作:◆RGuYUjSvZQ
保胤は携帯という不思議な道具を使用して、離れた場所の人物と会話をしていた。
セルティに教えてもらってなんとか使いこなしているが、どうも落ち着かない。
向こう側には、これまた聞きなれない名前の人物が3人いるようだ。
セルティに確認してもらったところ、たしかに3人とも名簿に載っていた。
話し声からすると他にも一人いるようだったが、相手側にも何か事情があるのだろう。
そのことには、あえて触れないでおいた。
携帯にでて話をしているのはリナとかいう名前の女性らしい。
向こう側からは、なにやらアカシがどうとかいう話が漏れ聞こえてきた。
何か問題でも発生したのだろうか。
「え〜と・・・もしもし、リナさん。どうかしましたか?もしもし?」
何度か呼びかけ続けるとやっと返答が帰ってきた。
『ああ、少し取り込みごとがあってね。もう大丈夫よ。それで何?』
「もしもし、え〜とですね、こちらは今B−2の砂地にいるのですが、そちらの場所は?」
リナは今いる場所を正直に言うべきかどうか迷った。
声を聞いた限りでは無害そうな男の様ではあるが、人は見かけ(聞きかけ?)によらないものだ。
状況が状況だけに携帯の向こう側の相手が、殺しにくるという可能性も否定できない。
相手側は自分の居場所を教えてきているが、それも本当の情報かどうか怪しいものだ。
(それに、ですます口調の男は信用したくないのよね。)
ゼロスのことを思い浮かべると、結局リナははぐらかして答えることにした。
「こちらは森よ。細かい場所は今ちょっとわからないわ」
嘘は言っていない。今いるこのムンク小屋は森のはずれにあるのだ。
だが、マップ上には森があちこちにある。こちらの場所を特定はできないはずだ。
「森・・・ですか。う〜む・・・」
マップを見ながら保胤はうなった。これではどこにいるのかさっぱりわからない。
どうやら、むこうはこちらを警戒しているようだ。
(この状況では当然か。私のほうが少し無警戒すぎるのかもしれないな)
保胤は苦笑すると、まずはこちらに敵意がないことを伝えることにした。
相手が信じてくれるかは解らないが、正直に語りかけるのが彼の流儀なのだ。
「もしもし、最初に言っておくべきでしたが、私たちは誰とも戦う気はありません。
あなた方とも敵対する気はありませんので、安心してください。」
『はぁ・・・(ため息)』
携帯の向こうからなにやら、ため息が聞こえてきた。
「あのねぇ、殺し合いをさせられてる中でそんなセリフ聞かされて、本当に安心できるわけないでしょ。
第一、誰とも戦う気がないって、この状況下で誰とも戦わずにすむと本気で思ってるわけ?」
呆れた調子でリナが言葉を返した。
『私もさすがに、そこまで楽天家ではありませんよ。戦わざるを得ない時はもちろん戦うつもりです。
しかし、こちらからあえて敵を作ったりするつもりはありません。
相手が何者であれ、こちらからいきなり攻撃を仕掛けることはありません。』
「このゲームの管理者であっても・・・?」
『はい。もちろん最初は話し合うつもりです。本気で話し合えばやめてくれるかもしれませんから。
ですが、説得できなかった場合は戦う気でします。このようなことは許されることではありません。』
リナが突然激昂した。
「ふざけないで・・・、話し合いで何とかしようだなんて・・・!
もうすでに20人以上もの人間が死んでいるのよ!ガウリイもあいつらに殺されてしまったわ!
あいつらを殺さないと死んだ人も浮かばれない。私はあいつらを許すことなんて出来ない・・・!
話し合いなんて論外よ!」
リナはかなり感情的になってしまっている。
シャナもそばにいて電話の声を一緒に聞いていたのだが、
リナがこうも激昂してしまってはとても話に入れるような状況でなかった。
「大仏殿だねえ」
エルメスがぼそっとつぶやいた。誰も訂正しなかった・・・
保胤は電話の向こうのリナの心に強い怨念がうごめいているのを感じ取った。
さっきまでは普通に会話としていたのに、管理者の話題になったとたんに精神が不安定になってしまった。
どうやら、管理者にガウリイという名の仲間を殺されたことが要因らしい。
今は一応は正気を保っているようだが、いつかは完全に怨念に飲まれてしまうかもしれない。
保胤にもリナの気持ちはわかる。
ごく親しい人物が目の前で殺されたりしたら、さすがの保胤も平静に話し合いをしようなどとは思わないだろう。
保胤自身も今は当事者の一人には違いないのだが、幸い(?)にも参加者名簿には知り合いがいなかった。
先ほどの放送で死亡者の名前と人数を聞いた時、保胤も怒りを覚えた。
だが、それもあくまで他人事と割り切った上での怒りだったのかもしれない。
遠い国の領主が悪政で民を苦しめていることを聞いたときに感じるような、
自分とは関係のない、他人事への怒りとして。
島津由乃は、仲間を残しては逝けないと訴えていた。
リナは、自分の仲間が目の前で殺されてしまったことで管理者を怨み憎んでいる。
一緒にいるセルティも、同じ世界から来た平和島静雄をまずは探そうとしている。
皆感情は違えど、一緒にこの世界に来た自分たちの仲間への想いを持っているのだ。
自分が何を言っても、それは第三者からの奇麗事にすぎないのかもしれない。
それでも、保胤はリナに語りかける。
このまま放っておくわけにはいかない。
「第三者の私には、今の貴方の気持ちを理解することは無理なことなのかもしれません。
でも、これだけは言わせてください。人への怨みは自らの身を落とすことになります。
怨みは、相手を殺したくらいで晴れるものではありません。
相手を殺したとしても、それ以降の人生をいや死後も無限の怨みを抱き続け、永遠に苦しむことになるのです。
貴方の死んだ仲間もその様なことは望んではいないと思います。
死んだ者は、誰しもこの世に残してきた親しい人の行く末を案じています。
死んだ者の安らかな成仏のためにも、怨みに身を落とすことだけはしないでください。
怨みとは決して“晴れる”ものではないのです。それだけは肝に銘じておいて下さい。」
リナは保胤の言葉を聞きながら考えていた。
夢の中でルークと話をするまでの私は、保胤の言う「身と落とした」状態だったのかもしれない。
ルークとダナティアのおかげで私は正気に戻ることが出来た。
けど、あいつらへの怨みはこれっぽっちも消えてはいない。
あいつらを殺せるのなら、なんだってするつもりだ。
