったように自分では感じる。よしよし…と思っていたのだが…あれ?あれれ?
どうも、いよいよ気合い入れてタイム出すぞ、と思ったあたりからなんか寝かことに不安を覚え始める。コーナーに入り、すっと寝かしていった時に、ぬるっと接地感が抜けるような気がして、びくっとしてマシンを起こしてしまう。あれ?俺、びびってる?いやいや…しかしなんでこんな怖いんだ?

そんなこんなで10周程度のタイムアタックは終わり、結果、俺は序盤に出した30.1秒くらいがベストラップとなった。後半は31秒中後半のタイムだ。やはり実際のところタイムも落ちていたということだ。

どうも雲行きが怪しい。いや、天候は嫌になるほど快晴で既に脱水症が心配なくらいだが…。

結果、けんじさんの好ラップもあり、決勝はAクラスで走れることにはなった。それはひとまず安心したが、どうも不安が拭えない。こないだの練習での転倒といい、このタイヤ…もしかしてあんまし良くないのでは…。そう言えば、このタイヤは今年の早春に発売されたもの。寒い時期の評判しか聞いたことがない。「すごいあったまりやすい」。冬の公道走行でもすぐにあったまってほどよく溶けるとか言ってた個人サイトもあったような。
だとすると、熱帯と呼んでいいような炎天下のサーキットでエア圧を下げて1速全開加速を繰り返すような走りをするとどうなるのであろうか?

…いやいやいや。そうやって寒い時期から暑い時期まで対応できる懐の深さこそが公道用タイヤの強みなのだ。きっと気のせいだ。溶け過ぎてぬるぬるするなんてのは。確かに、見た目にもちょっと激しく溶けている。けど…。

けんじさんが昼飯のお供に買って来てくれた梅干しが酸っぱい。しかし、たぶんこのとき、俺は蜂蜜を舐めていても酸っぱい表情をしていただろう。



そして迎えた決勝(2人で4ヒート、だから俺自身は午前午後の二度走る)。
身長の低い第一ライダーのけんじさんは、ルマン式のスタートに不安を口にしていた(またいで発進までの一連の動作が苦手?ならしい)が、実際にはなかなか鋭いスタートを見せ、自己ベストを連発しながら、これまでにはひとつレベルが上だったライダーを追い回す走り。
最終コーナーの立ち上がりではアクセルを開け過ぎたか時折、大きくリヤが流れて車体が振られるシーンもありながら転倒はせず、見ていた塾長もその成長ぶりに感嘆の声を上げていたほどだ。
当然、俺も気合いが入る。気合いは入るのだが。
いざ、2ヒート目、第二ライダーである自分の順番だ。
2ヒート目以降はローリングスタートというのだろうか、まず全員コースに出て隊列で走り、そのままスタートする。
で、コースに入り、走り出すと、意外にも両輪のしっとりした感触に「やはり自分の思い過ごしか」と安堵を覚える。よし、気を取り直して行くぜ!と思っていると、徐々に失われていく接地感。
あれ?やっぱり何か変じゃないだろうか…。渾身の走りをするも、次々に抜かれていく。そして俺は誰も抜いていない。周回遅れ(一周30秒のトミンではすぐに発生する)にも合わない。逆に、俺が同じ人に何度も抜かれている。つまり、いまコース上で俺が一番遅い?

そう気づくと、頭に来るモノがある。ちきしょー舐めんな、と気合いを入れてブレーキングすると後輪がグリップを失いダダダダッと跳ねる。あまつさえ、フロントにウニュっとした感触を感じて、慌ててブレーキを緩める。進入したコーナーで、体をオフセットしてマシンを寝かす、と、なんとも足下が心許なく、一定以上寝かせられない。少しでも後輪に過重をかけておきたいのと、頼りない接地感をケツで感じ取りたいために、シートからケツをあまりずらせない。バイクが寝かせられなくて、体もオフセットできなければ、当然バイクは曲がらない。ケツはずらしてもリヤにしっかり体重をかけるとか、滑らせながら走るとか、そういうソリューションが世の中に存在することは想像したが、残念ながらその時の俺にできたのは、リーンウィズに近いフォームでノロノロと旋回することだけだった。

なんとか無事に炎天下の30分を走りきり、滝のような汗と熱がツナギとヘルメットの中にこもっていて、グローブを外すのももどかしい。溺れかけた人が水から顔を出して必死に呼吸する時のように、わたわたとすべての装備を投げ捨て(ただしパンツは捨てない)、水分をとる。
この時のポカリスエットは、仕事の後のビールを遥かに上回る美味さだ。この日、走りではいいことはなかったが、これだけでもまあ価値はあった気がするほどだ。

