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新・漢を磨け!俺の修行日記 -#6 Here He Comes -

9月第一週の土曜。
さらに精進に励むべく、俺は土浦を目指していた。
もう、朝から3時間近く走っている。
出発前には灼熱を覚悟したが、普通にバイクで流していれば暑さは思ったほどでもない。どことなく郷愁を誘う夏の終わりの風だ。
しかし、高く晴れて蒼さを増した空からは、むしろ透明感を増した日差しが刺し、アスファルトに照り返す。
元々あまり眼の強い方でもないのにクリアのシールドで走っていたために、眼の奥が痛く、頭がぼうっとして来ていた。

・・・高速代をケチろうなんて考えなければよかったぜ・・・。

独りごちたガイはそれでも、ウンザリする朝の環七通りを抜けて、6号線を数10km北上し、修行の場である都民ミニサーキットに近づくにつれ、軽い高揚感を憶えていた。

・・・と、叙情的に始めてみたのだが、とにかくそんな感じで、今回は経費削減のために一般道で土浦まで行きました。
しかし、俺の自宅は東京西部。土浦に行くにはどうしても都心を横断する必要がある。そのため実際以上に疲労を感じることになってしまった・・・しかも無駄に時間をかけた為に腕を日焼けして痛い。くそ。
ツナギ着て走ってると、ほんとにまったく太陽に当たってないからなあ・・・1日中外にいて体を使って思い切り汗かいても、日光は浴びてないので、夏だというのに真っ白でどう見ても引き篭もりだったんだが。これでなんとなく健康的になったろうか。

何はともあれ、今日の俺はいつもと違うぜぇ〜・・・・というのも、P-LAP II という、自動的にLAPタイムを計測してくれるアイテムを今回は装備しているのだ。
これはサーキットに埋め込まれたマグネットを感知して作動するもので、全国の有名なサーキットで使用できる。また、購入も全国の主要なサーキットで可能だというシロモノだ。
この商品の公式サイトでは、都民は使用可能コースに入っていないのだが、それはやはりマイナーというか、ショボだからであろう。しかし、それはともかく実際には使用可能であるのは一部では有名なこと。

一人で走っているとやっぱ、誰と競うでもなく自己ベストタイム短縮が主な興味になるが、これまた一人な為にタイムもわからん。 マイティフロッグにはストップウォッチ機能があるが、前回あたりに書いたように、短くて忙しいトミンのコースを全開で走行していると、左のグリップから少し離れたLAPボタンを押すのも事実上無理に思えた。親指をLAPボタンに伸ばして人差し指と中指をクラッチに掛けると、ほとんどグリップを握っていないことになる。左手は、アクセルが付いてる右手よりも体の保持に貢献しているので、コーナリング中には手を開きたくない。しかし、ストレートでは全開→2速へ→直後にフルブレーキで、やはりとても左手を開く(まして毎週タイミングを計って)ことは出来なかった。
そんな折に先週、実はもて耐(もてぎ7時間耐久レース)を観戦に行ったので、その際に密かに購入していたのだ。

しかしこれがまた高い。28000円もする。そこで、購入前に実はネットオークションでも探していたのだが、たまに出品されてもいつも20000円近くまで跳ね上がってしまう。でも、逆に言えば、俺が新品を買って飽きちゃったら、20000円くらいで売れるんでは?と思い購入に踏み切ったのだ。

さて、苦労してトミンに着くと、今日は午前中がカートの走行だったようで、数台がまだ片付けをしていた。
もう少し早くくれば見ることが出来たかも、と残念に思ったが、結構暑いのでしばらくは小屋で涼む。
走行時間が近づいて、受付に並んでいたら、窓の外に見覚えのあるツナギのR1が。
梨本塾で何度か会い、実は最初のコソ練でも遭遇していた彼だ。・・・つまり彼も、コソ錬に励んでいるということだな?
なんだか今日は行ける気がするぜ!と感じたのは恐らく、先週のもて耐観戦でテンションだけは上がっていたためだが、実際のタイムはそう単純には上がらない。なまじ正確な計測ができるようになってしまっただけにその現実を否応なく突きつけられるのだが、妄想で速い気になってるよりいいよね。


