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231:陽炎

作:◆Wy5jmZAtv6

「伴天連寺にてこの身を休ませることになろうとは皮肉よの」
古びた教会の中で唇を歪める美姫、その足元には十字架が転がっている。
彼女にとってそのような物は何ら意味を持たない。
その傍らに控えるのはアシュラム、微動だにせず直立不動だ。
その姿を見て、どこか懐かしげに目を細める美姫、その瞳の中に写るは
はるか昔の殷の宮廷なのかもしれなかった。
「かの魔界医師が言うておった、わたしが死ぬときは希望を失のうた時だとな、だがこうしてわたしは生きておる」

美姫の脳裏に蘇るのは、あの魔界都市で出会った黒衣の男の肖像…。
あの男を忘れるべく自分はまた果てのない時空間の旅へと出た、しかし忘れることなど出来はしなかった。
もう手に入れることは叶わぬと知っていながら…。
あの男もまたこの地に降り立っていることは承知している、だが逢いたくはなかったし
だからといって殺す気も起こらなかった。
そこでアシュラムが始めて口を開く。
「主よ、貴方様は死に場所を求めてらっしゃるのでは?」

美姫はふっ…と力なく笑う、その笑顔は確かに藤堂志摩子言うところの翳りに満ちていた。
「四千年、長く生き過ぎたかもしれぬ…だがただではこの命くれてはやれぬ」
しかし瞳だけはまだ光を失ってはいなかった。
「この地に集いし者の中でわたしを討てる者がおるか、誰がわたしを殺しえようかと」
「それを考えるとやはり胸が沸き立ってたまらぬ」
くくく…と今度は実に楽しげに美姫は笑ったのだった。

「この寝所が禁止エリアとやらになったれば、かまうことはない…この場を離れればよい」
「わたしの魂が朽ちればおまえの呪縛も解けよう、好きに生きるがよい」
「そしてわたしが眠りについておる間に、おまえを真に必要とする者が現れ、おまえの心が戻れば
 かまう事はない、その者のためその力振るうがよい」
そこまで言い終えて一拍置く。

「だが、陽が沈みわたしが目覚めた時、未だおまえがここに留まっておるのならば、おまえの体も命も心も
 わたしの物ぞ、遥か冥府までも」
そして自嘲気味に微笑む美姫。

「人が言うにわたしは心の臓を貫き、首を落とさば死ぬらしい…死んだことがないゆえ
 それで本当に死ぬのかどうか分からぬがの」
最後にそれだけを言って、美姫は教壇の下の地下室へと姿を消していった。

後に残されたのはアシュラム、彼は文字通り壁となって夕刻まで主の眠りを妨げる者は、
誰であろうと斬るつもりであった。
今の自分が偽りの自分であるということを感じていながらも。

そして万が一自分の本当の心が戻ったとしても、この限りなく美しく邪悪でそして孤独な女に刃を向けることは
まして寝首を掻く事など考えるべくもなかった。
もし戦うことになるのならば、勝てないまでも堂々と正面から名乗りを上げて戦いたかった。

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:己の欲望のままに/夕刻まで睡眠

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る

現在位置 【不明/教会/一日目、06:00】

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