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207:見ることの出来ぬ敵

作:◆Sf10UnKI5A

 ミズー、ガユス、新庄の三人は、地図に記された橋を渡るため森伝いに北西へと移動していた。
 しかし、森を抜け川が見えてきたところで、 新庄が一つの異常に気付いた。
「……水が、無い?」
 見れば、川から水が一切無くなり、ただの幅広い溝と化していたのである。
「いよいよオカルトじみてきたな。一体どんなトリックだ?」
 ガユスの知覚眼鏡に表示される情報は、ほんの小一時間前まで川に水が満ちていたことを示していた。
 ――高位の咒式を使ったって簡単に出来ることじゃねえぞ……。
 いぶかしむガユスをよそに、ミズーは周囲を見回し安全を確認するとすぐに川底へと下りてしまった。
「考えても仕方がないわ。今は、時間の短縮が出来たと喜ぶべきよ」
 それだけ言って歩き出す。
 ガユスと新庄は顔を見合わせ、
「そ、そうなのかな?」
「……だろうな」
 確かに、深く考えても始まらない。二人も川底に下りて、ミズーの後を追うのであった。

「大分距離が短縮出来たけど、どこのエリアに行く?」
 三人は川を抜けた後、高架下の影に腰を下ろし地図を広げていた。
 予定ではA−4の橋からB−3へと移動。
 そのまま南下して市街地を調べようということになっていた。
 しかし今は、高架と川の位置関係からしてB−4の北西あたりにいるらしい。
「まあ、予定通りでいいんじゃないか? 人捜しをするってのなら、端から順番に潰していくもんだ」
 どうせ敵と遭遇する可能性は大して変わらないしな、とガユスは内心で付け足した。
「じゃあ、このB−3のビルかなあ……」
 新庄が指で示す。

「決まった? なら、早く行きましょう」
 そう言ったミズーに二人が目を向けると、彼女は既に立ち上がっていた。
「おいおい、そんな焦る事は無いだろ。少し休憩でも……」
「別に焦ってなんていないわ。建物まで行ってから休む方が安全でしょう?」
 ただそれだけを言って、ミズーは歩き出した。
「協調性のない奴だな。ギギナのバカを思い出すぜ」
「でも、言ってることは正しいから……」
 ぼやくガユスに対し、ミズーをかばう新庄。
 二人は立ち上がり、またしても少し離れてミズーを追う形となった。

 焦っているとガユスに言われ、ミズーはそれを否定した。
 しかし、彼女の中には確かに焦り、もしくはそれに似た感情が存在した。
 ほんの少し、平常時とわずかに違うだけの自分の精神。
 自分という存在を熟知した、彼女にすら解らぬ極小の異常。
 ――フリウ・ハリスコー。彼女を見つけないと……。
 ミズーの精神の異常が、歩く速さのわずかな上昇という形で表に出る。
 とはいえ、後ろを歩くガユスと新庄の距離はさほど変わらない。
 約五メートル。ミズーと二人の間には、それだけの距離が開いていた。

 さあっと、一陣の風が吹く。

 その瞬間、ミズーの左肩から鮮血が舞っていた。

「――ぐっ!!」
 ミズーは、左肩を押されたようによろめき、そのまま尻餅をついた。
「!? やっ……」
 新庄は目の前の光景に悲鳴を上げそうになるが、なんとかそれを堪える。
 ガユスは、知覚眼鏡に映った情報から何が起きたかを一瞬で判断した。
 ――銃撃!?
 各人の反応にわずかに遅れて、ターン、と微かに銃声が響いた。