いくら真夏でも30分くらいで、と思う人はきっと認識が甘い。バイクに乗ったことがなくてここを読んでいる人はあまりいないと思うが、バイクに乗ったことがあるとしても、道路を走っているのとサーキットを走っているのは全く違う。道路でバイクに乗って疲れたら必要になるのは肩凝り眼性疲労に効くキューピーコーワ i だが、サーキット走行の後で必要なのは筋肉痛に効くバンテリンだ。そういう違いがある。
また、トミンは1周が30秒しかないミニコース。逆に言えば、ほとんど直線がなく、常に1速全開加速、コーナリング、フルブレーキを繰り返している状態なわけで、ひとの話によると「もてぎ」みたいな本格的なサーキットを走るより単位時間の疲労は激しいそうだ。
まして、俺は自慢じゃないが体力の無さには自信のある「仕事は指先」 な自称ハードコアIT野郎だ。いそいそと日陰を求めて教習用(?)の大型トラックの下に倒れ込み、しばし放心する。(*トミンは本来教習所で、そこにミニサーキットが併設してある)

しかし、一息ついてP-LAPで記録されたタイムを見ると、これがまたヒドい。一応、ずっと全開で走っていたつもりなのに、33秒台まで出ている。SV400Sでの初参加時以下のタイムだ。あり得ねえ。

午後のセッションでも、けんじさんは快走する。見ていてチームメイトながら悔しい。俺が落とした順位をだいぶ挽回してくれている。嬉しいが、やはり自分がディスアドバンテージになっていることが悔しい。

そして、自分の二度目の走行。最終ヒート。
走り始めは「お、行けるかな?」という感触、そして数周するにしたがって接地感が希薄になる。朝からの繰り返しだ。これは果たして精神的なものなのか?
いや、けっしてそうではないはずだ。確かに、感触が変化している。

怖くてマシンを寝かせなくなった俺はほとんど膝を擦る事もなく、すべてのライダーに抜かれまくり、さながら走る緑のシケインと化しながらも、ひたすらスリップダウンの恐怖と戦いつつ、腰のひけた走りでラップを重ねる。
何度か、ええい、ままよ!とヤケクソでペースを上げようとしたが、すると実際に旋回中にリヤが流れることがあり、しかしそれは残念なことに俺の技術で制御できる挙動ではなく、思いっきりペースダウンする結果しか生まないのであった。

転倒はまずい。バイクを壊してはいけない、というのもあるし、しかも今日はチームなのだ。好調のけんじさんの足を引っ張ることになってしまったのは申し訳ないが、しかし順位を落とすどころか「リタイヤ」で終わらせてしまっては論外だ。リタイヤはビリより下なのだ。
次々に抜かれて何度もヤケクソになりかけるたび、そう思い直して極力冷静に走り続けた。
チームでの耐久だから無理しない、というのはもしかしたら自分への大義名分だったかも知れない。しかし、たぶんそのお陰で俺は再びマシンを壊すことにならずに済んだと思う。
そうして俺は、悶々としながらも一応無事に一日の走行を終えた。

この日、決勝レース中にマイティフロッグのP-LAPに刻まれたタイムは実に、31秒から33秒で、平均的には32秒前半程度だろうか。はっきり言って、SV400Sで初めてトミンに来た頃のタイムである。
無事完走はしたものの、チームメイトのけんじさんの素晴らしい走りと対照的な走りでなんともほろ苦い夏の想い出を作ってしまったのであった。

…結論としては、俺はやはり、パイロットパワーは高温に弱いのではないかと思う。いままでにない軟らかさと温まりやすさが売り物の公道用タイヤだが、真夏のサーキット走行という状況では設計が想定した温度の範囲を超えてしまうことがあるのではなかろうか?
いや、もちろんいきなりバラバラになってしまうようなものではないし、もっと上手い人なら、タレて来たなと思いつつコントロールできる範囲なのかも知れないが、俺のレベルでは残念ながら、接地感の減少は致命的な不安材料にしかならなかった。



…いやさ。こんなこと言えば「言い訳してんな」と言われるのはわかってますよ。そりゃ、腕があればもっとなんとか出来るんだろうからそういう意味では言い訳ですよ。でもね、悔しいけど俺はそんなに乗りこなせてないのよ、マイティフロッグを、118馬力を。だからこそ、タイヤには安心感が必要なのよ。
だってさ。俺だって初めてサーキット走った時こそ「タイヤってこんな溶けるんだ!?」と驚いたものの、今ではそれも見慣れましたよ。こういうとこで走ればそんなもんだって。
でもこんな↓スプラッターな溶け方はちょっと意外ですよ。イエス!高須で整形が必要じゃねえのか、という醜さですよ。くそ、誰だよ「溶け方もきれいです」とかインプレしてたヤツは…(個人サイトに文句垂れてもお門違いなのは承知してるけどさ!)。

