作:◆91wkRNFvY
先ほどの放送には茉衣子の名はなかった、だからといって安心できるわけでもないが。
直線距離なら1時間もかからずに行けたものを、森だ行き止まりだ曲がり道だで1時間を超えてしまった。
茉衣子くんは無事であろうか、よもやこの奇怪なシナリオに踊らされているということはあるまいが。
もう殆ど明けきった空の下、ぼんやり思案していると白塗りの建物が見えてきた。
「あれか」
『おっ、やっとかい?お前のお弟子さんがいるかもしれんってヤツはよぉ』
「そのようだな、いると決まったわけではないが、それでも私はいると確信している」
『けけっ、お前のその自信はどこからくるんだ? これで誰もいなかったらお笑いじゃねえか』
「少し黙っていたまえ、いきなりキミの様な面妖なモノを見たらさしもの茉衣子くんでも卒倒しかねない、
あれで彼女は結構繊細なのだ。まぁ、一度慣れきってしまえば良いのだが」
『おっと!こりゃ失礼』
おどけた調子でエンブリオは静かになる。
いつぞやのコピー人間騒ぎで、シム人間と名づけられた想念体は、わずかな間で爆発的に増え、結局は全方位EMP攻撃で消滅した。
その際、大量に発生した茉衣子くんズ、彼女が始めてみたときには他の寮まで響き渡る悲鳴だったが。
このエジプト十字架が喋るのを見たときにはどのような悲鳴を上げるのであろうか。
思っている間にガラス張りの入り口を抜け、1階を見渡してみるが人の気配はしない。
「ふむ、2階のようだな」
『ホントはいないんじゃねぇのかぁ?』
「エンブリオ」
『・・・』
諌めてみたものの、またいつ喋りだすかわかったものではない、どうやら彼は常に話していないと気がすまない性質のようだ。
2階に上がった宮野は、ある部屋の前で立ち止まる。
「ここか、ふむ、では!」
「やぁ!茉衣子くんっ!待たせ・・・、うのおぁっ!?」
大声と共に扉を開け放った宮野、しかし出迎えたのは茉衣子の歓迎の言葉では無く、
無数の蛍火の光球と「何か」の力だった。間一髪避けた宮野の後ろでは、壁に穴を空けていた。
「は、班長!?」
「茉衣子くん!酷いではないか!?せっかくこの私が迎えに来たというのに、この仕打ちは無いだろう!」
ずかずかとオーバーアクション気味に手を広げつつ茉衣子に近寄る。
「班長こそ、いっつもいっつもいっっ━━━━つも、入るときはノックをしろとあれほど・・・、
まぁ、もう良いですわ。申し訳ありませんでした、事情が事情ですのでちょっと殺気だっていたようですわ」
「うむ、さすがにこのような状況に追い込まれるとはこの私でも想定していなかった。
透湖くんたちの手によるものでも無さそうだしな」
「透湖? いつぞやの誘拐騒ぎの時の音透湖さんのことでしょうか? 何故ここで彼女の名前が?」
年表干渉者(インターセプタ)=音透湖、この構図を知っている人間は少なくとも2人。
宮野秀策、そして、時の円環に嵌った少年。
「今はそのことはヨソに置いておくとしよう!とりあえずだな、茉衣子くん・・・」
宮野がこれからについて話し出そうとした時、
『なぁ、茉衣子、こいつがあんたの知り合いなのか?』
茉衣子が首から下げているラジオから声がした。
「これはまた面妖な!ラジオが一人で喋っているというのかね!」
「えぇ、わたくしも初めて見た時は気がおかしくなったのかと思いました、実際おかしいのはこの世界なのですが」
『そこまでおかしいおかしい言われるのも気分が良いもんじゃないが、確かにこの世界は変だな』
「それについては同意である。だが茉衣子くん、驚くのはまだ早いぞ!エンブリオ、出番だ!」
宮野らしく、両手を広げて言う。
『よう、あんたが俺を殺してくれるっていう、宮野のお弟子さんかい?』
宮野が首から下げているエジプト十字架から声がした。
【今世紀最大の魔術師(予定)とその弟子】
【残り94人】
【Dの1/公民館/時間(1日目・6時25分)】
【光明寺茉衣子】
[状態]:健康
[装備]:ラジオの兵長
[道具]:通常の初期セット
[思考]:宮野と合流できて安堵。
【宮野秀策】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)・エンブリオ
[道具]:通常の初期セット
[思考]:茉衣子くんに殻を破ってもらう。