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新・漢を磨け!俺の修行日記 -#7 Hardship Syndrome -

9月の後半の土曜。

本来は、今月最終の日曜の梨本塾に参加し、そこでジョニーと対決することになっていたのだが、ジョニーが体調を崩した為、漢勝負は10月末に延期された。

しかし、そんな時こそチャンス。
万全でないヤツを倒しても仕方ないが、立ち止まって待ってやる必要はない。微塵もない。
いまこそコソ錬に精を出し、次回勝負での勝利を確実にしなくてはいけない。実際のところ、現段階では、ジョニーの不調に期待する以外に俺が勝てる見込みはない。それもかなりの不調だ。例えば、ヤツが遂に転倒を喫し、ビビリが入って無理な走りができなくなったところを、スタートで先行して抑える、とかそういう姑息な作戦でしか勝利は在り得ない状況だったので、この延期は願ったり叶ったりでもあった。

さて、この間に正攻法で勝負できる実力を手に入れるべくコソ錬。金を節約する為に高速を使わないで土浦まで行くというのは、前回懲りた。あの後、余計な時間日に当てた腕は日焼けが痛くて大変だったのだ。長袖を着ろって?それはまあ、そうだけど。とにかく疲れるんだよ。

13時の走行開始に合わせて11時に家を出る。いつも通り、外環を大泉から三郷へ、そこから常磐道へ。
しかしこのバイクでの高速は爽やかだ。同類のバイク以外には負ける気がしない、と言うか負けない。基本的に、高速で追い越されるということは、ない。いやあ・・・実に爽やかだ。はははは。

しかし、そんな風に爽やかに走っていて、俺が三車線の真中レーンをちょっと気を抜いて走っていたら、白いなんだか高そうなベンツが追い越し車線を凄い勢いで走って来た。追い越しレーンの他のクルマを蹴散らして、かなりのペースで走り去って行く。
・・・ムカリ。
・・・いや、マナーの悪さはどうでもいい。しかし、この俺様を高速でブチ抜いてくれるとは・・・さすがはツンベー、アウトバーンの国の車。なんて感心することはもちろん断じて無い。
追い越しレーンに入り、漢ブースト開放。目立つパールホワイトの車体に追いつき、別に煽ろうというつもりではないので、数m後ろに付いて走る。
すると、ツンベーがグイグイと加速を始める。ほほう・・・・ヤツも高速で他に負けるのは癪だと見える。かなりの速度から、まったく安定した挙動で、かつ視覚的にもはっきりわかる加速度を見せるツンベー。流石、というところだ。しかし、漢ブーストを全開にしたマイティフロッグはそのくらいではやれれはせん。俺は脳内で叫んだ。「『気』充填率150%!漢ブースト、ファイヤーオン!!!!」・・・オタクだな。
しかしオタクの意地を舐めてはいけない。結局、いわゆる「ふわわkm/h」をいくらか超えてしばらく巡航したら、ツンベーは道を譲った。ヤツの脳裏に「グリーンデビル」と言う言葉を刻み込むべく、そこから更に数10km/hを上乗せし、俺は今日も1台にも抜かれることなく高速を降りた。めでたしめでたし。
・・・でも、ここだけの話、最後はちょっとだけ怖かったね。こういうのも、ほどほどにしないとな。

さて、肝心の土浦、トミンに着いて、受付を済ませると、能天気な笑顔で一人の漢が近づいてくる。「ガイさん!来ると思ってましたよ!」・・・声の主は前回登場、梨本塾の常連でもトップクラスの速さを誇るMARだった。
今日は一人で来たらしい。さて、しばし雑談をしていると、そのMARのCBR929RRがおかしい。黒いFRPのカウルを装着しているのはいいとしても、なんか後ろがGSX-R1000に見える。あれ?
誰かのを借りてきたのだろうか?近所のジョニーのか(このMARとジョニーはご近所さんだそうだ)?いや、バイクを大事にするジョニーには考えにくいし、だいたい色が違う。
そのマシンはいったい?と訊ねると「カウルだけ換えました」。へえ、なるほど。あの929は汚かったからなあ。でもいくら似たような形のスーパースポーツとは言え、よく付けられたなあ。
「付けようとすれば付くもんですよ」。へえ。ネジ穴とか切りなおしたのかな。まるで本物のR1000みたいだ。
でも、929のフレームって、黒かったかな・・・「フレームも換えました」。なるほど。フレームを換えれば、カウルも付きそうだ。異機種のエンジンの載せ換えってのはよく聞くから、逆に言えばフレームの載せ換えも・・・「ついでに、エンジンとサスも換えました」。・・・・。アレ?もしかして。
「P-LAPが929です」これは、LAP計測をするストップウォッチみたいなもので、ガムテープで付けてあるだけだ。・・・つまりR1000を買ったんじゃないか。いや、俺はネタでなくて本気で、最後まで929を改造したのかと思ってた。くそう。バカにしやがって。ていうか、まさか本当に騙されているとは思わなかったろうな・・・。

