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「澪の演劇部ブログな日々外伝〜Light in the darkness」

Kanon製作スタッフがTactics(NEXTON)在籍当事に作ったというONEに関連する文書です。

で、全作品を読ませていただいた「おねSSこんくーる」で最も重大な突っ込みどころがあったユニ子さん作「澪の演劇部ブログな日々」の外伝として、趣味全開モードで作りました。


プロローグ

あの3人だけの練習の後、澪と浩平は、部会の席でみさき先輩を澪と一緒に出演させる提案をした。

しかし、脚本係、演出係、大道具係たちから猛反発を食らった。何故ならシナリオも演出もセットも作り直しだからだ。

一方、照明係はピンスポットライトを買ってくれたら、みさき先輩が舞台にいないように見せると豪語した。

しかし、衣装係からは澪とみさき先輩が手をつないでいないように見せかけるのは無理だと欠陥を指摘された、さらに予算が足りずピンスポットライトは買えない事が判明し、結局、澪とみさき先輩の舞台上での共演は却下された。

だが、それでは声を入れるのが非常に難しい事も事実だと皆悟っていた。特に音響係はできれば共演して欲しいと心の中で思っていた。

しかし、音響係には別なあてがあった。浩平の同級生、電子音楽研究会の中崎だ。

電子音楽研究会にはDJまがいのことをしている奴からシンセサイザの演奏、打ち込み音楽、サウンドプロジェクションをやる奴まで色々な奴がいた。

そして、中崎はDJまがいのことをしている奴の一人だった。彼らに頼めば、澪の演技に合わせてみさき先輩の声を入れてくれるんじゃないかという期待があった。

浩平と音響係は中崎に相談に行った。そして中崎が電子音楽研究会のDJではNo.1だという事を知った。

しかし、中崎の返事もみさき先輩の最初の返事と同様に断るというものだった。だが、浩平がみさき先輩が一緒に出ることになった経緯を説明すると、浩平と澪、そしてみさき先輩の演技から、生贄にされる少女の心情を掴むことが出来れば、演奏は可能だと言った。しかし、この場面での音響は全面的に任せて欲しいとも言った。

そして中崎が最初に提示したアイディアは、中崎のかける音楽と澪と浩平の演技をシンクロさせて、決め台詞を言うのに相応しい場面で、サンプリングしたみさき先輩の声を入れるというものであった。

そのためには、吹奏楽部の演奏を上手く切る必要があった。

そこで、浩平たちは、中崎が作曲したソロパートの楽譜とスコア、そしてコンセプトの書かれたメモを持って、吹奏楽部長と瑞佳に頼み込んで、吹奏楽部の演奏の最後の部分を〆る、という大役を担うソリストを出してくれるように頼む事になった。

中崎が作曲したソロパートはソリストの演奏するパートが、浩平が澪を捕まえに行く時の扉を開く音に繋がっているのである。

そして、浩平たちが拍子抜けしてしまうほど、こちらの頼み事は上手く行った。そう、瑞佳が名乗りを上げたのである。コントラバスでは低音過ぎ、バイオリンでは高音過ぎるという単純な理由からであった。

険しい道のり

その後、中崎と瑞佳を加えて練習を始めたが、浩平と澪の演技を見るだけではやはり難しい。そこで、練習の時だけみさき先輩に決め台詞を言わせる事になった。

それからというもの、台詞のタイミングと演技のタイミングの調子が合ってきた。

しかし、みさき先輩がいないときには調子が狂ってしまう。

そこで、この場面は、音楽に合わせて演技をしてもらう事になった。無論、ピッチ可変型のプレーヤーを使っているので、浩平と澪の演技に合わせて音楽のタイミングを変えることが出来る。みさき先輩が決め台詞を言う場面がどの音であるのか、中崎は必死に追っていた。

練習が進み、みさき先輩が、舞台から放送室の中崎の隣で決め台詞を言うようになった。しかし、サンプラーから声を出すタイミングは徐々に改善されてはいるが、違和感を拭う事は出来なかった。

そこで、フェーダーを使ってみさき先輩の生声で台詞を入れる事になった。最初は中崎が操作していたが、やはり違和感を拭う事は出来なかった。

結局、澪に十分に感情移入が出来ているみさき先輩にフェーダーの操作とマイクから台詞を入れてもらうことになった。


この練習の間、澪のブログは不安に満ちた内容であった。


そして、いよいよ部員達による決断の日が来た。

前日の澪のブログはとてもではないが、涙無しでは読めないものであった。

通し練習で、脚本係と演出係のGOサインを貰い、この方法で公演に臨むことになった。

この日の澪のブログは、これまでの不安に満ちた内容と異なり、喜びに満ちたものであった。

公演当日

公演当日、吹奏楽部はチェロの瑞佳がバンドマスターを勤めるという異様なスタイルで演奏に臨んだ。そして、瑞佳のソロ演奏に入ってから、照明を落とした放送室内で中崎が瑞佳の演奏とAphex TWINのSchottkey 7th Pathを緊張した面持ちでミキシングし始めた。そして、瑞佳の演奏が終わる頃、Schottkey 7th Pathの最初のハイライトでBGMがSchottkey 7th Pathに完全に切り替わった。

そう、Schottkey 7th Pathは追う浩平の辛い心情と、澪の恐怖感をともに表現できるとして中崎が選んだ曲だ。

浩平と澪の演技を格子窓から見ながら微妙なピッチ調整をしてゆく。ここにある光は、舞台からの反射光と、DJ機器の表示ランプ類だけであった。

そして、Schottkey 7th Pathの最後の軋り音が終わり、澪が連れ出されてゆく場面でみさき先輩がフェーダーを引き決め台詞を入れた。この時のみさき先輩のオペレーションと台詞の発声は極めて自然で、この手の演奏に慣れているはずの中崎をも驚かせた。

