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393:なるように、なる

作:◆91wkRNFvY

「つまり、クリーオウ、ボルカン、キーリ、ハーヴェイ、この4名は確実に安全ということか」
 宮野は先頭を歩きながら聞く。
『ハーヴィーはほっといても死なんな、だがキーリはただの女の子だ。こちらは早く頼む』
「クリーオウは何かしでかさないか心配だ、できるだけ早く合流したい。
 ボルカンは叩っ殺しても死なねぇだろ、これは放っておいていい」
 放送の後、3人プラスαはぶらぶらと歩きながらお互いの探し人や、今まで起こってきたことの確認をしていた。
 すると突然オーフェンのポケットがもごもごと動き、中から青いものが飛び出した。

『ぷぁっ。俺が人の道について語っている時に、いきなりひっつかんで暗く狭い場所に押し込む。
 思うにこれは逮捕監禁罪ということで、お前さんは10年ほど牢屋に入ってみてはどうか、意外と穏やかな人生が送れるかもしれん』
 ポケットから飛び出てきたスィリーが、オーフェンの周りを浮遊する。

「だから出てくるなっつーの、お前がいると余計混乱するんだよ……」
「あら、そうですわ、先ほどはすっかり忘れていましたが、そちらの青い妖精のような方は一体」
 茉衣子は興味津々なようで、スィリーを両手で包み片手に乗せる。

「驚かないのかね? 茉衣子くん、兵長どのを見た時は茉衣子くんらしからぬ反応だったというではないか」
「それはそれ、これはこれですわ、班長。わたくし一度妖精というものに会ってみたかったのです。
 わたくしは可愛らしいものが大好きなのですわ、お名前は何と?」
『スィリーさ、好きに呼んでくれても構わないが』
 茉衣子の手の中で答える。
「スィリーさんですか。参加者にその名前はありませんでしたから、支給品、なのでしょうか」
「おそらくそうだろう、エンブリオや兵長どのの様な支給品もあることだしな、だが本当に妖精か?」

『妖精じゃなくて精霊。似ているようで埋めがたい溝が存在する間柄だと思う俺』
 茉衣子の手のひらから飛び立ち、3人のやや前方で浮遊しながら言う。

『俺がいた世界では幽霊なんて別に珍しくも無かったけどな、だが妖精は見たこと無いな』
『けけっ、幽霊も妖精もいてもおかしくはなかったぜ、なんせ死神がいるくらいだからな』
 茉衣子と宮野の胸元からそれぞれ声がする。

「っと、話が逸れちまったが、状況の確認をしておきたい」
 目の前に浮いているスィリーを摘まんで横に放りだす。
『ここでも俺は邪険に扱われているような兆しを見せ始めたのは気のせいでは無いと公言しておく』
 オーフェンの付近ではまた摘ままれると思ったのか、スィリーは茉衣子の左肩に座り込む。

「そうだな、先ほどの続きになるが、逆に危険人物はキノという少年、マージョリー・ドーという女性、小早川奈津子という女性か。
 その小早川なる人物だが、私は一度会っているかもしれん、あまり良い思い出では無いが」 
 宮野の台詞の後、オーフェンは手で額を押さえ、首を振りながら呟く。
「俺もだ……、今は灰色の変なきぐるみを着てるからな、すぐ判るはずだ。
 その時に佐山御言っつーエラそうなヤツと、詠子って言う女の子もいたな」
「佐山御言? なるほどな! オーフェンどのは彼奴に会っていたか」
「知ってるのか?」
「我々が休憩した小屋に、彼の残した食料と自己主張の激しすぎるメモ書きがあってな、それを読んだだけだ」

 しかし、残されていたのは佐山のメモと、物語。 

「あいつらもここから出る方法を捜してるっぽかったな。
 今ふと思ったんだが、お前ちょっと佐山御言に似てねーか? 容姿っつーより物腰か」
 言いながらオーフェンは宮野の上から下までを改めて見る。

