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345:気になる名前

作:

「どうやらお互い、知ってる名前の脱落はなかったようだね」
無人のコンビニからくすねた缶コーヒーを飲みながら、折原臨也が声をかけた。
「そうですね、私としてはあのまま、出血で赤き征裁が死んでくれる事を望んでいたのですけど」
同じようにオレンジジュースを飲みながら萩原子荻が答える。
B-3にあるビルの一室、そこで二人は休憩をかね今後の方針を話し合っていた。
「しかし当てが外れたね」
無人のビルに臨也の声が響く。
「ええ、まさか、あの怪我でこの短時間に移動するとは思いませんでした」
哀川潤を撃った事でアジトを追われた二人の行動指針は、仲間を作るといったものだった。
刻印を何とかできる人物を探すためとこのゲームにのっている人物に狙われにくくするため。
よしんば狙われても『仲間』を犠牲にする事で助かる可能性も増える。
駒が多くなればそれだけ打てる策も増えてくる。
そこで出た案が子荻自らが撃った相手との共闘だった。
仲間が一人ライフルで撃たれた、さぞや不安になるだろう
そんな状況下で友好的でゲームにのっていなさそうな人間を見れば
話ぐらいはできるだろうと思ったし、そのためにライフルまで隠しておいたのだが。
「死体も無いって事はどこかに逃げたんだろうけど、よくやるね」
つまらなさそうに臨也が言う。

「ビル内に争った形跡がありますから、それが原因でしょう」
「原因はともかく、これで状況は振り出しだね、どうしようか?」
ここを第2のアジトとして留まるか、それとも仲間を探すため外に出るか。
「とりあえず、動いた方がよさそうですね、思ったよりペースが速いです。
最初に10人程度残るまで共闘といいましたが、下手をすると気づいたときには
私達以外全員が怪物揃い、といった事になりかねません、
そのときのリスクと今犯すリスクを考えれば動くべきでしょう」
もっともな話だ。元々二人の狙いはこの場からの脱出。
そのためには、多少危険でも動くしかない。
そして、その危険に対する保険、切り札もお互い隠し持っているだろう。
「で、荻原さんの方は刻印について知識があって、友好に話が出来そうな人物に心当たりある?」
名簿を広げながら臨也が問う。
「私の世界には異能力を持つ人間はいましたがこの手の物に対しての知識は無いですね。
強いて言えば操想術専門集団『時宮』が近い気がしますが、
いくら彼等が呪い名とはいえ本当にこんな呪いをかけられるわけがありませんし」
同じように地図を広げながら子荻が答える。
「呪い名・・・・・・か、本当に近いようで遠い世界だね」
最初のアジトでの情報交換の際に出た名前だ。
彼女等の世界における一つの勢力『呪い名』そして『殺し名』
情報屋である彼の耳に入ってこないのだから、本当に別世界の話なのだろう。

「そうですね、話を聞いてると、出版されている雑誌や音楽、史実などは完全に同一ですが」
そうなのだ、臨也と子荻の世界は数少ない差違を除けばほとんど同一といっていい。
「パラレルワールドって奴かな?まさかそんな話が本当にあるとは思わなかったけど」
よくSFや遊馬崎達が読んでる小説などに出てくる話だ。
「平行世界ですか、無い話ではないと思っていましたが、
もしかしたら、よくある神隠しや集団失踪事件などのなかには、
私達のように異世界に連れ去られた、というものもあるかもしれませんね」
彼女にしても実際にこんな体験をしなければ鼻で笑い飛ばす話だろう。
「ノーフォーク大隊みたいな話かい?無いとは言い切れないだろうね、実際に遭遇すると。
まあ、そんなことは戻れたら考えよう。今は仲間さがしだけど、俺に一人心当たりがある」
そう言うと、臨也は名簿の一人に○をつけて子荻に渡す。
「彼女は俺の知り合いでね、刻印について、もしかしたら知っているかもしれない」
臨也の台詞に、子荻が名簿に目をやる。
「セルティ・ストゥルルソン・・・・・・ですか?」
外国人としてならば、何の変哲もない名前だが。
「実は、彼女はデュラハンでね、何百年か生きてるそうだ、もっとも記憶喪失らしいけどね
物語の中ではデュラハンは死を告げる妖精だし、もしかしたら刻印に何か心当たりがあるかもしれない」
子荻は流石にデュラハンと何気なく言われて驚いたが、
今までの体験から考えるとデュラハンぐらいはいてもおかしくないとも思えた。
しかし、不安な点もある。
「大丈夫なんですか?というか、意思の疎通ができるんですか?デュラハンと」
はたから聞けば、デュラハンなど零崎や匂宮以上に会いたくない相手だ。
「その点については大丈夫だよ、それじゃあ行こうか、隠しておいたライフルも拾っておかないといけないしね」
ゆっくりと臨也が歩き出す。
多少、半信半疑ながらも子荻も臨也の後を追い歩き出した。

デュラハン、物語の中の生き物。
もし何らかの手段で臨也がそんな怪物を手懐けていて、合流した時に裏切ったとしたら?
(それならそれでいいでしょう)
もし、折原臨也が何かを企んでいたとしても。
(例え相手がデュラハンであろうとも、私の名前は萩原子荻。
私の前では怪物だって全席指定、正々堂々手段を選ばず
真っ向から不意討って見せましょう・・・・・・それよりも)
歩きながら、再び名簿に目をやる。
(この、『いーちゃん』というふざけた名前がやけに気になるのは何故でしょう?)

【B−3/ビル内/1日目・12:25】
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
[思考]:セルティを探す/ゲームからの脱出?/萩原子荻に解除機のことを隠す

【萩原子荻(086)】
[状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
[装備]:ライフル(ビルの近くに隠してある
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:セルティを探す/哀川潤から逃げ切る/ゲームからの脱出?

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