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新・漢を磨け!俺の修行日記 -#8 Advantage Denied -

9月の最終の日曜。

7月の悪夢(目次より、”Lost Mind”参照)から早3ヶ月が過ぎた。

あれ以来、ひたすらに孤独な修行に励んでいた俺。しかし、ライディングに奥義の書があるワケでもない。一人での試行錯誤に限界を感じ始めた俺は、遂にマイティフロッグに乗り換えて初めて「梨本塾(※)」に参加することを決意した。
今回、ジョニーは体調を崩して参加していない。だが、模擬といえどもレースがあるこの塾には、倒すべき相手は他にも山ほどいる。修行の一環として、力試しをするとしよう。
用語集参照

この日も快適に高速を飛ばして、土浦北インターに到着。コンビニで、走行中のイオンと若さを補給するためのポカリスエット1リットルを買い、トミンへ。

今日はなかなか盛況なようで、A、B、Cの3クラスでの走行だ。決勝レースは2クラスで開催とのこと。
先日のコソ錬で、走行6kmのR1000のカウルに穴を空けたMARも参加している。FRPカウルに換装済みだし、被害は俺に比べれば全然小さいが、なにせ6kmだ。R1000という最速マシンへの期待も相当だったろう。彼のショックは、俺にはわかる。痛いほどによーくな。しかし、俺が転倒した時に「誰でも通る道ですよ」と言っていた彼はもちろん、こんなことでメゲることはなく、この日もAクラスで熱い走りを見せていた。

塾は久しぶりだけど、もて耐の応援やコソ錬のせいか、会うのが久しぶりという人は少ない。
しかし、この日会った中には、このサイトを見て(というか、梨本塾で検索したらここに着いたそうだ)、初めて参加という方(ZZ-RとCBRの方)が2名いらっしゃった。コソ錬で何度かお会いし、このサイトも発見してくれた方(NSRの方)も来られていた。
SVの頃にもそういうことはあったのだが、やはりこういう方に会うと、むう、俺のサイトも世の中の人の人生に1ミリくらいの影響力は与える力があるのだろうか、と嬉しく思う。
ZZ-Rさんには、僕らのことも書いて、と言われたんだけど、残念ながらそういうリクエストは難しい。基本的にここでは自分に絡んだ範囲しか書かない、というか書けないので・・・。ケチってるワケじゃなくて、自分の内面+走行中の描写をメインに書いてる都合ですので、気を悪くしないでくださいね。

さて、俺は今日はBクラス。このクラスには、コスキー氏とユキ氏がいた。

ユキ氏と言うのは、コソ錬で何度か会っているR1の彼だ。しかし、前回は俺と同じ、OEMのミシュラン・パイロットスポーツだった筈の彼のタイヤは、トミン最強と名高いメッツラー・レンスポルトになっていた。
そして、この「おおいに語る会」の掲示板にもしばしば書き込みがあるコスキー氏。彼もかつては塾で何度か会ううちにジョニーをライバルとしていたが、最近はすっかり水を開けれている。その現状を打破すべく、CBR600F4iから最新のCBR600RRに乗り換えて、「ジョニーを倒すにはまず我意を倒さなければならない」と大胆にも当サイトの掲示板で宣言しての参加である。

地道な修練もしているらしい。その成果を見せてもらおうではないか。

ジョニーがいない今日の、とりあえずのターゲットはこの2台に決めた。
ところが、ユキ氏は速い。この前にコソ錬で会った時の感覚では十分に戦えると思ったのだが、これが「履けば1秒速くなる魔法のタイヤ」と呼ばれるレンスポの力か。はっきり言って歯が立たない。タイムは28秒台(つまりジョニーと同等)に突入していたようで、彼は主催者判断でAクラスに移動した。
ということで、もう一台のターゲット、コスキー氏。いや、コスキー。この男は、自分だってジョニーに負けっぱなしのクセにしばしば俺様に挑発的な台詞を吐く失礼なヤツだ。しかもマシンは600RR。これは負けられん。
MotoGPではトップ争いを独占するホンダと、最下位争いに終始するカワサキ。この仇は今ここで俺が討たねばなるまい。

適当にラップを重ねていると、だいたい俺と同じくらいにも見える。いや、俺の方が少し速いか?
しばらく走っているうちに前方にカウルに内蔵されたマフラーの特徴的な後姿が見えて来た。うおし。気合を入れてその姿を追う。無理にペースを上げて前を追えば転倒にも繋がる。なにせ、ミスのないよう慎重に、そして気を抜かないよう立ち上がってからはキッチリとアクセルを開けて走る。
ジリジリとその差を詰めて、テールトゥノーズで数LAPはした後、苦手な人が多いらしいトミン唯一の左コーナーできっちりと抜くことに成功。マイティフロッグを舐めるなよ。