そう、忘れてたが実は今回は、前回の流れで空気圧を調整してあるのだ。
家を出る前に、先週購入したエアゲージで前後とも2.4kgにしてある。
標準は、F/Rで2.5/2.9。結構、高めだ。
で、前回は暖間で0.5ずつ抜いたのだが、タイヤが冷えてから測った時は2.3/2.7だった。ただ、測ってるエアゲージがその都度違うし、測定条件も適切ではなかったから、ちょっと考え直すことにして・・・。
それで手に入れたのが「モーターサイクリスト・ランプラス」誌のバックナンバー。このトミンサーキットを舞台に梨本圭がスポーツマシンのセッティングとインプレを行う「エッジデハシレ」という企画で、ZX6Rが取り上げられた号だ。
これの最速セッティングというヤツを・・・と思ったのだが、梨本圭と俺では体格も乗り方もかなり(特に後者は激しく)違う。いきなり全部いじりまくっても・・・と思い、サス設定などはいじらず、タイヤ空気圧だけ参考にした。
それによれば、F/Rで2.3/2.3とある。ええ〜?そんな下げちゃうの?
前回、フロントを下げすぎてハンドルが重く感じた経緯があるので、ここは中庸の精神で2.4/2.4。と、そういうわけで今日は2.4kgなのだ。

R1の彼はもう走り出していた。俺も、さすがにツナギはあっついなあ・・・などと思いながら着替えていると、近くのトランポからSR400を下ろしたおじさんが話し掛けて来た。
「いいねえ〜636。欲しいんだけどね〜」・・・前半はまあ本音、後半は世辞だろう。嘘ではないだろうが、SR乗りならR6の方に惹かれるんじゃないかな?
まあ、それでローンがどうとか、たわいない話を少しした後に、問われた言葉は「26秒出ますか?」

・・・は?

「梨本さんはここで、26.8だっけ?出してたでしょ?」この人もさっきの記事を読んでいたんだ。

悪気がないのはわかったが、正直、俺は少し気を悪くした。
6Rに乗れば誰でも26秒が出ると思うか?そんな簡単なら俺だって苦労してねえ。

「・・・(そんなタイム)出るわけないじゃないですか。あの人は何乗ったって速いんですよ。」
そりゃそうか、というような返事があったかも知れないが、それはよく憶えていない。
まあ、嫌味で言ったわけではなく、単純にマシンを賞賛してくれたのだろうから、イチイチ腹を立てるのは止めてコースに出た。

で、今回の空気圧について、走っての感触は、そんなに悪くない。と思う。・・・やっぱ、変えながら乗らないとよくわかんないなあ・・・。

最初は慎重に、徐々にペースを上げて走っていると、まあ調子はいい。タイムは30秒台。
で、あっち〜なあオイ・・・と集中力が切れてきたところで何度目かの休憩にコースを出る。
秋の気配、とは言えまだ暑く、日陰のないコースで、革ツナギのフル装備でスポーツ走行すれば、脱水症状を起こしそうに汗ダクだ。

急いでヘルメットを脱ぎ、肩で息をしながらグラブを外すのももどかしくツナギの上半身を脱いでいると、誰かが近づいてきた。
R1の彼ではない。もっと逞しい体躯で、俺の肩に手を回すその男、いや漢は・・・梨本圭!?もとい塾長!
なぜこんなところに!?と叫ぶ俺に、今日は暇になったからMAR(※梨本塾の常連。はやい。)と一緒に走りに来た、というような答え。
おぉ・・・これで、もはやほとんどコソ錬でなくなってしまった・・・と思いながらも、内心では喜んだ。

というのも、これで今日はいい手本が見れると思ったからだ。
コソ錬で走っていても、周囲に俺より速い人はもちろんいる。だが、失礼ながら、梨本塾の上位のような速さの人にはなかなか・・・いや、コソ錬ではまだ会っていない。やはり、手本は良い方が良い。自分との差が大きくたって、やはりより上手い方がいいに決まってるのだ。
子供が初めて字の練習をする時だって、手本は最上級に奇麗に書かれた字を見て勉強するだろう?

