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名雪と北川の東京旅行


この文書は、keyの作品であるKanonのシナリオを基にした二次創作です。

栞エンド後を想定しています。

実は、これはシナリオ募集向けの習作です。応募作品は当然オリジナルで作成します。


羽田から出発

名雪と北川は、大学の推薦入試のために東京へ来ていた。

羽田に降り立った二人は、何となくおのぼりさんに見られるのが嫌で、京急のホームに立っていた。 二人が受ける大学は渋谷から程近いところにあったので、渋谷に宿をとっていたのである。

それと、香里に聞いた話では、羽田から京急の快特に乗って品川で山手線に乗り換えるのが一番簡単で安いのだという。

というわけで、快特のチケットを駅員の所に買いに行ったら、パスネットというカードを勧められた。品川から渋谷まではJRのきっぷが必要だが、羽田空港から品川まで行くのと、渋谷から二人が受ける大学までだったら自動改札機で使えるのできっぷを買う手間が省けるのだそうだ。

名雪
「快特の特急券も下さい。」
駅員
「うちはWingの品川から上大岡の間以外は特別料金はいりませんよ。普通運賃で乗れます。」
名雪
「そうなんですか、知りませんでした。」
駅員
「会社によって制度が違いますからね、確認するのは良い事だと思いますよ。」
名雪
「はい。」

無事にホームへ降り立った二人だが、どれが品川に行くのか分からない。浦賀行きの電車には「KEIKYU」と書かれているが、「北総鉄道」と書かれた電車は「印旛日本医大」行きや「印西牧の原」行きであり、快特は「成田」行きで「Keisei」と書かれていたのであった。多くの乗客たちは迷わず電車に乗り込んでいるが、彼らには何がなんだかさっぱり分からなかった。時々来る「東京都交通局」の電車もそんな感じだった。

とにかく品川行きが来ないのである。そこで、係員に品川行きはどれか聞いた。

北川
「あの、すみません。」
係員
「はい、どうしました?」
北川
「品川へ行きたいのですが、どれに乗ればいいのでしょうか?」
係員
「これに乗れば品川まで行けますよ、これから私が乗務しますから。」
北川
「ありがとうございます。おかげで助かりました。」
係員
「どういたしまして。」

名雪と北川は品川方面行きに飛び乗った。車内はクロスシートで扉の近くのスペースが広く取ってあったが、満席で補助椅子もロックされていた。

運転士
「出発進行、エアポート快特成田空港行き、次京急蒲田停車、発車1分30秒延」

名雪と北川は、自分達のせいで遅れたようで良い気分がしなかった。

京急蒲田の速度制限区間を抜けると一気に加速する。

運転士
「場内進行、制限115」

車内ではロックされた補助椅子にもたれ掛るように二人並んで立っていたが、平和島のカーブでは、遠心力のせいで名雪は北川に抱きつくような格好になった。

名雪
「わっ、わっ。」
北川
「止めろ水瀬、バカップルに見られるぞ。」
名雪
「だって…」
運転士
「制限解除」

大森海岸のラブホテル街や競馬場から程近い立会川をフルスピードで駆け抜け、鮫洲の急カーブに差し掛かった。

運転士
「場内進行、本線、制限80」

今度は鮫洲-青物横丁間の速度制限区間で、北川が名雪に抱きつくような格好になった。

北川
「おおっと。」
名雪
「重いよ、北川君。」
北川
「ごめん。」
運転士
「出発進行、制限60」

青物横丁を過ぎ再び加速した。

運転士
「制限解除」
名雪
「わっ、わっ。」
北川
「大丈夫だ、支えてやるから。」
名雪
「ありがとう。」

何はともあれ、1分30秒の遅延を無事回復して品川に着いた快特から降りた名雪達に、運転士が声をかけた。

運転士
「ごめんね、定刻で渡さなきゃいけないから、速度制限目一杯まで出しちゃって。慣れてないなら下の高輪口から出た方がいいよ。」
北川
「はい、ありがとうございます。」

名雪達は運転士のアドバイス通り、賢明にもJRとの連絡口でなく高輪口から降りJRの切符を買った。山手線の表示には大崎・渋谷・新宿・池袋方面と書かれており、どの電車に乗ればいいか楽勝で分かった。

