私が、初めてプレイしたのがDVD版Kanonですので、オリジナル版やアニメ、小説、二次創作から入った方々とは異なるKanonの世界に対する見方を持っている可能性があります。
当サイトに掲載しているSSは私なりの解釈に基づく見方を元に書いておりますので、ここで、私なりの解釈について説明いたします。
Kanonのゲーム世界において中心となるのは、祐一が7年前に経験したあゆの転落事故と考えてよいでしょう。それ以外の話もありますが、どうしても思い出せないほど強く記憶の奥底に封じ込めていた事象は、あゆの転落事故を置いて他にはありません。
事故当日、名雪が持ってきた雪うさぎを破壊したのも、「雪、木の葉、赤い目」というあゆの転落事故を想起させるものだったためと考えるのが妥当といえます。
例えば、真琴の話では、狐が人間に化けるという話しな訳ですが、そんなことは信じられないが、そう考えないと辻褄が合わない故に、祐一が子狐を一時的に飼っていた事を覚えていても、すぐには信じられなかっただけの話しといえます。また、舞の話に関しては、10年前に遊んだ事がある女の子のことを単に忘れていただけといえるでしょう。
Kanonのゲーム世界では、舞シナリオに示されているように超能力が存在するので、祐一にも、舞と類似の超能力があると想定できます。
祐一は7年前の事故の際にあゆの幻を現実として思い込み、その後、本物のあゆの存在を否定し続けていたと思われますが、たいやきを持って走ってきた月宮あゆが登場するのが、祐一が7年前の事を思い出そうとする時であることから、祐一の記憶で封印されていた幻の月宮あゆが、祐一の超能力によって具現化したものと考えられます。
街で出会ったときに幻のあゆは祐一の手を引いて商店街を走り回ります。これは7年前に初めてあゆと遭遇したときの状況が再現されてるといえます。
また、2度目の遭遇ではあゆと祐一が天使の人形を埋めた遊歩道まで行ってしまいます。無意識のうちにあゆの事を思い出しかけていますが、あゆの容姿がまるで天使の人形のようである事、これは祐一が幻のあゆに縋ろうとしている事を暗喩しているように考えられます。
この時点では、あゆが木から転落した事は未だ祐一の記憶の奥底に封じ込められている半面で、7年前にある少女と遊んでいたことは思い出しかけています。
さらに、あゆシナリオの中で7年前に巨木の下でカチューシャを渡して、あゆと別れる時に巨木の下で再会する事を約束した相手は、祐一の見た幻であり、祐一自身は木から転落したあゆの存在を否定し続けていたがために、その呪縛によってあゆの意識が7年間戻らなかったものと解釈できます。(つまり、祐一が起こした超常現象として7年間意識不明であったと考えられるわけです。)
以上の事から、祐一が街で出会ったあゆは祐一が作り出した幻と解釈できます。
あゆシナリオでは、祐一及び幻のあゆは、本物のあゆが木から落ちて死んだと考えていたわけですが、幻のあゆが消えた後、祐一は秋子の言葉からあゆが生きていた事を知ります。
では、あゆの生存可能性について検討してみましょう。
これらのシナリオでは、積極的に幻のあゆが関わってきます。さらに、エンディングにあゆのモノローグが流れますが「たった一つの願いを叶えてボクの夢は終わる」とあります。
あゆの「たった一つの願い」とは「目を閉じて次に目を開けたときに違う空が見えますように」ということです。つまり、空を覆うように泣いている子ども、すなわち祐一の泣き顔が消えていることを願って解釈できます。
名雪及び栞シナリオでは、祐一はあゆではなく名雪または栞を恋人として選択します。そのことによって、本物のあゆに掛けられていた祐一の呪縛が説かれ、あゆが目覚めるものと解釈できます。 このことから、これらのシナリオのエンディングであゆのモノローグが流される理由は次の2通りが考えられます。
実際には何の役割も果たしていませんが、最後のあゆの夢のモノローグが「想い出が雪の中に埋もれてゆく」ということから、祐一の呪縛が解かれるものの、祐一と過ごした記憶そのものが消えてしまうと考えられます。
あゆシナリオの最後で幻のあゆが「ボクの事忘れてください」と言って消えてしまいます。
これは、祐一が7年前の事実を受け入れ、祐一の意識の作り出した幻のあゆ、すなわち祐一自身の意識の中で、幻のあゆに縋る事を止めると言う決意の現れと考えられます。つまり、幻のあゆに「僕のことを忘れてください」と言わせることによって、幻のあゆに縋る事を止め現実を受け入れると言う決意を確定的なものにします。
その結果、本物のあゆの意識が戻ると共に、祐一があゆを好きでいた事を知っていた秋子の言葉によって、祐一とあゆの再会が果たされるものと考えられます。
Kanonは元々奇妙な世界を扱った話ですが、Kanonの中にはさらに奇妙な話があります。