さて、そんなこんなで、いい機会だし、塾長に俺のマイティフロッグを試乗してもらった。
いやあ・・・しかし、全開で走るマイティフロッグを、俺自身は実は初めて外から見たのだが・・・格好いいなあ・・・。
いや、乗ってるのが塾長なので格好よさが倍化しているのはあるが・・・しかし、やはり単色でコントラストの強いサイバーなデザイン、強烈な色彩で疾走する姿は俺の美的感覚にビシっとはまっている。

ちなみに、ここで俺が「乗ってるのが塾長なので格好よさが倍化」と書いてるのは、別に塾長が雑誌で有名な梨本だからとヨイショしてるワケではないぞ。
バイクってのは、本当に乗り手に依存するものだ。クルマと違い、止まってる状態でも、跨いでる人が外観デザインの一部を担ってしまうのだが、やはりバイクが格好いいのは走っている時だ。
上手い人の乗る姿勢は、機能的な美しさを備えるものだし、キンキンに回したエンジン音、深いバンク角と鋭利な加減速は、スポーツとしての動的な美しさを発揮するものだ。
バイクの格好よさは盆栽のように磨いて飾っているだけでは見えてこない。

塾長は、もともと今日乗るために一緒に来たMAR(この名前は本人のツナギに書いてあるので使わせて貰います)のCBR929RRや、冒頭の彼のR1にも乗ったのだが、この日来ていた人達は、しばし自分が走るのを忘れて塾長の走りに魅入っていた。
いつのまにか、みんなコース脇の土手に並び、コース上には塾長一人のこともあった。
まあ、あの走りを見せられちゃうと遠慮してしまう気もするが・・・俺は、模範的走行としての塾長のフォームやラインを見たかったので、塾長が走っている間はギャラリーと化していた。

だけど、他の人達はどうだったのかなあ。中には走りたいのに、なんか気まずくて走れない人もいたのだろうか。
俺がこんなところで主張しても仕方ないのだが、塾長は一般開放のコースに来て素人を遅い、邪魔だとなじるような人ではないと思うので、もしこれを読んでる方がコースで会ってしまったら、遠慮することはないだろう。もちろん、ちゃんとしたレースで隣を走るなら何かの覚悟をする方がいいかも知れないが。
あの人はパッと見の雰囲気がちょっと怖いというか、迫力があるのだが、その辺りの分別はきっちりしている感じがあって、まあ俺が評価する立場でもないが感心しているのだ。
俺が人生で知り合った凄い人シリーズの3人目に名を連ねているくらいである。

まあそれはさておきだ、塾長のコメントは「いいんじゃない」。・・・シンプルだな。
しかし、サスの設定なんかも(俺の体重を考慮すると)まあそんな感じ(前に少しいじった状態。若干イニシャルを抜いている)でいいだろう、ということで、俺は安心して腕を磨くことに専念することにした。セッティングは当分これで行こう。
あまりコロコロ変えてると混乱するし、いずれ腕が上がって何か違和感を感じるようになったらまたいじってみればいいだろう。

さて、その後、俺の走りを見た塾長にアドバイスを貰う。
簡単に言うと、重心が前に行き過ぎとか、もっと下半身を使わないととか、つまり、猫背過ぎてタンクに被さり過ぎというような。・・・あまり簡単じゃない・・・?
具体的には、体の縦軸がバイクに対してアウト側に傾いているので、もっとバイクと平行にするように。かなり前乗りなので、もっと体を起こすように。腰は斜め前ではなく、斜め後ろに落として、もっと膝を開いてヨシ。・・・そんな感じだったはず。
ただし、これは(結構クセのある)俺の乗り方に対しての、急激過ぎない改善策としてのアドバイスだ。万人に共通するものではないことには注意してくれ。