そして、舞台の照明が落ちると共に中崎はミキサを切り替え、音響係が演じる澪が連れ去られる効果音だけが響く舞台を作り出した。

重大な仕事を終えた中崎とみさき先輩は、装着していたSENNHEISERのヘッドホンを外して放心状態で放送室の椅子に腰掛けていた。

やがて、緞帳が下り、体育館の照明が点灯されカーテンコールが始まる。

そのため、バルコニーにいた照明係達は照明を落とすと、音響係が演じる澪が連れ去られる効果音だけが響いている間に、素早く舞台の袖でスタンバイしていた。

しかし、演奏が終わって気の緩んでいた中崎は、再びヘッドフォンを着け、自分のミックスCDを聞いていた。だが、それがいけなかった。

「みさき先輩、中崎さん下に降りてきてください」と呼ぶ声が舞台から響いた。

脇役の出演者、各係、演出係、脚本係、主役、部長の順に壇上に出て行く中、演劇部長は中崎が待機していないことに気付いた。

瑞佳とみさき先輩と中崎は、いわば今回の舞台のゲスト出演者である。部長が特別に紹介するのが筋というものであった。

部長は、登場まで時間のある主役2人である浩平と澪、そして脚本係と演出係を集めた。

浩平にみさき先輩のサポートを、澪と脚本係と演出係に中崎の居場所を探すよう指示を出した。

演出係は部室棟を、脚本係は体育館から近い教室を、そして澪は体育館内を探した。

まず、澪は一番怪しい放送室に侵入した。そこには、幻想的な光の煌きの中で一人で寛ぐ中崎の姿があった。

澪は中崎の制服が伸びきるほど引っ張った。その拍子に中崎は椅子ごと倒れ、聞きながら悦に入っていたミックス曲集の一曲、Under WorldのKittensが大音量で体育館のスピーカーから響き渡ってしまった。

それに加えて部長のハンドマイクからアンプに回り込みを起こしてハウリングを生じ、とんでもない事になった。

観客も、演劇部員も、吹奏楽部員も体育館にいた者は全員耳を塞いだ。

そして、脚本係と演出係は体育館から響く大音響に中崎の存在に気付き、大急ぎで体育館に戻った。

放送室だけは遮音されているので、大音響が響く事は無かったが、それでもそれなりにうるさかった。

放送室の明かりを点け、
『来るの』とスケッチブックをかざす澪、そして転倒状態から立ち直った中崎は、
『うるさいの』という澪の言葉に音を止めた。

カーテンコールは既に演出係と脚本係まで回っており、部長は緞帳の裏で放送室に向かって、中崎をバルコニーに連れ出すよう澪に叫んだ。

澪は部長の言う通りに、中崎を普段は使われない、体育館横のバルコニーに引っ張り出して、大きく手を振った。

そのことを確認した部長は、壇上に浩平とみさき先輩に送り出すときに、澪と中崎の方向へ小さく手をかざし、小声で浩平とみさき先輩に耳打ちした。さらに照明係の一人を澪達とは反対側のバルコニー上の照明装置に待機するよう指示した。

照明係が準備できた合図を浩平に送った。

浩平は挨拶の後、
「バルコニー上のヒロインに盛大な拍手を」 と観客に呼びかけ、澪の方向に手を差し出した。そして、照明係は澪に照明を当てた。

観客達は驚いたようにバルコニーを見上げると、ひときわ明るく照らし出された澪が、深々とお辞儀をした。

そしてみさき先輩も、挨拶の後、バルコニーの中崎方向に手を差し出し、

「公演中、ずっと私のそばを離れなかった素敵な男性にも盛大な拍手を」 というみさき先輩の言葉に、観客は半ば苦笑しながらも、照明を当てられた中崎に対しても拍手が送られた。

中崎はマイクを持っていなかったので、澪からスケッチブックとペンを強奪し、

『ありがとう、僕も演奏を楽しめたよ』と書いてかざした。さらに2枚目には
『素晴らしい女性と密室で二人きりで素晴らしい経験をした』と書いてかざした。

観客席にどよめきが広がる。

浩平から、中崎のメッセージを全て聞かされていたみさき先輩は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ひどいよ、中崎君」と小声で言った。

バルコニーの上では、中崎がスケッチブックを取り返した澪に、ベチベチと叩かれながらも、観客や壇上のメンバーの拍手に、敬礼のポーズで答えていた。

そして中崎は澪から再びスケッチブックを奪うと、
『VJ/GJ』と大書きして、照明係を指差した。

しかし、誰からも反応はなく、拡げたままのスケッチブックを澪に渡すと中崎は拍手と照明係への両手指差しを繰り返した。

皆、ようやく意味を理解したのか、場内から照明係へ、暖かい拍手が送られた。

照明係は照れ隠しのためか頭を掻いていたが、まんざらでもない様子で、澪と中崎の二人を照らし出していた。中崎は澪から拡げたままのスケッチブックを受け取り、高く掲げた。

一方の澪は皆と同様に拍手をしていた。

そして、壇上中央に演劇部長が立つと場内が静まり返った。

ソリストの瑞佳の紹介と、瑞佳からの挨拶を求めた。

今公演の若干のアクシデントに対する謝罪と、怪我の功名ともいえる形での成功に対する謝意を示して場を〆ると、バルコニーの3人も含めて皆盛大な拍手で応じた。

そして、異例尽くめの公演が終わった。

今日の澪のブログには何が記されるだろうか。