ゲーム中で秋子が語るには、「転落事故の再発防止のため」巨木を伐採した事になっています。しかし、ゲーム中で祐一が語っているように商店街から一本単独で見えるほど高い木があり、そこから、薄幸の少女が転落したとなれば、その不幸な事件を思い出させる存在を見えなくしてしまう、すなわち伐採する事によって商店街の人々が不幸な事件を忘れようとして行った行動と考えるのが自然でしょう。すなわち、祐一が名雪が作った雪うさぎを破壊し、7年間この街を避けていたのと同様の行動と考えて良いといえます。
早朝から営業しているたいやき屋が実在しないとは言い切れません。しかし、商店街でアルバイト情報誌を買うために祐一が寄り道した際に出会った幻のあゆの台詞に以下のようなものがあります。
ここで言う「学校」とは巨木のことであり、7年前にたいやき屋に寄ってから森の中の巨木へ行っていたことを示すキーワードとなります。
また、あゆシナリオではリュックサックの中に何も入っていなかったことから、お金など持っていなかったといえます。
つまり、祐一が学校に行く前に商店街に寄った事で、記憶の断片が甦ったと考えられます。
また、幻のあゆはお金など持っていないわけですから、たいやき屋の親父とたいやきそのものも祐一が作り出した幻であるとも考えられます。
これは、あゆシナリオをプレイしていただければわかっていただける思います。
Kanonでは、祐一や美坂チーム、そして水瀬秋子は固定的に存在します。そして、祐一がヒロインの誰か一人を恋人または見守るべき対象として選択したとき、幻のあゆは消えます。
しかし、名雪以外のヒロイン達は祐一の目の前から姿を消す事もあれば、祐一と共にエンディングを迎える事もあります。祐一の目の前から消えてしまったヒロインたち、また姿を見せることもないヒロイン達の運命はどうなってしまうのでしょうか。
彼女達はKanonの中ではどうなったか語られません。つまりどのような運命になったかは全く分からないわけです。
例えば、栞は2月1日までに死んでしまうかどうか、それは分かりません。
真琴が妖狐であることが分からないまま、姿を消したらどうなるかも分かりません。
また、夜の学校へノートを取りに行かなかったり、係わり合いになる事を避けたら、舞と佐祐理はどうなってしまうのか、それも分かりません。ただ、名雪シナリオの中で舞が作ったと考えられる雪うさぎが損傷している状況が語られるだけです。
いわば、彼女達は「シュレディンガーの猫」というイメージがフィットする存在な訳です。
Kanonの中で特別な登場人物の双璧を成す一人は天野です。真琴シナリオの中でのみ登場し得る人物ですが、祐一の対応次第で、天野の運命も祐一の運命も真琴の運命の水瀬親子の運命も変化して行きます。そして、祐一が真琴をきちんと看取ってやった後、まるで祐一の恋人のように振舞います。
しかし、祐一の対応が次第ではシナリオ中では心を閉ざしたままとなります。また、真琴シナリオにならなかったときはどうなるでしょうか?
いずれ心を開く日が来るかもしれませんし、そうではないかもしれません。彼女もまた「シュレディンガーの猫」というイメージがフィットする存在な訳です。
Kanonの中でも最も特別な登場人物のの双璧を成すもう一人は久瀬です。舞シナリオの中でのみ登場します。
もし、舞の「佐祐理を泣かせたら許さないから」という事件が起ったら久瀬はどうなってしまうでしょうか。おそらく、プライドを大きく傷つけられた久瀬は、不良少年になってしまうと考えられます。よい子として振る舞い、学校内で高い権力を握っている久瀬が、問題児から強い脅しを受けただけで、佐祐理の姿を見ただけで逃げ出してしまう情けない人物であることがゲーム中で語られていますが、そうなってしまった人物が縋れる相手というのは往々にして暴力団とのつながりのある問題児たちであろうと考えられます。
何といっても、久瀬はお金持ちのお坊ちゃんですから、不良少年達が金づるとして仲間に引き入れようとするのは必至でしょう。特に、プライドや権威を大きく傷つけられた状態で、不良少年達が優しく接してくれば、簡単になびいてしまうと考えるのが最も自然です。
「佐祐理を泣かせたら許さないから」という事件が起こらなければ、これまで通りのちょっと生意気なお坊ちゃまとして、次期生徒会長が決まるまで生徒会に君臨しているかもしれません。
彼もまた「シュレディンガーの猫」というイメージがフィットする存在な訳です。
祐一がどのように行動したかによって、登場人物の運命が変わる。当たり前といえば当たり前ですが、祐一が係わり合いを持たなかった登場人物もまた勝手に行動しているように見えることから、Kanonの世界は一種のパラレルワールドといえます。
原作で語られることは原作に忠実に。また、そうでない所はお話を作る上で都合よく設定をでっち上げる余地が十分に残されているのが、Kanonの特徴といえます。それ故に二次創作も盛んなのでしょう。
私が作成しているSSは基本的に上記の解釈に基づいています。