そんこんなで時間は過ぎ、そろそろお昼だという頃。午前最後のCクラスの走りを見ていると、1コーナー出口でNSRが舞った。ひらりひらりと。
その横でくるくる回って転がるライダー・・・ああ、どっかで見た、いや正確には見てはいない、体験した景色だ・・・!
幸い、ライダーに大きな怪我はなかったようだ。だが、彼のマシンは、右側のカウルは全損、タンクも凹み、シートがナナメに・・・。優しい俺は、かつてそのような転び方、壊れ方をしたバイクが、どれくらいで修理できたかを教えて差し上げた。
その言葉が彼にもたらしたのが絶望か希望かはわからないが。

・・・しかし、なんだってこんな思いをしてもまだ懲りずにこんな走りをしてるんだ?いまさらGPレーサーになれるものでもないのに・・・とも思うが、やはり答えは「面白いから乗ってる」という単純なものがすべてなんだろうな。

さて、午後の走行、予選、そして模擬レース。レースでは2クラスになるので、俺はAクラスに。日中のBクラスからはもう一人、初参加でなかなか気合の入ったNSRを持ち込んだ人だ。コソ錬で何度か会い、ここのBBSに「とても遅いおっさんです」などと書いていたが、なかなかどうして。日中の走行では、最初は俺と同じくらいに思えたが、徐々にペースを上げたのか、最終的なタイムアタックでは明らかに俺より速かった。

コスキーはもう倒したしBクラスになった(彼はそこで優勝した。ちょっとだけ妬ましくもある。)ので、俺はAクラスの中に新たなターゲットを探すことにした。
タイム的には、おそらく俺がAのドベだ。グリッドも最終ライン。うっかりしてればビリになる。上位クラスだからと言って、俺はビリは嫌いだ。ビリ2も好きじゃない。トップグループとはあまりに差があり(俺が30秒を切れないこのコースを彼らは27秒フラットで走る)対抗意識すら非現実的だが、なんとか、中盤と言えるポジションには食い込みたい。
グリッドに付いてみれば、Aクラスでパイロットスポーツのようなオールマイティタイヤを履いてるのは俺くらいだ。
昔、SVのOEMのツーリングタイヤみたいのから、パイロットスポーツに変えた時は、「これは走りやすい」と思ったものだが・・・いまや周りはほとんどがメッツラーのレンスポルト。こいつは、梨本塾においては絶対の信頼を寄せられているレーシングタイヤで、「履けば必ず速くなるタイヤ」と呼ばれているし、実際のところそうだ。

思えば、かつて俺がタイムアタックでジョニーに僅差で勝ちながら決勝で敗れ、しかし勝利が目前に迫っていることを確信した時。次の勝負でヤツは1秒ほども(※)速くなっており、俺は負けを認めざるを得なくなった。そう、この時に心が挫け、漢勝負に負けたのだ。
その時、ヤツのマシンにそれまでのパイロットスポーツに代わって装着されていたのがレンスポルト
そして、俺がマイティフロッグの損傷により参加できなくなった「なし耐」にGSX-R1000で出場、遂に28.37にまでタイムを上げたヤツのマシンに、いつのまにか付いていたのもレンスポルト
(※1秒、は小さく聴こえるが、一周が30秒しかないコースで1秒はかなり大きな差である)

それほどの威力を持つ、まさに最終兵器なタイヤがこのレンスポルトなのだ。
ならば、俺もさっさと入れろって?そういう意見はもっともだ。だが、まだ使えるパイロットスポーツを捨てるのは勿体無いし、それに俺はパイロットスポーツで29秒までは出したいのだ。
ハイグリップタイヤを入れればマシンの限界は飛躍的に高まり、タイムも上がる。しかし、俺はこのパイロットスポーツでのグリップ限界を読み取る感性を磨き、それと相談しながら29秒までは出したい。そういう、タイヤと相談して走るような感覚が俺には欠如していたからよくスリップダウンしていたのであり、それをいきなりハイグリップタイヤにするということは、何か重要な課題を残したままにしてしまいそうだと感じるのだ。
それに、以前のコソ錬で、塾長はこのマイティフロッグそのもので、軽く27秒台を出している。物理的にパイロットスポーツのグリップでもそのくらいは出るってことだ。腕が違うことなど言われなくてもわかってるが、俺だって29秒くらい出なきゃおかしいじゃないか。