ワンモアトライ with メルティ・ラヴ,September

さて。
一応全力は尽くして完走はしたという僅かな達成感と、大枚はたいてタイヤ選択に失敗し、その結果、いろんなヤツらに負けたというガックリ感で複雑だったなし耐の後。
期待して入れたミシュラン・パイロット パワーだが、もはやまったく気に入らない。ドロドロに汚く溶けた部分は、しばらく普通に使えば削れてなくなるだろう。山もまだ七分程度はある。けどもういらない。俺の中ではこれはタイヤじゃなくて焦げたところてんか、うんこだ。

しかし、そうは言っても、マイティフロッグに装着されるタイヤはだいたい、値引きがあっても工賃を入れれば前後でまず5万円はくだらない。冒頭で書いたように、金がないのだ俺は。そんな頻繁にタイヤ交換はできない。

次に買うタイヤはまたメッツラー・レンスポルトにしよう。だいたい、溝がほとんどないって言ったって、実際のところ俺はあれで土砂降りの首都高も走ったし。100km/h 程度で普通に走る分にはまったく問題ない。
しかし、まだしばらくはパイロット パワーで走ろう。だいたい、普通に道路で走っている分には確かに温まりやすいし、ツーリング走りでも軽く溶けるくらいなのでグリップは良い。
俺は別に来月にタイトルのかかったレースがあるってなレーサーではないのだから、そんなに焦らなくてもいいのだ。次に買うべきタイヤはわかった、ということで、今は今使っているタイヤで練習する。これで上手くなっておけば、タイヤをまたハイグリップにすればタイムはついてくるさ。

そんなふうに考えながら、忙しかった8月が過ぎ、9月。残暑はきびしくも、風はだんだんとサラッとした心地よさに変わり始めていたある日。
ちょっとしたきっかけもあり、また、やはり「ハイグリップタイヤを使わずに30秒を切る」をやっておきたいなあ、と思ったこともあり、再びトミンを訪れた。今回は普通のコース開放の日であり、練習に来たのだ。
再び少し久しぶりのトミン、天気もよく、土曜日で混雑を予想していたが、意外と空いていた上に自走組が多く、景色は広々としていた。トランポは便利だし、できれば俺も欲しいところではあるが、雰囲気としては、トミンの狭い駐車場がトランポで埋め尽くされ、レーサー仕様みたいなマシンが白煙を上げてチューニングしているよりは、こういう方が好きだ。いや、ひがみではなく。

実は、少し気温が下がって来たので、これならパイロットパワーも調子いいのでは、という期待をもってこの日は走りに来たのだが、なにげに天気がよく暑い。ツナギの下にTシャツを来ていたら暑かったので、ずっと上半身は抜け殻状態で走ってきた。
で、その結果、走行中にTシャツがまくれて風の直撃を受けていた腹が冷え、ゴロピーになってしまった。ふふふ、秋を感じるじゃないか。

トミンはコース管理のアバウトからすると意外なほどにトイレはきれいだ。どうせ周囲にはもっさいバイク男ばかりしかいないので、トイレの前でツナギを脱ぎ捨て、腹の問題を「解決」する。

それから、すでに走行時間になっていたが、朝からまだ何も口にしていなかったので、菓子パンとジュースで昼飯にしつつ、しばらくコースを眺めていた。うむ、いける気がしてきた。いつものことだが、走る前はなぜか、「今日はすごいタイムアップするんでは」という気がする。自分でも不思議だ。いったい何の根拠があるんだろうか?
走り始めて最初は体ならし、徐々にペースとバンク角を増していく。と…ダメだ。なし耐の後は感じることのなかったぬるぬる感がやはり蘇って来た。
まあ、今日はどうせ練習だし、タイム以外の目的もあるからそれを練習しておこう、と気持ちを切り替えて走る。
タイム以外の目的とは、ライン取りだ。ライン取りが重要なことは以前からわかってはいたが、俺はその問題への取り組み方を間違えていたと気づいた。