「――逃げるぞ新庄! 援護しろ!!」

 叫び、ガユスは立ち上がろうとするミズーに向かって駆け出す。

 また風が吹いた。
 ガユスの腿が削れる。
 そしてまた遅れて届く銃声。

「やめてぇっ!!」

 新庄が剣を構えて、そう叫ぶ。
 羽音。地面に着弾する小さな音。――そしてまた銃声。

「ミズーさん! ガユスさん!」
「大丈夫、問題無いわ」
 血が流れる肩を押さえながら、ミズーが新庄の叫びに答える。しかしその顔には、苦痛に歯を食い縛る様が見て取れる。
「敵は左手側だ! 悪いが新庄、向こうのビルまでそうやっててくれ!」
 ミズーが撃たれた時の血の飛び散り方から、ガユスは一瞬で敵の位置を判断していた。
「う、うん!」
 ミズーは左肩を、ガユスは右腿を押さえつつビルへと急ぐ。
 新庄は左方向に目を向けながら、二人のすぐ後ろを走った。
 ――でも、どこから撃ってるの!?
 近くに見えるのは小さな建物ばかり。しかし、動く影は無い。
 その向こう、はるか遠くに高い建物が見えるが、
 ――いくらなんでも、遠すぎる……。
 新庄は、近くの建物に意識を集中しつつ走った。

 三人はそのまま、四度目の銃撃を受ける事無く目標のビルに辿り着いた。


「――この私とした事が、鈍ったものです。
 この程度の距離で、わずかな風程度で標的を外すとは……」
「…………」
 とあるマンションの屋上。
 狙撃銃を構えた萩原子荻と、彼女を見る折原臨也の姿がある。
 二人がここに来たのは、ほんの四十分ほど前のこと。
『明るくなりましたし、出来ることをするとしましょう』
 そう子荻が話し、屋上へ移動。
 彼女が四方を狙撃銃のスコープで覗く間、臨也は屋上に一つしかない出入り口の番をしていた。
 そして、『見つけました』という声が上がったのがほんの五分前。
 北へ向けて子荻は三発の銃撃を放ち、――そして先ほどの言葉を呟いたのだった。
 ――どうやら、予想以上の腕前のようだね……。
 臨也が彼女の狙撃に助けられた時、時間は真夜中だった。
 闇夜の中、赤外線スコープも無しに静雄へ正確な銃撃を浴びせた彼女。
 そして今、臨也には見えていない標的を、どうやら射撃したらしい。
「……外したってことは、そいつらはここに来るのかい?」
「いいえ、北西のビルに退避したようです。
仕留めることは出来ませんでしたが、三人の内二人には手傷を負わせています。
もし動けても、まずはこのマンションまでにある建物を疑うことでしょう。問題ありません」
 ――とんでもない子がいたものだ。
 あのイカれた街、池袋にだって、こんな子はいなかった。
 ――頼もしい子だ。味方である内は、だけれど。
「さて、次の標的を探します。貴方は引き続き周辺と出入り口の監視を」
「了解」
 会話が終わり、二人はまた元の状態に戻った。

【B-3/ビルの一室/一日目/07:05】
【ミズー・ビアンカ(014)】
 [状態]:左肩に銃創(重症。左腕を動かすと激痛)
 [装備]:グルカナイフ
 [道具]:デイバッグ(支給品入り) 、
 [思考]:銃創の処置。フリウとの合流
【新庄・運切】
 [状態]:健康
 [装備]:蟲の紋章の剣
 [道具]:デイバッグ(支給品一式)
 [思考]:1、二人の治療 2、佐山達との合流 3、殺し合いをやめさせる
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
 [状態]:右腿に銃創。(軽傷。歩けるが、大きな負荷はかけられない)
 [装備]:リボルバー(弾数ゼロ) 知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
 [道具]:支給品一式
 [思考]:やっぱり神様はいなかった……。
     二人に同行。あわよくばギギナとクエロが死んでますよーに。

【C−4/ビルの屋上/一日目/07:05】
【折原臨也(038)】
 [状態]:正常
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
 [思考]:周囲の警戒 ゲームからの脱出? 萩原子荻に解除機のことを隠す
【萩原子荻(086)】
 [状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
 [装備]:ライフル
 [道具]:デイパック(支給品入り)
 [思考]:狙撃対象をスコープで捜索 ゲームからの脱出?
   ※:子荻は原作で約1、5キロ先から、しかも夜間に、超精密な狙撃を行っています。

※C−4エリア付近に三発分の銃声が響きました。

2005/04/10 修正スレ34
2006/06/13 改行調整、口調修正

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