さてさて、話を決勝レースに戻そう。
最終グリッドに付いた俺の中で、およそターゲットは絞れていた。まず、隣の蒼いR1。ずっとAクラスで走っていたが、調子が悪いのかな?よくわからないが、精細を欠いているようだったので、前に出てしまえば押さえられそうだ。
そして隣の新型R6。ここは、03年のスーパー600のライバル機種として、またMotoGP連敗のカワサキの無念を晴らすべく(しつこい)、押さえさせていただく。レンスポを入れて29秒台に入ったとのことだが、速度差と技的な熟練度から、先に前に出てしまえば俺を抜くの困難だろう。
そして、グリッドでは俺の前の列にいる、前述のユキ氏のR1。彼も今回、レンスポをぶち込んでタイムを28秒台にまで入れた。だが、昼休みにセッティングをいじり、「モーターサイクリスト」誌でかつて塾長が載せた「サーキット最速セット」にしてしまった結果、調子が狂ってすっかりタイムを落としている。最速セットはシビアな設定だから乗り方もシビアになるらしい。俺も前にやろうとしたが、そのことを塾長の弟であるカイさんに言ったところ、「四文字熟語で言うと、『時期尚早』」と的確な(しかしちょっとムカツクような)アドバイスを貰って止めといたのは正解だったようだ。
R1のユキ氏はもともと速さにムラがあるタイプのようだし、今の落ち込んでる状態なら、押さえられる気がする。
そして、俺の正面のグリッドにつけた、Bクラスで俺より微妙に速かったNSR250氏。これは調子が上がって来てるようだから手強い。しかし、俺とのタイム差は小さい。だから、スタート勝負で前に出れば、抜かれない可能性は高い。

これで後ろに4台。
7/11で、まあ後ろよりだが中盤のポジションだ。志が低い?そんなことはない。現状の実力からすれば、ビリが自然なのだ。この作戦は現実的な最大の成果を目指していると言える筈だ。

さっきの解説で気付かれたかも知れないが、俺の作戦は、ひとえにスタートにかかっている。いつぞやのジョニーとの対決でとったものと同じだ。スタートで後ろになったら、先行車がよほどのミスをしない限り1台も抜けそうに無い。ポジションを上げられるのはスタート時のみ、あとはそれを死守だ。

さて、バイクをグリッドに並べてから、一度コース上に集まり梨本塾長からの注意がある。旗の説明と、これは模擬レースであって本物のレースじゃないのだから、マシンをぶつけたりといった荒々しいことをしないように。怪我のないように、楽しく走りましょう、といつものように言い渡す。
しかし、塾長を囲んだツナギにヘルメットの集団は、ほとんど身じろぎもせず、ただ塾長を凝視している。感触を確かめるようにグロープをギッギッと握っている者もいる。
「・・・カリカリだねえ・・・カリカリに尖がって、ポキンと折れる」
すっかり気が立った猫のようになってる参加者を見た塾長がそう笑って言うと、ちょっとだけ笑いがあって、少し皆の緊張が解けたようだった。
速さには差があって、ある程度の結果は見えているんだけど、みんなそれぞれにこれだけは、って言う設定値があるんだろうか。負けず嫌いが多いんだな、と思いつつ、それを楽しめる場というのはやはり気持ちいものだ、とも思う。

さて、いよいよマシンに跨り、旗が掲げられる。
各マシンが一斉にアクセルを煽り始め、漢サウンドとでも呼ぶべき音響となると、脳内に何かが満ちてくるような感覚が沸き起こる。内側に入れば、団子に引っかかってポジションは変わらないだろうと思い、俺は外からかぶせる方向に決定。
アクセルを開けすぎるとウィリーするので、ツキがよくなる程度の回転まで回して旗を凝視する。
そして旗が振り下ろされると同時に、クラッチをミートして外を狙う。わずかにフロントが浮いたがいい感じだ。両隣の2台と前のR1は抜いた。だが、もうひとつ抜けきらなかった。NSR250に被せたものの、外から抜くにはいたらず、後ろにつけることになってしまった。

