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216:初めての電話side-B

作:◆lmrmar5YFk

前衛芸術的な装飾の施された小屋の中、シャナは体を横に倒して目を瞑っていた。
やはり、体内に残っていた散弾の与えた負傷の影響は大きかったのだろう。
いくら超人的な回復力を誇るとはいえ、あんな傷を受けたままでずっと走ってきたのだから、彼女が疲弊するのは当然だった。
おまけに、この島内ではもともと持っている力が相当鈍る。少し休息を取らねば、彼女と言えどそのうちばたりと倒れてしまいそうだった。

シャナから少し離れた場所で、リナとダナティアはこれからどうするのかを話し合っていた。
正午まで、とは言っても実質的にあと四時間程度しか残っていない。
その間に少女の探し人についての情報が入る可能性は、正直薄いと言わざるを得なかった。
「だから、この道を…」
リナが口を開いたそのとき、プルルルル…と小屋の中を機械的なメロディが鳴り響いた。
座っていたリナとダナティアがとっさに跳ね起き、小屋の周囲に人影がないかを見渡す。
しかしその音源がもっと近いところにあるのに気づいたリナは、足元に置かれたダナティアの荷物を指差した。
「…ねえ、この音…あんたの袋からするみたいよ」
「…あたくしの?」
困惑した声でそう言って、がさがさとデイパックを探るダナティア。
そこから出した右手に握られていたのは、銀色に光る二つ折りの板だった。
プルルル…という機械音は、どうやらその板から響いているらしい。
「何よ、これ」
「あたくしの支給品だわ。でも、何に使うのかさっぱり」
それは、平和島静雄の物と対になるセルティの携帯電話であり、殺傷力こそないとはいえ仲間を探し出したい者からすれば『大当たり』と言っても良いアイテムだった。
しかし基本的に剣と魔法の世界の住人である彼女にこれが何なのか分かるはずもなく、開始直後に確認した後は、その存在すら記憶から消えていた。

「武器なの?」
「さぁ…」
「ふーん。ちょっと貸して」
困った顔でそう言うダナティアの手からその板を奪うと、リナは閉じていた携帯電話を開いた。
その画面には『平和島静雄』との名前が、時折点滅しながら画表示されている。
「この名前…」
どこかで見たような気がして、慌てて名簿を確認する。彼女のその記憶は正しく、その男の名前は確かにそこに書かれていた。
手の上のものが何なのかはいまだに分からなかったが、リナはとりあえず手当たり次第に表面の突起を押した。
「リ、リナ、危険よ! 爆発でもしたらどうするの」
慌てて止めるダナティアにはお構いなしで、光っているボタンを適当に押していく。
その彼女の指先が、偶然通話ボタンを掠めた。
『…も、もし…もし? …あの、本当にこれで聞こえているのですか?』
突然、謎の板から何かの声が響く。それはセルティが紙に書いた文章を忠実に読み上げる保胤の声だったのだが、そんなことを知らない彼女らには銀の板そのものが喋ったように見えた。
「うわぁっ!」
思わず電話を取り落とすと、二人は仰天して顔を見合わせた。
「い、今、声がした」
「…ええ、あたくしも確かに聞いたわ」
「これもエルメスと同じようなものなのかな?」
「そう…かもしれないわね」
大きすぎる勘違いだ。しかし、『話すモトラド』にそろそろ慣れたところだった二人は、これも『話す何か』なのだろうと勝手に決め付けた。
床に落ちた携帯電話を恐る恐る覗き込むと、リナがそろそろと話しかける。
「あんた何?」

突然の電子音とその後の騒がしさで、シャナははっと身を起こした。頭が重い。どうやら気づかないうちに少しばかりまどろんでいたようだ。
ふと見れば、リナとダナティアは小屋の中央で何かに向かって声を上げている。何事かと二人の後ろから覗き込んだシャナは、彼女たちの視線の先にあるものを見て思わず声を上げた。
「携帯…電話…?」

『目指せ建国チーム』
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋で休憩&見張り/1日目・07:45】

【ダナティア・アリール・アンクルージュ(117)】
[状態]: 左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。
[装備]: エルメス(キノの旅)
[道具]: 支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル/ 携帯電話
[思考]: 群を作りそれを護る。/正午になれば北上 /この板は一体?
[備考]: ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。

【リナ・インバース(026)】
[状態]: 少し疲労有り
[装備]: 騎士剣"紅蓮"(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]: 支給品一式
[思考]: 仲間集め及び複数人数での生存/正午になれば北上 /この板は一体?

【シャナ(094)】
[状態]:かなりの疲労/内出血。治癒中
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品入り) 
[思考]:しばらく休憩後、見張り/正午になっても悠二の情報が入らなければ北上 /どうして携帯電話が?
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、腹部体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険性が有る。

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