作:◆69CR6xsOqM
暗く、狭い地下への階段を進むカイルロッド一行。
頼りになるのは入り口から漏れ出る陽光だけ。それも下るほどに薄くなっていく。
――――ゴゴォォン――――
しばらく進むと、突然重い音と共に光が遮られた。
「!扉が閉まってしまいましたね」
「え?もしかして閉じ込められたのか!?」
暗闇の中、罠に嵌ってしまったのかとカイルロッドは焦り、上に戻ろうとする。
「お待ちください!今から灯りを作りますわ!」
淑芳が懐から呪符を取り出そうとするが、その必要はなかった。
扉が閉まってからそう間もなく、灯りが点ったのだ。
灯りは遥か地下の方まで続いている。
「お、驚いたな。まるで第二の神殿に掛かっていた魔法みたいだ……
同じ術なのかな」
「術の灯りとは何だか雰囲気が違うようですけど……」
驚いているカイルロッドと淑芳だが、陸は特に感嘆した様子もなく再び階段を降り始めた。
「魔法ではなく、機械による灯りですよ。恐らく我々がある程度降りたところで
センサーが感知し、ライトが点く仕掛けだったようですね。
扉が閉まったのも同様でしょう。オートロックという奴です」
「せんさあ?」
「おおとろっく?」
陸の説明に間の抜けた声で鸚鵡返す二人。
意に介した様子もなく陸は説明を続ける。
「入り口の大仰な仕掛けを見るに、後に戻るのは不可能でしょう。
地図を見れば他にも出入り口があるようですし、帰りはそこを探しましょう。
それより今は格納庫の確認を急ぐべきですね。
このようなことはさっさと済ませてお互いの仲間を探しにいきたいですし」
軽快に階段を下りていく陸を見て、カイルロッドは思わず淑芳と顔を見合わせ苦笑する。
「陸が頼りになって良かったよ」
「深刻な状況でなくて良かったですわ。
ま、たまたま世界の違いから 知識に差があっただけでしょうけど」
「いちいち棘がありますね、あなたの言葉も」
淑芳の負けず嫌いな言葉に陸は流石に不機嫌そうに顔を向ける。
「棘があるのはお互いさまでしょう?
でも安心してくださいな。わたしはあなたが嫌いではありませんわよ?
この島を脱出したらわたしとカイルロッド様が住まう新居で飼ってあげてもいいですわ。
庭付の一戸建てに犬が一匹。ああ、理想の新婚家庭になりますわね……」
「お、おい……淑芳」
流石にカイルロッドが冷や汗を垂らして口を挟もうとする。
淑芳はうっとりとした目で虚空を見つめていた。
「神仙と名乗るわりには、何故だか妄想が非常に俗っぽいのですが……
ありがたいお話ですけど遠慮させて頂きます。
私には他に忠誠を誓うべき素晴らしい主がいらっしゃいますから。
だから私には構わず、あなた方は新婚性活を楽しんでください」
その陸の言葉に慌てるカイルロッド。
「お、おい……陸」
しかし有無を言わさず淑芳がカイルロッドの腕にしがみ付き、甘える。
「まぁ、陸も中々わかってきましたわね♪
そうですわカイルロッド様ぁん、幸せな家庭を築きましょうね♪」
カイルロッドはげんなりして、反論する気力もなくされるがままになっている。
というより、淑芳の積極的なスキンシップを以前より拒めなくなってしまっていた。
『幸せ、か。俺は……幸せになってもいいのかな……』
シャオロン、パメラ、グリュウ、ミランシャ、レイヴン……その他にも大勢……
いくつもの命が自分の掌から零れ落ちていった。
だからカイルロッドは誰かを救おうと懸命に戦っていた。
「あの方」との戦いを前に自分の運命を知っても受け入れることが出来た。
それで救われる人々がいるのだから。
今のこの残酷な現状でもカイルロッドはできるだけ多くの人を救いたいと思っている。
すでに何十人もの命が失われてしまっているが、それで残りの命を諦めるつもりは毛頭ない。
必ず、主催者を倒しこの島から脱出する。そう決意している。
そして……それが成功したら。彼女たちと共に生きて帰ることができたのなら。
自分は、幸せになってもいいのだろうか。幸せになることを考えてもいいのだろうか。