なんなら、いつかのようにロード・オブ・ナイトメアにこの身を任せてもいいと思っている。
このままだと、私はまた「身を落とす」ことになるのだろうか。
あいつらを殺せるのなら、それでも構わない。
永遠に苦しむことになったとしても、絶対にあいつらを殺してやる。
でも・・・・・
そんな私を見てガウリイはどう思うのだろう。
ガウリイが悲しむのは嫌かも・・・
「そのことついては私自身の問題よ・・・、余計な説教は結構よ。」
リナは迷いを無理やり断ち切ると、いきなり話題を変えた。
「とりあえず、こっちはこっちで自由に動かさせてもらうわ。そっちはそっちで自由にやって。
完全には信用できないけど、しばらくはお互い協力しあうってことでいいわ。」
『・・・わかりました。それで、これからのことなんですが』
保胤とリナはその後は事務的な会話に終始した。
両者は、定期的に携帯で連絡を取り合うこと、
お互いが探している仲間を共同で捜索することで合意した。
保胤は平和島静雄の捜索依頼と、幽体で歩き回っている島津由乃を見かけたら協力してあげて欲しい旨を伝えた。
リナ側はとりあえずゼルガディス、アメリア、坂井悠二の捜索を依頼した。
一通り決まったところでリナは
「それじゃ」
とだけ言うと一方的に電話を切った。
一回目の通話はこうして終了した。
リナは通話を終えると、隣で静かに聞き耳を立てていたシャナに携帯を渡した。
リナは保胤に痛い所をつかれ、少し混乱しているようだ。
通話が終わってからは何も言わずに俯いたままだ。
シャナとエルメスもそんな様子のリナを見て黙り込む。
ダナティアはまだ瞑想をしている。
少しの間、ムンク小屋の中を静寂が包みこんだ。
―――突然、小屋の扉がノックされた。
深層心理から帰ってきたテレサがベルガーと共にやってきたのだ。
挨拶もできないまま一方的に切られてしまった。
保胤は携帯をセルティ渡すと、「ふう・・」とため息をついた。
慣れない携帯での会話に少し疲れたようだ。
『なにやら、白熱していたな。』
「ええ。ああいう場合、放ってはおけない性分なんです。」
「やっかいな性格だな」
「ええ、よく言われま・・・えっ!?」
突然、背後から声がかけられた。
保胤とセルティが振り返ると、5mも離れていない場所に少し背の低い男が立っていた。
一見すると少年にも見えなくもないが、纏っている雰囲気がそれを否定している。
今の今まで二人はこの男の存在に全く気づいていなかった。
「屋外での長電話はやめたほうがいい。こんな所でバッテリーが切れたらめんどーだ。
オマケに隙だらけになる。背後から強襲されても文句はいえない。
ま、俺はそんなつまんないことはしねーがな。」
男は平然と語りかけてくる。
「今度は二人いっぺんか・・・。少しは歯ごたえがあるといいんだがな」
その男――フォルテッシモは目をぎらりと光らせた。
【B−2/砂漠の中/1日目・08:10】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
[状態]:精神的に少し疲労
[装備]:着物、急ごしらえの符(10枚)
[道具]:デイパック(支給品入り) 「不死の酒(未完成)」、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている
/フォルテッシモに驚いている
【セルティ(036)】
[状態]:正常
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索 /フォルテッシモを警戒
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
定期的にリナ達と連絡を取る
【フォルテッシモ(049)】
【状態】正常
【装備】ラジオ
【道具】荷物ワンセット
【思考】ブラブラ歩きながら強者探し。早く強くなれ風の騎士 /セルティ、慶滋保胤と戦う
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋/1日目・08:10】
『目指せ建国チーム』
【リナ・インバース(026)】
[状態]: 少し疲労有り/心に強い怨念/少し混乱
[装備]: 騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]: 支給品一式/
[思考]: 仲間集め及び複数人数での生存/管理者を殺害する
【シャナ(094)】
[状態]:かなりの疲労/内出血。治癒中
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品入り)/携帯電話(リナから手渡された)
[思考]:しばらく休憩後、見張り/悠二を捜す
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
【ダナティア・アリール・アンクルージュ(117)】
[状態]: 左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。/未だ瞑想中
[装備]: エルメス(キノの旅)
[道具]: 支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]: 群を作りそれを護る/アラストールの話を聞いたら、戻ってテッサに会う
[備考]: ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。
[チーム備考]:『紙の利用は計画的に』の依頼で平和島静雄を捜索。
また、島津由乃を見かけたら協力する。定期的に保胤達と連絡を取る
【G−5/ムンクの迷彩小屋、扉前/08:10】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ 黒い卵(天人の緊急避難装置)@オーフェン
[道具]:デイバッグ×2(支給品一式)
[思考]:テレサ・テスタロッサを護衛する。
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:少し疲労
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:宗介とかなめを探す。/ ダナティアと話をする
2005/04/22 修正スレ41