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KOF MAXIMUM IMPACT2 麻宮アテナ ストーリー


長かったコンサートツアーも、きょうが最終日。
いつまでも鳴りやまないアンコールの声に応えて「傷だらけのブルームーン」と「PRESENT・HOLIDAY」を熱唱し、その興奮も冷めやらぬ中、麻宮アテナは汗だくになってステージを降りた。
「アテナちゃん、お疲れさま!」
「みなさんお疲れさまです!」
「ホントよかったよ、きょうのステージ!」
「ありがとうございます!」
バックステージですれ違うスタッフたちが、異口同音にアテナを褒めたたえる。アテナのツアーにはいつも同行してくれる顔馴染みばかりだが、その表情にはいつにない充実感が満ちていた。
それだけ、今回のツアーには誰もが力を入れていた。
「アテナちゃん、疲れてると思うけど、すぐに雑誌のインタビュー入るから!」
「はい!」
マネージャーの言葉に大きくうなずき、アテナは無人の控え室に入った。
鏡の前に座り、よく冷えたミネラルウォーターでひりつく喉をうるおし、ようやくほっとひと息つく。
だが、心臓はまだどきどきとはずんでいた。
鏡に映ったアテナの顔は、さっきすれ違ったスタッフたちと同じく、大きな仕事をやりとげたのだという充実感と興奮のせいでまだ紅潮している。
「終わっちゃった――」
ツアーに出る前は、アテナもスタッフたちも、これから長丁場になるねと口々にいっていたが、いざ終わってしまえばあっという間だった。
心地よい高揚感が汗とともに引いていき、遠くに聞こえていたファンたちの歓声が次第に遠のいていくと、代わってアテナの心に満ちてくるのは何ともいえない寂寥感だった。
夏休みの最後の夜に幼い子供が感じるような、楽しかった夢の終わりを告げられたような――コンサートが終わると、いつもそんな一抹のさびしさを感じずにはいられない。
次のツアーが始まれば、多くのファンと馴染みのスタッフたちと再会できると判っていても、それまでの盛り上がりが大きければ大きいほど、宴が終わったあとのさびしさがアテナにはつらかった。
「……いけない、まだ仕事が全部終わったわけじゃないんだっけ」
いつしか鏡を見つめたまま涙ぐみ始めていた自分に気づき、アテナは目もとをぬぐって慌てて立ち上がった。
感涙にむせぶのはもう少しあとでいい。
今はまだ、アイドルとしての仕事を続けなければならない時間だった。
「――あら?」
鏡を相手にメイクとステージ衣装の乱れを簡単に直していたアテナは、視界の隅にちらりと映った黒いブーケに気づいた。
控え室にはたくさんの花束が運び込まれていたが、華やかな色彩の渦の中で、テーブルの上にぽつんと置かれたささやかな黒い薔薇の花束はかえって見る者の目を惹く。
そのブーケに1通の白い封筒が添えられているのが気になって、アテナは何とはなしに手を伸ばした。
「!」
封筒を手に取った瞬間、針で刺すような悪寒がアテナの全身を駆け抜けた。あれだけ汗だくになっていた身体が一瞬で凍りついてしまったかのような、激痛と錯覚しかけないほどの寒気に、指がこわばる。
「こ、これは……!」
アテナが思わず取り落としてしまった封筒には、死神の鎌と猛禽の翼を組み合わせた、不気味な紋章が記されていた。
そこから感じるのは、まぎれもなく邪悪の残り香――麻宮アテナだからこそ感じ取ることのできる、黒い残留思念だった。
かつて感じたことのないほどの悪意と敵意、そして嘲弄する意志。
痛いくらいにそれらを感じさせる封筒を恐る恐る拾い上げ、アテナはぎこちない手つきで封を切った。

キング・オブ・ファイターズを開催します――。

「こんなものが、どうしてここに……?」
簡潔なその一文を目にしたアテナは、その時、アイドルとしての日常が、きょうでひとまず終わりを告げたことを知った。
「――アテナちゃん?」
その時、マネージャーの控えめな声が飛んできた。
はっとして振り返れば、細く開いたドアのところから、マネージャーが心配そうな顔を覗かせている。
「どうかしたの、アテナちゃん?」
「い、いえ、別に」
「いくらノックしても返事がないから、中で倒れてるんじゃないかって心配しちゃったよ。……ホントに大丈夫?」
「あ、ごめんなさい。ステージを降りたとたんに脱力しちゃったっていうか、気が抜けちゃったみたいで……」
頭をかきながら、はにかんだように答える。アテナの笑みにつられて、不安そうだったマネージャーも顔をほころばせた。
「ははは、今回のツアーはいつもより力入ってたみたいだからね。……それじゃどうする? もう少し休んでからにするかい、インタビュー?」
「いいえ、大丈夫です」
さりげなくコスメバッグの中に招待状を放り込み、アテナはとびきりの笑顔を作ってかぶりを振った。
「一応、ツアーを終えた今の心境とか、この先の活動についてとか、そのへんの質問が来ると思うけど、もし交友関係について聞かれたりしても迂闊に答えちゃ駄目だよ? 恋愛話とか、そういうのはご法度だからね」
「判ってます判ってます」
心配性のマネージャーの肩を叩き、アテナはいっしょに控え室を出た。
「――早くすませて、みんなと乾杯しなきゃ!」

あしたからはひとりの格闘家として、サイキックソルジャーとして、闘いの中で生きる日々がふたたび始まる。
だが、きょうだけ、今夜だけは――。

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