淑芳を見る。彼女はこの状況でもカイルロッドを信じて、笑っている。
陸も力強く歩いている。まるで自分の幸福を疑っていないかのように。
彼女達は自分達が大切な人に会えなくなるという恐れを抱いていないのだろうか。
志半ばで倒れることを恐れていないのだろうか。
違う。淑芳は既に知人を失っている。
陸もこの現状を甘く見ているわけではあるまい。
しかしそれでも会えることを信じているのだ。自分の大切な人と。
甘い考えではない。それは希望だ。生きるための力なのだ。
それはカイルロッドも同じ。イルダーナフやリリア、アリュセに会えることを疑いはしない。
そして……生き残るんだ。皆で。
『やってやろうじゃないか。皆を助けて、今度は俺自身も生き残ってやる。』
【世界に挑んだ者達の墓標】
入り口にあった石碑の文章が思い浮かぶ。
「世界に挑む、か。
敵はこの世界。なら、俺たちは『世界の敵』というわけだ」
陸と掛け合いを続けていた淑芳だが、突然カイルロッドの口から生まれ出た言葉にきょとん、とする。
陸も振り向いてカイルロッドを見ていた。
「どうしたんですか突然、カイルロッド?」
「世界に……上にあった碑文ですわね」
突如として集まった視線にカイルロッドは思わずうろたえてしまう。
「ああ、いや。考え事をしていたんだ、いろいろとね。
気にしなくても良い。それよりも先を急ごう」
顔を真っ赤にしてカイルロッドは急ぎ足になり陸を追い抜いていく。
「あぁん、お待ちくださいなカイルロッド様ぁん」
淑芳もカイルロッドを追いかけ、陸も後についてくる。
その時、追いながらも淑芳の頭にはカイルロッドの呟いた「世界の敵」という言葉が
こびりついて離れなくなってしまっていた。
碑文の意味は淑芳も話をしながら考え続けていたことだったからだ。
『世界の敵、ですか。何故だかこの言葉が気になって仕方ありませんわね。
この殺人遊戯。百人以上の常人、超人を異世界から集める程の大掛かりな仕込み。
わたしたちを一箇所に集め、殺し合わせて最後の一人を選ぶ。
ここまでの情報で推理すると答えは邪法「蠱毒」としか思えませんわ。 しかし……』
世界に挑むとはどういうことなのか。淑芳たちが強制させられていることは殺し合いだ。
それが世界に挑むということなのだろうか?
自分達は世界の敵。しかし自分達は主催者によって無理に挑ませられているのだ。
ならば『世界の敵』なのはむしろ主催者の方ではないのか。
そして……世界とは一体何を指すのか。
すでに世界を超越して自分達を集めた主催者が敵とするほどのものということか?
蠱毒の完成が世界に勝利することなのか?
主催者が世界の敵ならば世界は自分達の味方となり得るのか?
それともこのバトルロワイアルを突破し、蠱毒となった者こそが……。
『いえ、この段階で答えが出るはずもありませんわね。
何とかして情報を集めませんと……』
淑芳の思考に一段落がついた時、ついに長い階段が終わりを告げ、広々としたフロアに出る。
北と東へ二本の通路が延びているが、その間には巨大な扉があった。
それはさも異様な妖気を放っているように感じられる。
中から感じる威圧感に気圧されながらカイルロッドは呻いた。
「これが……格納庫」
【F-1/海洋遊園地地下 格納庫前/一日目、07:30】
【李淑芳】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。雷霆鞭。
[思考]:海洋遊園地地下の格納庫にある存在を確認する。兵器ならば破壊
/雷霆鞭の存在を隠し通す/カイルロッドに同行する/麗芳たちを探す
/ゲームからの脱出/カイルロッド様LOVE♪
【カイルロッド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。陸(カイルロッドと行動します)
[思考]:海洋遊園地地下の格納庫にある存在を確認する。兵器ならば破壊
/陸と共にシズという男を捜す/イルダーナフ・アリュセ・リリアと合流する
/ゲームからの脱出/……淑芳が少し気になる////