作:◆Sf10UnKI5A
「単刀直入に聞くぜ。――“ウィザード”はどうなりやがったんだ?」
雨の中、十メートルほど離れて向かい合う二人が居る。
問い掛けを放った少年は甲斐氷太。
そして問い掛けられた少女は風見千里である。
「どうなったも何も、……放送、聞いたでしょ?」
「質問の仕方が悪かったか?
俺が聞きたいのは、あいつが、どうして、どうやって、どんな風に死んでいったのかってことだ」
口を動かす甲斐の体は絶えず殺気を発しており、風見にプレッシャーを与えている。
しかし、風見にとって甲斐が会話を持ち掛けてきたのは幸運だった。
(とりあえず五分稼げれば、ブルーブレイカーが気づくはずよね)
ただし、彼が異常に気づくことと、彼が地下から地上へ移動出来るのかは別問題だ。
それを考えれば、
(向こうは頼りに出来ない、か……)
状況判断をしつつ、風見は慎重に言葉を選ぶ。
「あいつは、私達と同じくらいの少年に撃ち殺されたわ」
「お前をかばって、か?」
「…………そうよ」
下手な誤魔化しは効かないと思い、風見は正直に答えた。
風見の返答を聞いた甲斐の心中は、
『やっぱりな』という思いと『馬鹿野郎が』という思いで半々だった。
仲間をかばうという行為はいかにも物部景らしいが、
命を奪い合うこの島でそれを実行するのは正しいことだろうか。
「で、その少年Aはどうなったんだ?」
「……私は、あいつが撃たれた後逃げたから知らないわ。
名前も知らないから、放送じゃ判らない」
「つまりお前は、同行者を殺されといてのうのうと逃げ延びたわけだ」
甲斐の風見に対する怒りが、苛立ちが、急速に高まっていく。
しかし甲斐はそれを表に出さず、静かに内に溜め込んでいる。
睨みつける甲斐の視線から、風見は目をそらさない。
風見の手の内のクルスが、無意識に力強く握られた。
「言い訳はしないわ。確かにその通りよ。
でも、私はあいつの仇を取ってやりたいと思ってる」
この言葉は、本心であり甲斐への牽制だ。
そして風見は本命の言葉を放った。
「あいつの仇をとるのに、私一人じゃ力が足りないわ。
お願い……協力してちょうだい」
(まあ、すんなり受け入れてくれるとは思っちゃいないけど……)
強烈な殺気を纏う甲斐が、戦わずにこの場を済ませてくれるだろうか。
対峙する前から風見はすぐに動き出せる体勢をとってはいたが、
激しい雨とぬかるむ足元が得意の格闘戦の障害になっている。
そして風見の最大の懸念は、――甲斐が『悪魔』を使えるのか、ということだった。
もし物部景から得た情報通りに悪魔を使えるのだとしたら、
拳銃と肉体のみが武器の風見が正攻法で勝つのは難しくなってくる。
それこそ、先制の一発で甲斐の急所を撃ち抜くくらいしかないだろう。
中途半端なダメージを与えても、こちらが悪魔の一撃でやられてしまう。
(でも、お互い殺さずに済むのがベストよね)
これから先、まだ見ぬ殺人者に出くわす可能性は決して低くない。
弾は温存するべきだし、甲斐が仲間になれば戦闘能力にも期待が持てる。
風見の最大の誤算は、バトルマニアとでも呼ぶべき甲斐の性質と、
物部景との戦いへの強い執着心を知らないことだった。
「協力? 俺がお前にか? そうする理由が存在しねえ」
「あるわよ。一人でただ戦い続けるよりも、団結して行動すれば――」
「生きて帰れる確率が上がる、ってか?」
甲斐は風見の言葉に割り込み、続ける。
「俺は別に生きて帰るとか、そういうことに興味はねえんだ。
ウィザードが死んじまった以上、俺の気が済むまでこの島の連中に相手になってもらう。
もっとも、あいつ以上に俺を熱くさせる奴が――――」
甲斐は言葉を切ると、ふっと天を仰いだ。
(何よ、急に黙り込んで……?)
「……くっ、はは、ははははははっ!! そういうことかよ!?
もっと早く気づきゃあ、他の連中もなあ……」
突然の笑いを不審に思う風見を無視し、
甲斐はデイパックへ手を突っ込みつつ風見に歩み寄った。
「!?」
身を緊張させる風見に対し、甲斐はデイパックから手を抜き出すと、
ほらよという言葉と共に手の中の物を風見に投げてよこした。
反射的に風見は受け取り、甲斐の足が止まったのを見て手の中の物を確認する。
それは、小さな楕円形をした、五粒ほどの――
「まさか、これが……」
「あいつから聞いてるか? そいつが『カプセル』だ」
「どういうつもり? 何でこれを私に……」
「どうもこうもねえよ。――お前それ飲め」
「はぁっ!? 何言ってんのよ、私がドラッグなんか」
「飲まなきゃ、今すぐ殺す」
甲斐の暴言に、風見は思わず言葉を詰めた。
「おいおい、説明聞いてないのか? しゃあねえ、教えてやるよ。
そのカプセルはな、一般人にとってはただの強烈なドラッグだ。
だが、素質のある奴が飲めば悪魔を呼び出し従えることが出来る」
「…………」
「お前はウィザードがわざわざ身を呈して守った女だ。
まさかただのジョシコーセーってわけじゃねえんだろ? ……ああ、毒か疑ってんのか?」
甲斐は先ほどのようにデイパックからカプセルを取り出し、風見に見えるように飲んでみせた。
「この通りだ。悪質な副作用や依存症もないっつー夢のようなドラッグだぜ。
もちろん、本当の魅力は悪魔だけどな」
甲斐はカプセルを嚥下し、言葉を続けた。
「お前はウィザードの代理だ。あいつと俺との勝負を台無しにしやがったんだから、
そのくらいの責任は取ってもらう」
甲斐が発するおぞましいまでの殺気は、過去風見が戦った戦士達以上にすら感じた。
トリップした甲斐の口からは、ストレートな感情のみが吐き出される。
「さあ、飲めよ。悪魔を呼び出すんだ。そして全力で俺と戦え。
ウィザードに助けられた命、俺のために使ってみせろ。
――殺し合おうぜ、風見千里」
【B-7/湖底/1日目・15:05】
【風見千里】
[状態]:やや甲斐のプレッシャーに押されている。
表面上は問題ないが精神的に傷がある恐れあり、肉体的には異常無し。濡れ鼠。
[装備]:カプセル(手の中に五錠)
グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計、クロスのペンダント。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:甲斐の言葉を受けて、どう動くか思考中。
BBと協力する。地下を探索。仲間と合流。海野千絵に接触。とりあえずシバく対象が欲しい。
【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。腹部に鈍痛。カプセルの効果でややハイ。自暴自棄。濡れ鼠。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:風見と悪魔戦を行う。無理なら風見を殺す。
とりあえずカプセルが尽きるか堕落(クラッシュ)するまで、目についた参加者と戦い続ける
[備考]:『物語』を聞いています。悪魔の制限に気づいています。
現在の判断はトリップにより思考力が鈍磨した状態でのものです。
【B-7/湖底の地下通路/1日目・15:05】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力。しずく・火乃香・パイフウを捜索。
脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。
※現在の思考・行動は不明。次の人に任せます。
2005/11/06 修正スレ183