「何? それは良くない、実に良くないな! オーフェンどの!
 そこに明確な悪が存在するというならば、私は何一つ迷うことなく善の側の戦士となり、
 悪の手先を千切っては投げ千切っては投げの大立ち回りを演じるであろう。私としてはその少女というのが気になるのだが……」
 宮野はデイバックから参加者名簿を取り出し確認する。

「ヨミコ、というのは恐らくこの十叶詠子くんのことであろう」
「どうしてその方が気になるのですか? まさか班長にそんな趣味があるとは知りませんでしたわ」
「何を勘違いしているのかね? 茉衣子くん。その少女の言動について思うところがあるというのだ」
「どうでしょうか。まぁ、班長がどのような女性に興味を持たれてもわたくしの関知するところではありませんけど」
 肩をすくめながら、何故か最後の方を少し早口でまくしたてる茉衣子。

 2人のやり取りを眺めた後、オーフェンは思い出したように、
「確かにちょっと変わってる感じはしたな。そういや、良く解らねぇけど本性解読とか言ってたか……。
 あいつによると俺は"二つ目の刀子"ってことになるらしい。何で解ったんだろうな」
「本性解読か、まるで魔女の様な少女だな! いやはや、一体私はどんなカタチをしているのか」
 宮野は腕を組み、深くかぶりを振る。

「その方に見てもらう必要もありません、きっと曲がりくねった盆栽か何かですわ」
「つまり気高く活き活きとしているということか! さぞ美しい盆栽なのであろうな、老後の趣味にしたいものだ」
 老後の人生設計でもしているのか、宮野は顎に手を当て考え込む。
「それにしても悪役と魔女か、全く解り易い構図をしてくれる。いずれ相対することになるだろう。
 その時こそ悪役と魔女は年貢の納め時であると、ここに宣言しておく。
 それまでは毒にでも薬にでもなってもらうとしよう。我々は我々で仲間を保護して脱出の道を」
「あぁ、そうだな」

(一番用心しなきゃいけないのは、見た目がヤバそうなヤツじゃないけどな)
 とオーフェンは独りごちる。が、不意に何かに気付き周囲を警戒する。

「宮野、森を抜けた所に白い服のヤツがいる、女……の子だな」

「ふむ」
 オーフェンの警告を受け、身を隠すのかと思いきや宮野は意外な行動に出る。
「案ずることは無いぞ!そこな娘っ子よ!
 我々はこのケッタイなゲームから脱出しようという目的を持つ、正義の魔術師なのだ!
 キミも良かったら我々の同志にならんかね?」

「班長、いきなり声をかけるとはどういう了見でしょうか。
 先ほどの放送はお聞きになったでしょう? もう既に30人を超える方々が亡くなっているのです。
 ということは、それに近い殺人者が潜んでいる可能性がありましょう?
 もしかしてお忘れになったのですか? それとも聞いていなかったのでしょうか?
 でしたらやはり班長の脳ミソの中にはホンモノの代わりに蟹ミソでも詰まってらっしゃるのでしょうね」
 突然の宮野の奇行に、即座に非難の声をあげる茉衣子。

 まず「いきなりか」という思いに駆られつつも「正義の」というフレーズに多少の違和感を覚え、
 (まあ、なるようになるか)
 と、二人の掛け合いを聞きながらオーフェンは苦笑するのだった。

 355話の「願い」と別軸の話です。
【黒色スリーとメカ娘】
【D8/海岸/一日目/12:40】
【しずく】
[状態]:右腕半壊中。激しい動きをしなければ数時間で自動修復。
   :アクティブ・パッシブセンサーの機能低下。
   :メインフレームに異常は無し。
   :服が湿ってる。
[装備]:エスカリボルグ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:火乃香・BBの詮索。かなめを救える人を探す。

【宮野秀策】
[状態]:好調。
[装備]:エンブリオ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。
 
【光明寺茉衣子】
[状態]:好調。
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。

【オーフェン】
[状態]:好調。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、獅子のマント留め、スィリー
[思考]:クリーオウの捜索。ゲームからの脱出。

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