途中で通った五反田西側の光景は彼らにとってあまりにも刺激的過ぎた。

名雪
「ねえ、北川君?」
北川
「何だ?」
名雪
「北川君も、やっぱりああいうお店に行くの。」
北川
「さぁな。」
名雪
「うー、誤魔化してる。」
北川
「金があって、ああいう店に行きたい気分だったら行くだろうな。」
名雪
「やっぱりそうなんだ。」

今日の彼らの宿は、親達が大奮発してセルリアンタワーをとってくれたのだったが、渋谷駅からはちょっと分かりにくい場所にあるのだった。渋谷の町を迷いながらも何とか辿り着いたが、もうへとへとで、試験勉強などするきは起きなかった。

一応、明日の行程や天気を確認するために、北川の部屋に集まりテレビのニュースをつけたら、明日乗る線が混雑率私鉄ワースト1だということが報じられていた。

北川
「大丈夫かな?」
名雪
「うーん、心配だね。でも、ふぁいとっだよ。」
北川
「そうだな。」
名雪
「じゃあお休みなさい。」
北川
「ああ。」

名雪は、自室へ戻った。


受験日

いよいよ、受験日の朝、二人は混雑率私鉄ワースト1といわれる路線の狭い渋谷駅ホームに立っていた。名雪達がこれから向かう方向から次々と到着する電車からは、自分達が今住んでいる街の人口を上回るんじゃないかと思うほどの人々が吐き出されてくる。中には降りたとたんにベンチで気分悪そうに休んでいる人も居る。

名雪
「どうしようかな。」
北川
「受験を諦める気か?」
名雪
「だって、こんななんだよ。」
北川
「どうにかなるさ。今は合格する事だけを考えようぜ。」
名雪
「うん、そうだね。ふぁいとっだね。」

名雪と北川は、それぞれの受験会場へ向かい、再びセルリアンタワーに戻ってきた。そして、明日の行程を確認するため北川の部屋に集合した。

北川
「疲れたな。」
名雪
「そうだね、ごみごみした都会は疲れるよ。」
北川
「そこで、提案だ。」
名雪
「何?」
北川
「美坂に教えてもらったんだがな、昨日乗った京急の終点の三崎口ってあるだろ。」
名雪
「そうなんだ。」
北川
「そっから大根畑の間の道を抜けていくと海に出るんだってさ。」
名雪
「それで。」
北川
「気分転換にぴったりだろ。」
名雪
「そうだね。でも飛行機に間に合うかな。」
北川
「美坂に聞いたんだが、京急蒲田か京急川崎で乗り換えれば羽田空港まですぐだってさ。」
名雪
「そうなんだ。じゃ、行ってみようか。」
北川
「ちょっと早起きしないといけないけどな、行こうぜ。」
名雪
「うん、それじゃ、お休みなさい。」
北川
「ああ。」

名雪は、自室へ戻った。


小旅行

名雪にしては珍しく早起きしていた。もっとも、それは朝飯の時間が限られていたためだが。

名雪
「ねえ、どうやって行く。」
北川
「無難なところで、品川から乗るか。」
名雪
「そうだね。」
北川
「じゃ、チェックアウトしたら早速行くか。」
名雪
「うん。あ、そうだ荷物宅急便で送っちゃわない。」
北川
「そのほうが身軽だしそうするか。」
名雪
「うん。じゃ用意しようよ。」
北川
「そうだな。」

二人はさっさと、朝食を済ませると、着替えや参考書をバックに詰めて自宅へ送り、貴重品だけを持って出かけた。

二人は、五反田では西側を見ないようにしながら無事品川に着いた。

今日はJRの切符とパスネットを両方持っていたので、JRとの連絡口をスムーズに抜ける事ができた。真ん中辺から後ろは混んでいるので前の方へ行った。

やってきたのは「2100」と書かれた、まるで特急電車のような電車であった。

北川
「あの、すみません。この電車は特別料金が必要ですか?」
運転士
「ああ、君達か。Wing号として、品川から上大岡まで走っているとき以外は特別料金は必要ないよ。丁度、運転台の後ろの右側の席が空いてるからどうかな。この電車は展望がいいんだ。」
名雪
「運転士さんお勧めの座席だよ。今のうちに座ろうよ。」
北川
「じゃそうするか。」
運転士
「じゃ、楽しんで行ってね」

