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『パソコンゲームランキングブック』について

 今でこそパソコンを始め家庭用ゲーム機など、コンピューターゲームの情報は雑誌やネットで簡単に入手できるようになりましたが、当時はそう簡単に情報が入手できる環境ではありませんでした。
 絶対的な情報量の少なさに加え、ソフトのパッケージにすら画面写真が掲載されていないのが当たり前の状況だったので、プレイヤーは中身がどのような作品なのか、よくわからないままにソフトを購入することも少なくなかったのです。
 そうした状況の中、PCユーザーの期待をうけるかたちで一冊のパソコンゲーム情報誌が発行されました。

 『パソコンゲームランキングブック』は昭和58年(1983年)に旺文社から発売された、全152ページ、880円のムック本です。
 日本の各ソフトメーカーおよび、Appleの輸入代理店であるスタークラフト社からの「おすすめソフト」316本を、17人の評価委員がテストして200本にまで絞りこみ、そのランキングとゲーム評が掲載されています。

 ランキングは「興奮度(1ポイント6点)」、「中毒性(1ポイント5点)」、「ストーリー(1ポイント4点)」、「ユニーク度(1ポイント3点)」、「お買得度(1ポイント2点)」の五項目について評価し、各5ポイント満点で採点して、最終的にそれらの合計得点でランク付けを行っています。

 ゲーム評については「ゲーム体験記」、「ゲームのポイント」、「評価」という項目に分けて、意見が述べられています(それぞれ上位ランクのソフトのみ)。
 ゲームレビューというものが確立されていない時代だけに、ゲームの特徴をうまく描き出した記事から、そうでないものまで様々。
 いまひとつな記事としては、特に主観が入りすぎたものが多く、ゲームの評価という観点からは、あまり参考にならないものが目立つように感じました。
 単に欠点のみを挙げ連ねてみたり、笑えるものになると、操作法がわからないなどと書いておいて、最後の最後に「ゲームをするときは、マニュアルをよく読んでから始めましょうね」などいうオチがあったり。
 そうした、あまり読者の参考にならないゲーム評もありましたが、ランキング制を導入した評価は、当時のPCユーザーにとって心強いゲーム購入の指針になったと思います。

 ランキングとは別に掲載されている「ゲームソフトをうまくロードさせるための7つのチェックポイント」と「ゲームソフトをめぐる、様々な小道具を紹介しましょう。」といった記事は、当時のPC事情が思い出されます。
 「ゲームソフトをうまくロードさせる〜」は、ソフトの供給がカセットテープで行われていた時代ならではの内容。PCとテレコ(テープレコーダー)の接続やボリュームレベルについてや、キーボードの入力に関する注意点まで書かれています。
 「ゲームソフトをめぐる〜」では、ジョイスティックやパドルの説明。さらには『ウィザードリィ』や『ウルティマ』のユーティリティ・プログラム(サービス会社にディスクを送ると、経験値などを増やして送りかえしてくれる)にも触れられています。

 巻末を飾るのは、「ソフトハウスでは いま」と題した、ゲームメーカーへの取材記事。
 T&Eソフト、エニックス、光栄マイコンシステム、スタークラフト、ポニカ、マイクロハウスの六社が取り上げられているのですが、特に現在も生き残っているメーカーへの取材記事は、今読んでも興味深いものがあります。

 最後に、取材記事の中で印象的な内容を、箇条書きで少しばかり挙げてみましょう。

 T&Eソフトでは『惑星メフィウス』の話題が中心です。
○新婚旅行(ヨーロッパ)の列車の中で『惑星メフィウス』のマニュアルを書いた(横山英二氏、当時27歳)。
○『惑星メフィウス』はどんなに慣れた人でも三か月はかかるはずだったが、店に並んだ二日後に小学生から「やっと終わりました」との電話があった(横山俊朗氏)。
○『惑星メフィウス』の超高速中間色ペイントルーチンは17歳の高校生が二日で作った。
○兄弟の父親は昔映画館をやっていて、兄弟は映写技師も経験。

 エニックスは福嶋康博社長が取材に応じられています(注:誌面には福島と書かれている)。なんか自慢話ばっかりで笑えます。
○もともとオフコン関係の仕事をしていて、ゲームの流通をやろうとしたが、良い商品がないため、自分で調達しようと思った(福嶋氏)。
○コンテストで入選しても、何度も何度も作りなおさせる。ドアドアも何度も作りなおした。

 光栄マイコンシステムの記事には、コーエーの会社沿革にも掲載されていない、会社誕生秘話が……。
○三年前の10月26日に襟川恵子専務が、襟川陽一社長の誕生祝いにパソコンを買ってあげ、一週間でベーシックをマスターした陽一氏は、それまでやっていた薬品関係の商社をパソコンへ方向変換。ショップから始まって現在に至る。
○『ドラゴン&プリンセス』は日本最初のアドベンチャーゲームになるはずだったが、残念ながらアスキーがその前に『表参道アドベンチャー』を出してしまった。
○陽一社長は『指輪物語』の愛読者。
○11月に横浜・日吉に新社屋完成。

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