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蛙乗修行日記 - Falling Away -

さて、走り納めです。

ビデオ班動員により自分の走りの大きな問題に気づき、改善への糸口を掴んだ先週。いくら走行料金の安いトミンとは言え、毎週通うのは経済的に問題ありなのだが、ともかく寒くなってしまうし、今は行けばタイムを上げられる感触がある。12月も半ばだが、1月2月はそれこそマジで寒いので、いまのうちにもう少し…あと0.5秒を!
そんなわけで、今週も、先週より確実に寒くなった常磐道を土浦へと走る。

今日(土曜日)は、午後の予約。金曜日の仕事を早く切り上げられなかったということもあるが、午前にすると行きの道程が寒いというのが嫌だった。午後の場合は、走行時間の最期でかなり気温が下がってくることが問題だが、まあ体力もないことだし、集中して15時まで走り、1時間は余らせて帰ろう。そんな作戦を立てていた。

午後の走行開始時刻である13時までにトミンに着くには、俺は10時半に家を出れば十分なゆとりがある。朝は9時前に起きて、ゆっくりと用意をし、朝食にパンを1枚食べた。カフェオレを作ろうと思ったが牛乳がなかったのでブラックでコーヒーを飲み、10時半に順当に出発。
思ったほど寒くなく、案外楽だな、と思いつつも、どこか走っていて気が抜けた感じがある。
実は、ここのところちょっと精神的に疲れる事態が続いていることもあり、そんなせいかな?と思ってみたりするが、道中で事故に遭ったりしては洒落にならんので気合いを入れて走る。気が抜けている時は、安全のためになどとゆっくり走るのは逆効果だ。それだと余計気が抜ける。30キロで走ったって、ボーッとして車に突っ込んだり人はねたりすればタダじゃ済まないのだ。こんな時は、むしろハイペースで走って強制的に気合いを入れる方がむしろ安全だ(というのが俺の経験的ポリシーだ)。

そんなこんなでどうにも気合いが入らないまま、結局現地に到着。午前中に幾人か知った顔の方々もいたようで、少し話をする。
ちなみに、以前の日記に書いたZX-RR 風のZX-6Rの方がいらっしゃったので、写真を撮らせてもらいました。自らカッティングしたステッカーも多いそうです。職人です。

さて、午後の台数はそれほど多くなく、15時で上がるつもりの俺はちゃきちゃきと走り出す。この時期、気温、というか路面温度も下がり、タイヤが十分に暖まっていないことによる転倒も多いと聞く。注意して、フォームに気をつけながら周回を重ねる。

まずは、前回に感触の良かったフォームを自分のスタンダードとして身につけなければ、という点を優先し、ガツガツとアクセルを開けることや突っ込みを頑張ることより、コーナリングの一連のアクションを「妙じゃないように」やることに集中する。
しばらくそうやって走っていたが、他人に引っかからず、それなりのペースで走った時にはコンスタントに29秒台が出せている。悪くない。

今回、ちょっといいぞ、と思ったのは、29秒台を出せている時とそうでない時が、自分で結構正確にわかるようになった点だ。フォームに気をつけて抑えめのペースで走っているところから、ちょっとペースを上げてみよう、とやってみたところで、ちゃんとそれなりにペースが上がっている。
自分の状況がわかり、コントロールが出来る、という事は、このペース(29秒台半ば)での余裕が出て来たというか、手のうちに収まって来たというか、そういう気がした。ならば、そこからもう一歩気合いを入れれば…。そういう期待も膨らむ。

しかし、ペースを無理に上げるとフォームが元通りの激無理膝に戻りそうになる傾向は相変わらずある。結果を急ぐ気持ちもあるが、まずはフォームをしっかり変えよう。とかなんとか言ってもやっぱり、タイムは出したい…。