つまり、ジョニーに教えてもらったり、梨塾の上級者に見せてもらった「速いライン」を、イメージ的にはチョークでコースに一本の線として引き、それを踏み外さないようになぞればいいと思っていたのだ。
しかし、そのラインは、その乗り手がそのバイク、テクニック、ペースで走って初めてベストとなるライン。バイクはまあ似たようなものとしても、ペースが1割以上も遅い俺がそのまま俺がなぞれば良いというものではない。で、実際のところ、うまくなぞる事ができず、進入は真似したラインを通っている筈なのに、旋回、立ち上がりとなるとなぜか全然別のラインになってしまうという問題に悩んでいたのだ。
で、気づいたことというのは、単純なのだが、教えてもらったラインは、確かにトミンを速く走れるベストラインとして意識はしておくが、いま自分が走るべきラインは自分で考えなければならないということだ。自分でより効率よく走れるラインを考え、そのひとつの最終形として、あのラインがあると。そういう意識で走ることにした。

このように考え方を変えて実際に走り出すと、ラインの決め方も違うということに気づいた。いままでは、線をなぞるわけだから、進入の線がまずあって、そこから出口へと線を辿る、つまり線は入り口から出口へと伸びていたのだが、自分で考えようとするとまず立ち上がりで通りたい場所があるわけだから、そこを通れるように入り口まで線を引っ張ってくるような感じだ。
まあ、この表現自体は走ってた時に考えてたわけではなくて、いま考えたものだから多分に説明的だが、とにかく、曲がる時の気の持ちようが変わったってことだ。
で、その結果、コーナリング速度は若干上がったと思う。というよりは、俺のタイムが出ない1番の原因と思われる、コーナリング時に、ものすごく失速してしまい、そこから内側に切れ込んでしまうという現象があまりなくなった。実際、以前から恐怖の種だった立ち上がりで頻繁に内側の縁石を踏むということも、あまり無くなった。ただ、まだ気を抜くと以前のラインになってしまう。練習が必要だ。

さて、そんなふうにあれこれ思案しながら走っていると、目の前にYZF-R6が見える。同クラスのマシンというのはやはり気になる。そんなにエキスパートではなさそうだ、抜けるかな?いや抜いてやりてえな。しかしリキむと走りが雑になる。目の前の勝ち負けより今は自分の練習だ。いやでも…、なんてまた邪な思案にくれつつ数周、苦手の3コーナー(右)を立ち上がろうとした時に、なぜか火花が見えた。

あちゃ!バイクが弾むように転がっていく。避けるには十分な余裕があったので俺は巻き込まれなかったが、バイクの跳ね方からして「あれは高くつきそうだな」と直感してコース脇に停車した。
バイクはコース外の草地に出ていたし、足場が悪いから起こすのに苦労するだろう、そう思って止まったのだが、俺がスタンドをかけ、振り向いた時にはすでにライダーはバイクを起こしていた。…素早いな。じゃあ体は元気なみたいだな、良かった。一応、様子を見に行ってみると、やはりマシンの損傷は激しい。ブレーキレバーは根元から折れていた。コースに落ちていたレバーを拾って渡す。まあ使い物にはならないだろうけど。さらに足下にもう一本レバーが落ちている。あ−、クラッチの折れてちまったか。と手渡すと、「いや、それは付いてます」え?よく見ると、周囲にはおびただしい数のレバーとウィンカー破片が落ちていた。そういえばここは転ぶひと多いもんな。俺の前の練習で転けたし。

転けた人は、新しいきれいなR6で、サーキット走行も初めて日が浅いようだった。
俺も一度コース外に出て様子を見ようと思ったが、助けに行った他の人とともにバイクを押して帰ってくる様子からは、失意は感じられるが怪我はなさそうだ。まあ、ひと安心、ということで再び俺は走行を再開。
どうにもタイムは上がってないが、とりあえず、タイムが上がらないなりに、だんだんとスムーズに走れるようにはなってきた気がする。いや、間違いない。しかしやはりこのタイヤ…。もはや、俺の精神的な問題もあるのかも知れない。一度転んで、その後にデロデロになったために、このタイヤに不信感を持ってしまっている。本当はもっと行けるのかも知れない、いやきっと行けると思うのだが、バンクすると同時に不安が広がり、不安を抑えて走っているので面白くない。思い切って攻めてもう少しタイムを出したいけど、これでまた転しては仕方ない。

