作:◆E1UswHhuQc
赤い液体が身体を浸している。粛々と衣服を侵蝕していくそれは、自身の血液だ。
……寒い。
新庄は寒さを感じていた。痛覚は既に超過し、寒さが身体を犯していく。
失血による体温の低下。
暗い闇が視界を包んでいく。黙々と閉じられていくそれに抗い、新庄は見た。
……ミズーさん。
血溜まりの中に倒れた佐藤の向こう、赤髪の剣士が壁にもたれかかっている。動きはない。
死んでいる。右手で腹を押さえた姿勢で。
……ごめんなさい。
彼女を見て、新庄は意思だけで謝った。
物腰を見ていた限り佐藤聖は素人だ。戦闘訓練など受けた事のない、ただの民間人だろう。
ミズー・ビアンカなら、苦も無く無力化できていたはずだ。
だが結果は、閉じかけた視界に映る通り。
佐藤聖もミズー・ビアンカも死に、そして新庄・運切も死を迎えている。
足手まといだった自分のせいで、彼女は死んだ。
だから新庄は謝った。声は出ず、聞くものもいない為に、意思だけで。
ごめんなさい、と意思を送る。同時に思うのは、この場には居ない彼の事だ。
……もし、佐山君だったら。
ミズーと同行していたのが自分ではなく佐山・御言であれば、突発的な佐藤の行動にも対応でき、
……ミズーさんも佐藤さんも、無事だったのかな。
と考え、否定する。もし、を語るのは無為だ。
新庄はほぼ閉じかけた視界の中、血溜まりに眠る少女と、赤髪の剣士の姿を目に焼き付ける。
これが、新庄・運切の選択の結果なのだから。
……佐山君は。
なにをしているのだろうか、と思いを馳せる。
この状況を打破しようと悪役として行動し、無茶な交渉で参加者達を説き伏せる彼の姿を容易に脳裏に浮かべ、新庄は苦笑。
……ボクがいなくても……大丈夫、かな。
視界が閉じた。何も無い、凍った暗闇だけがそこに在る。
死を覚悟した刹那、声が来た。
この場にいない者の声であり、先ほど思い浮かべた者の声であり、自分と正逆の存在である悪役の声だ。
……新庄君。
それは聞き慣れた、そして聞きたかった声だ。
聞こえるはずのない声だが、幻聴だとは思わなかった。
……ボクは……
新庄は沈んでいく意識を留め、彼の事を思う。
……ボクはもう逝くけど、一緒だから。……悪い運は、断ち切るから。
強く、思う。誰よりも強く、何よりも強く。
新庄はただ純粋に、彼の事を思った。
……運切の加護が君を、……護る……から。
意識が切れ切れになり、走馬灯のように過去が走る。
彼との出会い。引き金を引けなかった事。正逆の者としての誓い。
身体の事。名前の事。親の事。自分の記憶の事。
まだ調べなければならない謎がある。やらなければならない事がある。
ごめんね、と新庄は思った。薄れていく意識の中、彼に謝る。
一息。
最期だ。もう何かを思うだけの意識が残っていない。
最期に、彼の名前を声に出そうとする。
しかし肺に空気は残っておらず、喉を震わせるだけの力も残ってはいない。
だが、新庄は叫んだ。声にならずとも、それはきっと、
……佐山君――――――
彼に、届く。
【D-1/公民館/1日目11:52】
【072 新庄運切 死亡】
『佐山・御言に運切の加護が付与されました』
追記:『運切の加護』は2nd-G系列の概念空間以外では、考慮する必要はありません。
ただの気分、誓約の類だとお考え下さい。