タンクに被さり過ぎているというのは、この修行レポートシリーズでも書いたように、自分でも認識していた部分だ。ただ、だいぶ直ったと思っていたのだが、まだ悪いようだ。
そして、この日はやけにブレーキング時にタイヤがガカカッ!!ってホップするなあ、と思っていたのだが、それも重心が前ノメリなせいらしい。直ったと思って気を抜いたのも余計に不味かったかもな。

その辺のフォームを気にして10週くらいして、こんな感じでいいですか?と聞くと、まだだけどマシにはなっているとのこと。
それから、こんどは塾長がMARに俺を何週か引っ張ってやるように頼んでくれた。

このMARという漢もまたかなりの速さだ。しかし、コースに入って最初は31秒くらいのペースで走り、徐々にペースを上げて行ってくれた。まあ、10週も付いていけなかったが、それでも、後ろからラインや加減速を見てて、参考になるというか気付かされる点は多い。
まあ、一番はっきりしてたのは、俺の走りには滑らかさがないということだな。だいぶ良くなっているつもりではあるが、前を走るMAR車がつーっとコーナーに入りばいーん・・と立ち上がって行くのに、後ろの俺はガココン!と減速してコーナーに入り、ぶびばび!ぶいーン!と加速する感じだ。わかりにくいだろうが雰囲気を伝える努力をわかってくれ。

そう言えば、今回のもうひとつの収穫として、変速タイミングの問題がある。
これは塾長が俺のマイティフロッグを乗っているのを見て気付いたのだが、このマシンでは最終コーナーに向かう短いストレートは1速を引っ張るより早めに2速に入れる方がいいみたいだ。いつぞやのSVでの走り方と同じだ。
こうすると、最終コーナーには1速に落としてエンジンブレーキを掛けながら進入することになるのだが、最初から1速で入るより全然自然に入れる感じだった。
たぶん、コーナー進入直前の準備段階でアクセルを戻した(あるいは開けるのを止めた?)時のエンブレの掛かり具合が、2速に入ってる状態と1速で回しきったような状態では違うからだろう。
ずっと疑問だった、「最終コーナーが失速してリズムに乗れない」という問題は、これで解決できそうな気がしてきた。

だが、だんだん乗れてきた気がする!という一方で、俺は忌々しき問題も感じていた。
・・・疲れた。今日はいつになくたくさん走ってしまい、この暑さでへばって来た。集中力も切れてきて、一度はうっかり最終コーナー脱出でかつてのように早くアクセルを開けてしまい、リヤちょっと流れたりした。いかんいかん。

来る途中に買った500mlのDAKARAをとっくに飲み干していた俺は、自販機で500mlのつぶつぶオレンジジュースを買い、一気に飲み干してしまった。うわあ、腹ちゃぷちゃぷ。しかし結局これもみんな汗になって出てしまったようだ。

塾長からも、まだまだだけどよくなっては来てる、と言うようなコメントを貰えた。
また、SVに頼っていた部分で問題が噴出している、今は基本を学ぶ時だと。
そうか・・・、俺はSVの力不足ばかり考えていたけど、俺の怪しいライディングでもそこそこ走れてたのは、SVの扱い易さが緩衝材になっていてくれたからなのかも知れない。
ZX6Rは、隙のないスペックで確実に乗り手の意思と技術に応えてくれるが、それは裏を返せば、腕の無さもレスポンスとして突きつけられるということだ。しかし、良いものでも悪いものでも反応がいいということは、腕が上がって行く実感もあるので、面白い。

結局、今回は30秒を切れなかった。だが、前回も29秒台は実は1本しか出てないのだ。
平均的に見れば、前回は31秒前後だったのに対して、今回はコンスタンスに30秒台、早かったものでは30.1秒までは出ている。
正当な向上と考えていいだろう。
まずは平均的に29秒台が出るように、方向性を誤らないように修行を続けなくて行くとしよう。

さすがに膝パッド(ニースライダーとかバンクセンサーって言った方がいい?)が磨り減ってしまい、このままだとツナギ直擦りになってしまいそうなので、帰りに用品屋により新しい膝パッドを買った。
この修行(あるいはジョニーとの漢勝負)も、元々は膝が擦れない・・・から始まったことを思い出すと、ちょっと感慨深いものだ。(TOPへ