ツナギに着替えていると、13時になり早速コースを数週してきた見知らぬライダーが、俺に話し掛けて来た。
「いやあー!全然ダメだ!」「つーか、まずは7割の力で、ってコトで!」「タイヤ終わってるわ、終了〜!!」
・・・うるさい。こういう場所で同じ趣味の人間同士、多少の会話には俺もやぶさかでない。別に、お前が7割でも5割でも遅くても速くても、俺は文句も無い。無いのだが、初対面の人間に、何の前置きも「こんにちは」もなく、突然にデカい声で言い訳を聞かされても何も面白くもない。
とりあえず、「・・・そうですねえ。」と当り障りのない返事をして、俺は荷物ごと移動した。

そんなこんなで、走りだす。MARのR1000はまだ6kmしか走ってない(トランポで持ち込んでいる)そうで、まだ慣れないみたいだが、それでもさすがはMAR、凄い速さだ。背中には未だ「MAR 929」と書いてあるけどな。
行き帰りの高速では無敵に近い速さに酔いしれても、ここに来るとまだまだ俺のライテクは三下だ。しかし、その現実が実感できることは、むしろ気持ちいい。俺最速の妄想に疑念を抱きつつしがみ付いているより、現実で限界を見て腕を磨く方が厳しいけど楽しい。

さて、それはそれとして、俺もひたすらに走り込む。
今日は、前回までのように暑くないのがいい。夏の間は、ツナギなんか着てサーキットの炎天下にいると、それ自体が拷問のように体力を削り、どうしても走行時間が少なくなってしまったのだが、今日は心地よい涼しさで、がんがん走ることができる。
まあ、最初は前回のを思い出して体慣らしということで、かなり抑えて走る。ので、タイムは32秒ほど。
さて、そうこうして休憩しようとコースアウトすると、遅れてやって来たバイクが数台。
・・・CBR600F4iのロッシカラー、FRPカウルのGSX-R750、そしてFZS1000の梨本氏。通称塾長。・・・・また会ってしまった。

うーん、もはやまったくヒミツ練習ではないなこりゃ。塾長は、梨本塾では主催者であって人の走りを見てるばっかだからフラストレーションが溜まるのだとのこと。今日は久々の快晴、ということで思い立って自走で駆けつけたそうだ。自分のFZSで家からツナギを着て自走でミニサーキットをぐるぐる回る姿は、まったくそこらのバイク好きと言った感じだ。ちょっと異様に速いけど。

そういや、前回にここで会った時の帰り際に、たまたま居合わせた初対面のおじさんが、塾長の走りに驚いて「どうしてそんなに早く走れるんですか?」と聞いていたのを思い出した。
塾長が笑顔で、しかし簡単に答えた言葉は「誰よりもぐるぐる回ってるからですよ」だった。
もちろん、トミンを走ってるという意味だ。速く走るのに技術や才能はもちろん必要だ。だが、やはり大前提はとにかく走ることだということなんだろう。
おじさんは意味がわからなかったようで、定常円旋回をたくさんやると速くなれると思って納得していたようだったが。

さて、ロッシカラーの彼はもっぱら梨本塾で最速を誇っている。彼もまた、梨本塾参加者の中でも飛びぬけた頻度で走りまくっているようだ。彼は今年、「梨本塾レーシングチーム」として、もて耐(とても大きな耐久レースの大会)に出たが、その時にもルマン式スタートの位置についてからスタートまでの数分間、居並ぶ数十名のライダーの中で一人だけ何度も何度もスタート練習をし、スタートで20台からをゴボウ抜きする快挙を成し遂げた。アレは、見ていてちょっと感動した。そして、普段の梨本塾の模擬レースでも、スタート前には誰より入念なストレッチをしているのを俺は密かに目撃している。・・・むう・・・やはり、速い者は、それなりのコトをしているからこそなんだよな。

正直、高いマシンに乗って気合だけ入れれば、そこそこ早くなれると錯覚していた部分もある自分の甘さを思い知らされる気がする。しかし、俺だって、あの悪夢以来、結構な頻度で練習している。まだタイムはイマイチだが、成果は出て来てると思うし、もっと速くなるのだ。

そんなゴッドスピードクラスの彼らに混じって、俺も走る。もちろん、その他の大勢もいる。今日は結構、人数が多い。
塾長とミニロッシは、とにかく速いので後ろに付いて観察などほとんどできない。しかし、離れつつでもコーナーひとつふたつの間は見ることができる。
どうも、バイクのバンク角だけ見れば、俺は二人にそんなに負けているワケではないように思える。逆に言えば、二人のバイクは、コーナーとペースによっては、全然フルバンクに達してない。けど、コーナリングスピードは全然速いし、安定している。
それとも、安定しているから、そんなにバンクが深くないようにさえ見えるのだろうか。どっちにしてもやはり、体の使い方なんだろうなあ・・・。
あの速度での体の使い方は、単なる操作ではなく、完全にスポーツだ。これは当然、お手本がわかれば一朝一夕で出来るという類のことではない、ということを示す。やはり、反復練習あるのみか。