しくじったか。そう思いつつも、とにかく付いていかねばなるまい。しかし、彼はなかなか速い・・・ジリジリと差が広がって行く。あっと言う間に、コーナーひとつ分くらいの差が開いてしまった。まずいな・・・。
後ろは?バックミラーにはちらちらとオレンジのツナギが見える。R6だ。かなり近い。なんとか引き離せないものかと思うが、ムキになって走りが雑になると、コーナーで膨らんだりして正に抜かれるチャンスを作る羽目になる。なにせ、ミスをなく走っていれば、そう簡単に抜ける速度差ではない筈だ。とにかく、変な隙間を与えないよう、ラインを外さないように、また、コーナーの進入で内側を刺されないよう、バイクが立ってる間はきっちりとアクセルを開けることを心掛けて走る。
前方に目をやれば、NSR250との差はその後はそんなに開いていない。疲れているのか?単独走行で気が抜けたのか?
ともかく、まだ抜けるかも知れん。なにかちょっとしたミスがあれば十分に追いつける距離に思えた。
どっちにしても、やることは同じだ。自分がミスして隙を作ることのないよう、しかし極力全開で走る。
やがて、ミラーが賑やかになってくる気配を感じた。先頭グループが一周して追いついて来たようだ。1LAPで3秒ほど速い彼らは、10週もあれば周ってくる。20周の間には、多くて2回、追いついてくる筈だ。
先頭はロッシカラーのF4iとR1000が先頭争いの真っ只中。しかしこっちだって忙しいんだ。邪魔する気はないが、しかしそうそう譲ってやることもできない。単独ならストレートで譲ってもいいが、そのついでに後ろのR6にも行かれたらかなわない。
ちょっと逡巡したが、彼らは速いし巧いから、放っておいても抜いていくだろう、と決めた。

思った通り、彼らは速く、左コーナーでイン側に差し込んできた。さすがにこの時には少し外に出て譲る。そして、先頭の2台が行ったらこれを追いかける。いや、コソ錬でもやってる通り、追っても追えないことは重々承知だ。だがこれは気持ちの問題だ。
追えないからと追おうとするのも止めるのは嫌だ。しかし左コーナーの後の最終コーナーを立ち上がると、彼らはすでにずいぶん先にいた。ここで、腕の差を忘れて彼らと同じタイミングでアクセルを開こう、などと言う愚は、いくら熱くなってももう犯さない。全開はきっちりとバイクを立ててからだ。

さて、先頭グループとの干渉でちょっとは隙間が開いたと期待したいが、後ろのR6は諦めていない。そりゃあそうだ。スタート以外はあっちの方が速いのが事実だからな。
途中、1コーナーでR6に前に出られたが、彼もだいぶ無理なペースで突っ込んだようで、そのままコーナー出口で膨らんでしまっていた。おかげで、俺はその内側から刺し返すことが出来た。
しかし、今のは彼にとっても渾身のアタックではないか?それならこれで挫けてくれると良いが・・・。
あんまりそういう期待はしないように、前方のNSRがミスか疲れでもうちょっと下がってきてくれることを期待しつつ、ポジションを維持する。
しかしR6はしつこい。タイムでは完全に俺を上回っていたのだから、向こうからすれば、絶対に自分の方が速いのに抜けない!と焦れていただろう。
だが、模擬とはいえ、レース。自分から譲って順位を落とす必要まではない。
やがて、先頭集団が20LAPを迎え、チェッカーが用意された。ここはさすがに素人というか、この模擬レースでは、用意されたチェッカーを見て気を抜いて、ゴールの瞬間に抜かれてしまうというシーンは多い。しかし表彰圏外だからと言って俺は気は抜かないぜ。最後の1コーナー膨らんでいいんだから、この時こそ全開だ。
俺の前後にいるヤツらはすべて仮想ジョニーだ。ついでに、レンスポルトには負けん。

俺はなんとかその順位、8/11を死守してこの日の梨本塾を終えた。

結論から言うと、この日の走行を通じて、30秒を切ることはできなかった。その点は残念だ。
だが、今日は面白かった。
コスキーCBR600RR、テイネ産のR6といった腕が近いライダーの乗るライバル機種とのバトルは、実に面白い。
特にレースは、ずっと後ろにつけられていたし、タイム自体は少し負けてるとわかってたからこそ、絶対抜かせねえ!!って言うハイテンションが久々に味わえた。やっぱ、こういう感覚は、こういうお膳立てがあると盛り上がるからね。

さて、この日のベストラップは30.120秒。昨日の30.133から、ほんの僅かな進歩に止まった。
いわゆる30秒の壁、というヤツか・・・。多くの者がぶち当たる壁だそうだ。
一つの突破方法としては、レンスポルトがあるワケだが、俺はそれに頼らずに突破したい。29.9でもいいから、P-LAPでそのタイムが出れば、俺は心おきなく「自己ベストタイム更新の為の最終兵器(※メッツラー社のキャッチコピー)」レンスポルトも入れられるのだが・・・。

以前に29.7が出てるが、これは100円ストップウォッチ(ボタンが非常に押し辛い)での計測だし、1度コッキリなので俺の中では非公式記録とすることにした。
しかし、右コーナーばかりのトミンで何度も走って、俺のパイロットスポーツはもう余命幾ばくだ。このパイロットスポーツの寿命が尽きる時、それがジョニーの命日ともなるだろう。(TOPへ