そんなこんなで、ふと時計を見ると時間は14時半を指していた。

アタック

あと1本か2本走ったら終わりだな…。となれば、ここらで今年の集大成というべき走りをして、タイムを出したい。そこで、次の走行は、フォームの改善は意識しつつも、今日の前半でそれなりに癖も付いて来ていると考え、ちょっと優先順位を変えて、「タイムを狙って走る」という気持ちも持って走ることにした。
ここまで、さして青筋を立てることもなく29秒台は出している。気合いを入れてきちっと加速減速を行えば、29秒フラットか、或いは…そんな期待をしつつ走りだす。
コースに入ろうとすると、今日来ている中では一番速いように見えるバイクが走っている。俺の勘では、まさに28秒後半から29秒フラットあたりのペースではないかと思った。彼をペースメーカーにしたいな…。

少し間隔を空けてコースイン。既に日差しはだいぶ傾き、路面温度は下がって来ている。温まり易いとされているレンスポルトとは言え、3周は暖めたい。2周目。ゆっくり走っていたら、思いのほか速く我がペースメーカーが抜いて行く。どうしようか。
さっき走ってからそんなに休憩してないしな。まだタイヤはそんなに冷えてないだろう。もう行ける。よし追いかけよう。

差が広がりつつあるが、もとより抜く事が目的でもない。少しでも追いつこうという気持ちを奮い起こさせてくれればいい。
そしてコースに入って3周目か4周目くらいの1コーナー。
いつも通りにブレーキング。のつもりだった。いや、たぶん、俺のブレーキレバーの握り方は、それなりのペースで走る際の「いつも通り」だったと思う。


しかし。

ブレーキを握り込んだその瞬間、減速Gの代わりに変な横Gを食らう。

フロントがあっけなく滑った。進入に備えて体重は右に寄せているので、車体はそのまま縒れながら右に倒れる。通常、旋回するバイクは車体が移動することで倒れるが、そうではなくてタイヤが反対側に移動することでバイクが倒れた。

トミンの狭いコースとは言え、一応、「ホームストレート?」エンドなので、速度は120km/h超程度だろうか。

車体が、完全に立て直すことが不可能な角度まで寝てから路面に倒れるまでの僅かな瞬間に、「タイヤが温まってなかったか?」「こいつはダメだ、またやっちまった」という2つの思考が脳裏に走る。

危機的状況におかれた人間の頭脳は、驚くほど速い処理速度を発揮するものだ。まさに「走馬灯」と呼ばれるような、いくつもの思考が一瞬で行われる。

バイクの側面が路面に叩き付けられる頃には、既にバイクからは離れていたと思う。

それからは、バイクの行く末を見ている余裕はなかった。だが、「平面での滑走なら大きな損害はないか?」「いや、コーナー奥の丘で木にぶつかったりすればマズいんでは?」という思考が過る。

と、同時に、「おお?頭で滑走してるよ俺」「まずい、木にぶつかったらヤバいのはバイクより俺自身だ」「つーか全然止まらねえなコレ」「おいおいマジで大丈夫か俺?この勢いはヤバくねえか?」「おおそうだ、中野がムジェロで転倒した時に『壁にぶつかったらヤバいと思って滑ってた』って言ってたな。こんな感じか?」と、危機意識と場違いに呑気な感想が脳内で交錯する。


「!!!!」
アスファルトを頭で滑走した後、丘の土に差し掛かると、凹凸と斜面による摩擦の増加により、体が回転を始めた。もんどり打って数回転、縦だか横だか斜めだかよくわからないが転がりながら、丘の半ばまで登ってようやく止まる。

やっと止まった。口と鼻に泥が入っている。起き上がり、ヘルメットを脱いで泥を吐く。と、唇が切れている。丘に乗り上げた時にヘルメットにぶつけた時だ。

しかしまあ、体は無事なようだ。頭で滑ってとき、ちょっと首にゴキっと来たが、骨がどうにかなるような衝撃ではない。他の部分もおかしなことにはなっていなかった筈だ。相変わらず、意外に頑丈な体で良かった。

マシンは?