何度か走って休憩していると、さっき転けたR6の彼が声をかけて来た。
「ガイさんですよね?」…おお?そう来たか?あたり前だが初対面だし、俺はさっきから名乗っていない。しかし…、まあ、ちょっとは慣れましたよ、こういう挨拶のされ方も何度目かですからね。
いかにも、私が「ガイ」でこのマシンが「マイティフロッグ」であります。
正直、戸惑うこともありますよ。これでもう少し俺が速かったら、どーんと大きく構えておくんだが、…ねえ?まあ、このサイトを見て面白がってる方々もきっといろいろな技量の人がいろいろな捉え方で見ているのだろうが、好意的に読んでくれてる人はたぶん、俺がエキスパートではないから、つまり、サーキットなんか走ったことがないって人が「コイツになら俺でも勝てるんでは?コイツにできる事なら俺にもできるんでは?」っていう気持ちで読んでくれてる方が多いと解釈しているので、その辺(俺のリアルな腕前とネット上の文章から想像された腕前のギャップをどう見られるか)は割り切ることにした。
基本的に、俺は会ったことない人にどう思われても構わない。遅いとでも速いとでも、好きに想像してこのサイトの文章は楽しんでもらえばいい。まあ、あれですよ、ネットにこんな日記載せちゃって、「ZX6R」で検索のトップに掛かった時から、そのくらいの覚悟はしてますよ。

もっともだからと言って本当に初心者にあっさり負けるつもりは毛頭ないが、うーん、今の技量では微妙だ。だからもっと練習しなくては。せめて28秒台まで行ければ、特に練習してないヤツにいきなり負けることはないと自信が持てるだろう。そこがひとつの目標ではある。

さて、話が逸れたが、そのR6の彼と少し話をした。このサイトのことはもちろん知っていて、少し前に梨塾に初めて参加したらしい。で、2週間後の次回も申し込んだのだが、修理が間に合うかどうかが心配だと。
R6は人気車種だし大丈夫じゃないですか、などと答えてみつつも、彼がかなりショックを受けているのが痛いほどに見える。ああ、わかるとも、俺にはわかる。できれば縁のない世界でありたかったが、俺も一度はそっち側(失意のアウターゾーン)に行ったことがあるからな。しかし俺は還ってきた。まだ若干PTSDみたいなもんが残ってはいるが…。
ま、そんなこんなで頑張ってください、cattyさん。

(*彼はその2週間後の梨塾に参加し、しかもBクラスで優勝した。すごい。ドラマチック。俺もたまにはそういう素敵な結末でレポートを書きたいものだが。)


さて、そんなこんなで走行時間(この日は午前で申し込んでいたので昼過ぎまでだ)が終わり、帰る前に、今日、走っているのを見て気になる方がいたので話をさせてもらった。彼は…初期型のSV400Sにヨシムラサイクロン、WR'Sバックステップという、どこかで見たようなマシンで走っていた。しかも結構いいペースで。
聞けば、今日は自己ベストが出て、(確か)29.6秒だとか。これは悔しい。俺は SVでは、30秒を切ることはできなかった。しかし、ひとつ溜飲が下がったのは、彼が30秒を切ったのはハイグリップタイヤを入れてからのことだか。俺はSVにはパイロットスポーツしか入れたことない。よし、このタイム差はタイヤの所為にしておこう。
彼は大型免許もとり、大型SSへの乗り換えを検討中とのことだった。せっかくだからSVでどこまで行けるか試してみて欲しいなあ、と思ったが、自分はさっさと乗り換えておいてそれはなんとも勝手な言い草だから言わないでおいた。

帰路、行きに腹が痛くなった反省もなく、またツナギの上半分を脱皮した状態で走る。これは涼しいし動きやすくていい。
で、走りながら考える。今日は、収穫はあった。ずっと悩みの種だった、どうしてもコーナー途中でイン側に寄り切ってしまい、失速して切れ込む、また、縁石にそって旋回を続けなければいけなくなってしまうためにバイクがいつまでも起こせない、という問題に、初めて「なんだか上手くいった」ではなくて、意図的な改善に成功したと思える。
しかし、にも関わらず、タイムは結局、31秒すら切っていない(確かこの日のベストは31.188秒だ)。

ラインの改善で安定は増したと思うのに、それでもなお、それなりに転倒の恐怖と戦って走ったつもりだ。それでこのタイムはなんだ?昨年夏、意を決して大型免許を取得してサイクロン号(SV400S)を売ってから1年以上。俺はいったい何をしていたんだ?
走りながらいろいろと考えたか、それともむしろ疲れて思考が短絡したか、それはどちらとも言い難い。しかし、とにかく、俺はそのまま常磐道を走り、外環道を走り、自宅…をちょっと通り過ぎ、バイク屋に向かう。ツナギのままガレージに入り、なじみのスタッフに声をかけた。「ダメですよ、これ。俺はこれ嫌いです。」

すっかり失われたガイのマイティフロッグへの信頼。果たして、迷いながらも意地を捨てきれないガイの執念が結実する日は果たして来るのか?あまり期待せずに待とう!(TOPへ