しかし、ぐるぐる回りながら、俺は今日は徐々に悩み始めた。
自分としてはそれなりに走れてるつもりなのに、全然タイムが上がらない。ずーっと、32秒と31秒を行ったり来たりしている。
いったい、どうしてしまったんだろう?
塾長にも、なにやら悩んでいるなあ、と言われる始末。そう見てわかるほどに、俺は困惑していた。そりゃそうだ。このタイムじゃ。
3週間ばかり乗らない間に、俺はどうしてこんなに遅くなってしまったんだ?さっぱりわからない。しかし、無理にアクセルを開けてはまた転倒しかない。
なんとか、落ち着いてフォームを正し、雑にならないよう、少しでもまともな走りを心掛けた。

そうこうして走っているうちに、ちょっとしたトラブルが発生した。
この日は晴天の為か、前の2週が貸しきりだったせいか、走行台数が多かった。1コーナーに向かって加速する俺の前方には、ZZ-Rが走っている。ペースは俺よりかなり遅い。彼はコースの外よりを走っている。これなら、十分にイン側からコーナーに入れる。そう思って、俺はコーナーに突っ込んでいく。で、フルブレーキ。と、その時、ZZ-Rが俺の予想に反して、ずいぶんと手前からコーナー内側に切れ込んできた。え?なんでそんなライン?つーかダメだ、完全にコースが重なった!フルブレーキング中で軌道修正もできねえ、ブレーキ弱めたら即突っ込む、クソ!またか!

しかし、ZZ-Rは重かった。ついでに言えば、乗っている彼も重かった。マシンとライダーを合わせると、100kgくらいは違ってたかも知れない。お陰で、俺にインから突っ込まれても、彼は何事もなく走り、俺も、その衝撃で減速されて転倒せずに済んだ。
一応、すぐにコースを出て、謝罪と怪我を確認しに行ったが、幸い、彼は何事もなかったようで、あまり険悪な状態にもならずに済んだ。
あのラインはおかしい、と思うが、ここはライセンスライダーではなく、一般の為のミニコースで、あれはレースではなくて、ただのコース開放だ。だから、あの場合は、相手の動きを読めてないのに大きな速度差でインに入った俺が悪い。
非常に申し訳ない、と思ったと同時に、やはり、前から言われるように俺は走行時の視野が近く、狭いのだな、と思った。

さて、失意の走行が終わって、帰る頃。
塾で会うメンバー(塾長含む)で、ちょっと話をした時に、やはり、そろそろ、自分より少し速いくらいの人の後ろを走って勉強した方がいいんじゃないか、という話になる。しかし、俺は今月は行かないつもりだった。金もないし・・・。

でも、確かに、フリー走行とは言え、一応はオフィシャルがいて秩序があり、自分と似たバイクで自分より速い人がたくさんいる塾で走ることが、やはり上達につながるんではないか、というのは俺も感じ始めていた。

申込み期限は今日までだったが、塾長は「気が変わったら夜に連絡してくれればいい」と言ってくれて、俺は家路に付いた。

帰り道。
高速を降りて、渋滞の一般道を走っている時のこと。
渋滞をすり抜けて、先頭で信号待ちしているバスの前に出て、止まった瞬間。地面に付いた左足の踏ん張りが利かず、バイクが左に傾く。なに!?と思って力をこめても、足が踏ん張りきらない。コテン、と立ちゴケしてしまいました。
繁華街の交差点、しかもバスの前、さらに、倒れたバイクを起こすことができない。
すり抜けて来たバイクのおっちゃんが手伝ってくれて、なんとかバイクを起こしたが、今まで無傷だった左のカウルとクランク-ケースに小傷を入れてしまった・・・トホホだ。
やっぱり、なんかダメダメモードだなあ・・明日は止めとこうかなあ・・・。
すっかり沈んで家に帰った俺は、しかし驚愕の事実に気付くことになる。

・・・なんと俺は、P-LAPの見方を間違えていたのだ!
LAPタイムを順に呼び出して表示するとき、最新のLAPから順に出ると思ってた俺は、ずーっと最初の10LAPくらいのタイムしか見てなかったのだ。家に帰り、バイクから取り外したP-LAPの実に191LAPまでのタイムを見ると、中盤から後半はしっかりタイムが上がっていた。
最高LAPは、30.133秒。これは、公式?な計測の自己ベストだが、この日は2回出ていた。
いよし。
こうなったら勢いだ。明日は、マイティフロッグで初の塾参加と洒落込むとしよう。

以前に29.7が出てるが、これは100円ストップウォッチ(ボタンが非常に押し辛い)での計測だし、1度コッキリなので俺の中では非公式記録とすることにした。
余談だが、MAR氏は、この日、1コーナーで3度もコースアウトして土手を登り、3度目には植え込みがカウルに刺さってました。ご愁傷様です。3ヶ月前の自分が少し重なりました。俺が6Rを壊した時、「誰もが通る道ですよ」と慰めてくれたが、本当にそうだということを、身をもって証明までしてくれなくてもよかったのに・・・。(TOPへ