俺よりもさらに丘を登っていた。そして周囲に緑の破片がたくさん落ちていた。よく見なくても、無事でないことはすぐにわかった。


その後、周囲のライダーが手を貸してくれて、バイクをピットに移動し、破片を拾い集める。今日は、知り合いはいなくて俺は独り黙々と走っていたのに、多くの方が手を貸してくれて、家が近いのでトランポで俺のマシンを搬送しようと申し出てくれた方もいた。こういう時は、周囲の厚意が本当に嬉しい、と言うか救われる。常日頃クールぶってる俺様であっても、さすがにこんな時に無視されて独り足場が悪くバイクも起こせない状況だったら、ちょっと涙が出るだろう。助けてくれた皆さん、マジでありがとう。

被害状況はなかなか甚大だ。まず、カウルは全部アウトだ。使い物にならん。灯火類もほぼアウトだ。ブレーキレバーの曲がり、それ以上に問題なのは、レバーの上に乗ってる小さいタンク、あれが砕けてフルードが抜けているので、ブレーキがまったく動作しない。だいたい両方のミラーもないしメーターもない。タンクもべっこり。まあ、穴は空いてないし、もとも傷物だから程度の差だと思い込もう。

一方、エンジンはかかる。フロントサスも生きてそうだ。つまり、基本的に外装が逝ったということか。しかし、ブレーキとメーター、灯火がない時点で、明らかに自走での帰還は無理だ。

結局、マッシュに電話をしてバイクともども運んでもらうことになった。ただ、トミン到着は17時半くらいということで、16時にトミンが閉まってからは暗い門の前に独り壊れたバイクとともに佇むというえらくシュールなシチュエーションを強要された。帰りがけに心配して声をかけてくれたり、寒いだろうとホッカイロみたいのをくれる方もいて、なんだか今日はやけに人の優しさが眼に染みる日であった。
マッシュは家にいないことも多い漢なので、上手いことつかまったのはラッキーだったが、貴重な家族の時間を奪ってしまうことに一抹の罪悪感を覚えつつも、高額なレッカー車を頼むのもキツいので、厚意に甘えさせてもらった。ここもマジでありがとう。今度奥様にはケーキ持参でお詫びします。ほんとに。あと、奥様にですね、僕はなかなかケーキにはうるさいつもりなんですが、お手製のケーキは美味しかったとお伝えください。

それではまた来年

大破しておいてこう言うのも何だが、本当に今日は、前回に引き続き上り調子だったと思う。なのに、いざ気合いを入れて!と思った矢先に大破してしまったのが非常に悔しい。
今日のタイムは、29秒後半。まだこれからタイムを上げるつもりで、P-LAPのメモリを都度クリアしていたので、正確にはわからないが、29.6以下は出してないのは間違いない。だから、今年のベストは、結局は前回の29.4秒ということになってしまった。
非常に不本意だ。

まあ、思えば今年はツキがなかったのだよ(一昨年も?そうだよ、俺はいつもツキはないんだよ!悪いか!)。そもそも、スランプのきっかけになったパイロットパワーだって、他の人の使ってるのは調子良さそうではないか。なんで俺のだけあんなデロデロに溶けてたんだ?不良品なんじゃねえのか?
帰り道、俺は、こんな俺のツキの無さ、調子の悪さは、あのカウルに呪いがかかっていた所為だと理解した。
今日、今年最期の行事として、我が身を挺し、その呪いのカウルを粉微塵に吹っ飛ばした。
いいじゃないか。これで来年は安泰だ。

…頭打ってないかって?ああ、確かに打ってるよ。でもなあ、そんくらい強引にポジティブ思考で行かなきゃやってらんないじゃねえか。

…でもまだ止めない。


だいたい、俺は昔からツキなんてないし、要領も良くはないのだ。何かやろうとすれば何度かの挫折は常に味わってきた我が人生。二度目の大破はさすがに厳しいが、漢ってのはだね、まだこんなもんじゃ折れないよ。
あとですね、帰って見ると、ツナギやブーツ、グローブがかなり削れているし、やっぱ体のいろんなところがちょっと痛いです。これらがなかったら、今頃へらへらとレポート書いてる場合じゃなかった可能性は大です。ヘルメットも、口のところのエアインテ−クの部品が粉砕されてて、もしジェットヘルとかだったら今頃アゴ割れてるか歯折れてたかも知れません。いくら低速コースと言っても、やっぱ装具は大切だね。気をつけましょう。(TOPへ