今日は定刻で発車したらしく、まったりとした走りだった。

名雪
「あ、見て見て、JRの電車を追い抜いてるよ。」
北川
「あ、本当だ。」

横浜を過ぎ、日の出町を過ぎると沿線の景色ががらりと変わる。まるで両サイドが五反田の西口のようだった。が、それもトンネルを抜けると、ごく普通の町なみに変わって行った。もっとも、名雪や北川にとっては不思議な景観だった。そう、急傾斜地に山林と住宅地が混在しているのである。金沢文庫を過ぎるとさらに異様な雰囲気になっていった。海岸を走っているはずなのに山の中を走っているのだ。

名雪
「なんか不思議な景色だね。」
北川
「ああ、そうだな。海の近くを走っているのに全然海が見えない。」

堀の内を過ぎると再び山間を抜け久里浜に出る。

名雪
「この辺ってさ、小学校の歴史の時間に出てきたような地名が一杯あるね。」
北川
「美坂をガイド役にして卒業旅行はこの辺来るか?」
名雪
「あ、それいいかも。」

久里浜線を走破し、三崎口に着いた二人を待ち受けていたのは、感動的な光景だった。大平原一面に広がる畑に遠方に見える低い山並み。まるで名雪達の街を田舎にしたような景色だった。

名雪
「ねえ、記念写真とって行こうよ。」
北川
「カメラ持ってないぞ。」
名雪
「売店で写ルンです買ったらいいよ。」
北川
「そうするか。」

畑をバックに代わる代わる写真を撮っていると、農作業中のおばさんが気を利かせてくれたのか、二人が並んだ写真を撮ってくれた。

北川
「ありがとうございます。もう一つお願いしたい事があるのですが。」
おばさん
「ん?、何?」
北川
「大根畑の中を歩いてゆくと海岸に出ると友達に聞いたのですが、どの道を行けばいいんでしょうか?」
おばさん
「そこに京急の変電所があるでしょ。」
北川
「はい。」
おばさん
「そこの道を真っ直ぐ行くと下り坂になっていて、遠くに集落が見えてくるんですよ。」
北川
「はい。」
おばさん
「で、突き当りを左に行くと三戸の集落に出るから左に曲がって道なりに歩いていけば海岸に着きますよ。」
北川
「はい。ありがとうございます。大体どれくらいで着きますか?」
おばさん
「普通に歩いて3〜40分かな。」
北川
「はい。ありがとうございます。行って帰って来て充分間に合いそうです。」
おばさん
「じゃ気をつけて行って来てね。」

誰もいない砂浜に名雪と北川が二人きりでいた。

名雪
「良い景色だね、心が洗われるようだよ。」
北川
「記念写真撮るか?」
名雪
「うん。」

海をバックに代わる代わる写真を撮っていた。近所のおばさんと思しき人が通りかかったので。二人並んで撮ってもらったりしていた。

こうして時間が過ぎて行ったが、北川には心に引っかかっている事があった。そう祐一のことだ。

北川
「なあ、水瀬、相沢はどうするんだ?」
名雪
「両親と相談してるみたいだけど、外国にいるからなかなか連絡が取れないみたいで、一人で悩んでいる事も多いみたいだね。」
北川
「この時期にか?」
名雪
「だから、一般入試でも対応できるように香里に勉強教えに貰っているみたい。」
北川
「そうか…。水瀬も相沢の支えになってやれよ。いとこ同士で同居人なんだからな。」
名雪
「そうだね、勉強は教えられないけど、心の支えにはなってあげられるかもね。」
北川
「ああ、そうしてくれ。」
名雪
「この景色、祐一にも見せてあげたいな、きっと悩み事も軽くなるよ…」

こうして、名雪は祐一のことを思いながら再び時間が過ぎていった。

北川
「あの〜、水瀬さん。」

ボーっと海を眺める名雪の顔の前で、北川が手を振ってみた。名雪の意識が戻ったようだ。

北川
「時間大丈夫か?」
名雪
「あ、走らないと間に合わないみたい。」
北川
「俺、水瀬と走ったことないけど付いていけそうか?」
名雪
「祐一より速ければ大丈夫。」
北川
「いつも水瀬に鍛えられている相沢より速いわけないだろう。」
名雪
「ふぁいとっ、だよ!」

