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237:宮野の刻印推論

作:◆cqIWEdYYiU

「嫌ですわ」
 これまでのお互いのいきさつを話し終えた後、エンブリオの効果と、それを彼女に使いたいと言う言葉を聞いた茉衣子は、
寸分の間も置かずに開口一番そう答えた。あまりにも即急な否定に、流石の宮野もわずかに呻きを漏らす。
「なぜかね?」
「わたくしは少なからず自分の能力に誇りを持っています。なぜなら、それが自身の資質と努力のみによって培われたもの
だからです。それを今更、そんな趣味の悪い何とも知れぬ十字架によって覆されるなど、冗談ではございません。
ましてやそれが班長によってもたらされた物などと……わたくし清水の舞台から身を投げ打ってでも拒否致しますわ」
 肩を抱いて大仰に身を震わせながら、茉衣子はまくし立てた。
『おいおい、この娘さんアンタの弟子じゃあなかったのか?』
 その言葉に、この十字架にしては珍しく飽きれを含んだ声で問いかけた。それにもまた、誰よりも早く茉衣子が反論する。
「誰が誰の弟子などと。班長とは、極めて不幸にも偶発的、一時的に組織での上下関係に置かれているだけに過ぎません」
『おーおーひどい言われようだな相棒、ひひひひひ』

「むぅ……そこまで拒否されるようでは仕方なかろう。しかしどうしたものかなこれは。無駄に持っていても五月蝿いだけで
一向に利益がないのだが」
「班長が他人を五月蝿いとのたまうなど、冗談にしても笑えませんが……。力を引き出すためのものなのでしょう? でした
ら、この状況を打破できうる能力の持ち主に使用させるべきですわ」
「例えばどんな能力かね?」
『オレとしちゃ、誰であろうと殺してくれりゃ文句はないんだがねぇ』
「そうですわねぇ……。一つは、このゲームの主催者を倒しうる力を持つ能力。もう一つは、この煩わしい刻印を解除できる
能力。最後に、この島から脱出できる能力。……といったところでしょうか?」
 指折り数えながら、茉衣子は答えた。
「なるほど。その中でならば刻印の解除を優先させるべきであろうな」
「あら、なぜでしょう?」

『なーんかオレらまるで居ないことのようにされてねぇか? ヒヒヒ』
『まぁ、所詮ラジオと十字架だ。こんな扱いだろうさ』

「一つ目の主査使者を倒しうる力だが、刻印がある限りその例え持ち主とて簡単に殺されてしまう。無意味だ。
三つ目の脱出の能力は、その能力者だけが逃げてしまう可能性もある。さらに、脱出できたとて刻印が必ず消えるとは限らん」
「なるほど……」

「そしてもう一つ。茉衣子君も気付いておろうが、今現在我々のEMP能力はかなり低下している」

『どうよ、ラジオのアンタ。アンタでもいい俺を殺してみねぇか? 喋るラジオが、喋るMDラジカ
セぐらいになるかもしんねぇぜ?』
『いらん』

「ええ、それは分かっておりますが」
「その原因は、高い確率でこの刻印によるものだと私は推測しているのだよ」
 その言葉に、茉衣子は首をかしげた。
「何故でしょう? 島全体に結界のようなものをかけているのやも知れませんわ。刻印のせいだと言う確証は――」

『そう連れないこと言うなよ。同じ喋るガラクタ同士じゃねぇか、ひひひひ』
『誰がガラクタだ誰が!』

「ええい、お黙りなさい!」
 いい加減耐えかねたのだろう。茉衣子が宮野の持っていた十字架をもぎ取り、ペイとラジオに向かって投げつけた。
カコンと実に小気味良い音が響く。
『ぐあ! 何しやがる、ただでさえガタが来てるってーのに!』
『なぁんだよ、どうせならもっと思いっきり投げてくれや。そうすりゃ晴れて殺されて俺も万々歳だってのによ』

「黙りなさいと言っています! ……コホン。ええと、なんでしたかしら……。そうそう、刻印のせいだと言う確証はないはずですが?」
「ふむ。では聞こう。その結界とはどういった原理で力を抑制するのかね?」
「どういったといわれましても……」
 分かるわけない、と首を振る。そのことに、宮野はさも当然と言うように頷いた。
「であろうな。なぜなら一つではありえないからだ。一概にEMP能力といっても、効果は様々だ。テレパスやサイコキネシスに始まり、発火能力、透視能力、
どこぞの加速装置じみた能力もあったな。それら全ての能力は効果の違いに従い、発生のプロセスも違うはずなのだ。ならば、それぞれに対応した結界が必要となる! 
その結界全てを島全体に張り巡らすなど無駄もいいところだ。各個人単位に、それぞれにあった結界をかけた方が遥かに効率が良いに決まっている」
 確かに、と納得する。理論は通っている。取り敢えず、否定する材料は見つからなかった。
「では決まりましたわね。刻印を解除できる能力者、あるいは素質を持つ方を探しましょう。……それで、どこを探すのでしょうか?」
 その問いかけに、宮野はむぅと腕を組んで黙り込んだ。十数秒ほどそうした後、おもむろににディパックから地図を取り出して、床に広げた。
 さらに転がっていたエンブリオを拾い上げ――ヒョイと極めて適当な動作で地図の上に投げ落とした。乾いた金属音を立てわずかに転がった後、
十字架が地図の一端を指し示す。

「……Eの5だ!」
「あまりにも適当すぎます!」
 自信満々の表情で述べた宮野に、茉衣子は迷わず怒鳴り声をあげた。

【今世紀最大の魔術師(予定)とその弟子】
【残り90人】
【Dの1/公民館→Eの5/時間(1日目・8時00分)】

【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。

【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長
[道具]:通常の初期セット
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。

2005/04/22 修正スレ39

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