妻は工場で自殺した。
あの日は工場が縮小になるとかで、面接を受けたはずだ。
それまで明るく振舞っていた妻だったが、あっという間のできごとだった。
女性も活躍できると信じて妻はSPIRITを選んだ。
言うのもなんだが、子育てとボランティアで成果が出せず、毎回毎回「駄目」のスタンプを押されつづけていた。
動機は「家庭の問題だろう」で終わったが、決してそんなことはない。
そんなことなら工場を最期の場所にするはずがない。
俺は忘れない、妻の涙を。
俺のまぶたの裏によみがえる、妻の笑顔が。
俺はいまでも思い出す、顧客のために働き続けた妻の背中を。
俺は知っている、妻が死ぬまで尽くしつづけた会社を。
俺は覚えている、あの日何事もなかったかのような表情の会社を。
俺の胸に焼き付いている、妻を屈辱の海に沈めた目標管理制度を。
そして、俺たちは会社で生き続ける、妻の無念をはらすために。