いつになく真剣な表情の名雪に北川にも気合が入る。

北川
「とにかく頑張るしかないな。」

二人は猛スピードで走った。が、無情にも予定していた電車が出た後だった。

北川
「仕方ない、とにかく空港まで行こう。」
名雪
「そうだね」

情けない声で名雪が答える。

とりあえず、二人は飛行機に乗り遅れるかもしれない事を家族に連絡した。水瀬家では夕飯の準備をしている秋子さんに代わって祐一が出た。

祐一
「ついに、飛行機にも遅刻か。やるな、名雪。」
名雪
「半分は祐一の責任なんだからね。」
祐一
「えっ?」
名雪
「北川君、祐一のこと物凄く心配してたよ。それで相談してて遅くなったんだよ。」
祐一
「そうか、ごめん。とにかく次の電車で何とか急げば間に合うかもしれないぞ。」
名雪
「そうだね、それじゃ。」
祐一
「ああ。」

次の電車には間に合ったが、果たして飛行機に間に合うのか?

YRP野比という駅から乗ってきたビジネスマン2人の会話が聞こえてきた。

どうも、同じ街へ、同じ便に乗って出張するらしい。

名雪と北川は彼らを尾行する事にした。何か裏業があるに違いない。

だが、何のことはなかった。彼らは京急川崎で降りて、羽田空港行きの始発特急に乗り換えただけであった。要するに、名雪達が乗ろうとしていた電車の一本後であったのだが、チェックイン時刻はぎりぎりでみやげなど買う暇はなかった。確かに出張に行くのにみやげなど買う必要はなく、時間ぎりぎりでいいのは当たり前だった。


帰郷

飛行機は定刻通りに空港に到着し、駅にも予定通りに着いた。だが、予定外のことが一つだけあった。

防寒着に身を包んだ祐一が暖かい缶コーヒーを2本用意して待っていたのだ。

今回の件は祐一にも責任があるからせめてものお詫びなのだそうだ。

名雪
「ありがとう。でも、速く進路決めなよ。」
北川
「コーヒーありがとう。速く進路決めないと、浪人生とか仮面浪人生になるからな。速く腹を決めろよ。」
祐一
「ああ、分かってる。」
北川
「ちなみに、美坂と勉強してるんだろ。あいつはどうした。」
祐一
「結局、地元の国立文系にするらしい。」
北川
「そうか、お前も速く決めろよ。もう一般入試の願書が売られてるくらいだからな。」
祐一
「ああ。実は俺、親父達と一緒に住もうと思うんだ。」
北川
「外国の大学か。」
祐一
「ああ。だから今、香里には英語を重点的に教わってる。」
名雪
「ふぅーん、祐一もいなくなっちゃうんだ。」
祐一
「別に死ぬわけじゃないし、休みには帰って来て会えるだろ。」
名雪
「うーん、そうだね。」
北川
「外国の大学か。じゃあ、俺達より半年余裕があるわけだ。」
祐一
「まあ、就職活動では不利だけどな。」
名雪
「そういえば、栞ちゃんはどうするの?」
祐一
「超遠距離恋愛だけどな、電子メールは欠かさないようにするよ。」
北川
「お前、帰ってきたらちゃんと愛してやるんだぞ。」
祐一
「もちろんさ。」
名雪
「そうだね、私も帰ってきたらちゃんとお母さんを愛してあげなきゃね。」
北川
「えっ!お前達親子でそういう関係だったのか?」
名雪
「違うよ、ジャムをちゃんと食べてあげるんだよ。」
祐一
「あれ食って大丈夫なのか?」
名雪
「イチゴジャムにちょっと混ぜるだけなら大丈夫だよ。」
祐一
「そうか、じゃ明日早速試してくれ。」
名雪
「え〜」
祐一
「やっぱり無理なんだな。」
名雪
「うー、それなりに覚悟が必要だよ。それに、わたしもう眠いから速く帰ろうよ。」
北川
「そうだな、それじゃな。」
祐一
「ああ。」
名雪
「またね。」