作:◆Sf10UnKI5A
「――――に期待する。精々頑張りたまえ」
突然頭の中に直接響いてきた声。
雑貨屋の一室で眠っていた景は、その声に起こされることとなった。
解った事は、死者が参加者の六分の一以上と多かったこと。
そして、自分の知る三名の名が、死者の中に無かったこと。
軽い痛みを背に感じながら体を起こすと、ペンと紙を持った風見が目に入った。
彼女も目覚めた景に気づき、
「おはよう。私の方は知ってる名前は無かったわ。アンタも?」
「おはよう。こっちも無かったが、素直に喜べないな」
「……例の甲斐氷太と、緋崎正介ってヤツ?」
「ああ。『乗った』のかはまだはっきりしないけどな」
「そうね。……背中の方は?」
「大分良くなった。大人しくしている分には大丈夫そうだ」
実際にはそういうわけでもないのだが、気を遣わせまいと景は少しだけ強がった。
風見は、そりゃ良かったわね、と一言感想を述べ、景から目をそらし少し間を置き、
「……とりあえずトイレでも行ってきたら?」
「…………お気遣い、有り難く受け取っておくよ」
「気にしないで。見慣れてるから」
「……………………」
深く考えないことにして、景は部屋を出た。
「見える範囲には誰もいなかったわ」
外の様子を調べてきた風見はそう報告した。
そして、放送を書き取った紙と、地図を見比べながら相談をする。
「禁止エリアってのは、今の段階では無関係ね。もうしばらくは安全かしら」
「これだけ南から南西に密集していると、そっちの方の人間が北や東へ移動する可能性はある。
まだ閉鎖されていないエリアも多いから、大丈夫だろうとは思うが……」
「ま、考えすぎてもしょうがないわね。九十人の行動を読むなんて不可能だし」
「九十人、か。……随分と減ったものだな」
どこからともなく集められた119名の人間が、
一人ずつ確実に亡くなっているという、非現実的な現実。
景の脳裏に浮かぶのは、森で見た頭の潰れた少女の姿。
自分や知人、それに目の前の相棒ですら、いつそうなってもおかしくない。
「……狂っているな。異常としか言い様が無い」
ぽつりと呟く。
「……そうね。私も常識外れの世界で生きてるけど、にしてもこれはおかしいと思う。
どうにかしたいとは思うけど、G-sp2が無きゃ私は平凡な美少女高校生だもの。
現時点ではどうしようもないわ」
「その『平凡な美少女高校生』も冗談なのかい?」
「失礼ね。女が自分を褒めてる時は、男は黙って同意しとけばいいの」
異常な状況を理解しながら、それでも――だからこそ、軽口を叩き合う二人。
その顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
相談の結果、昼の放送まではここに留まることに決まった。
「どうせ確実に安全な場所が無いなら、か」
「ええ。大人数に囲まれでもしない限り、逃げ道は確保出来てるしね。
明るくなって人が集まってくるかもしれないけど、知り合いが来る可能性もあるわ。
マーダーが寄ってきたら、……その時は、その時」
「その時はその時、ね……」
――やっぱり、似ているな。
景は、この島にいない幼馴染のことをまた思い出す。
出会って一日と経っていない女性とこうして会話しているのを見たら、
彼女はどんな反応をするだろうか。
……何で、こんな馬鹿な事を考えているんだ?
悪魔の使えないただの高校生が、こうして殺し合いの場に放り込まれているというのに。
「……まだ余裕があるってことか?」
風見千里。大切な幼馴染――姫木梓にどこか似た少女。
彼女との関係は、生き残るための協力相手。
それ以上でも、それ以下でもない。
「どうかした?」
「いや、何でもない」
物思いにふける景に風見は声をかけるが、景はただ一言返事をするだけだ。
そんな彼に風見は、
「何でもないなら、アンタとっとと寝なさい。
怪我人はじっとしてろって、さっき寝る前にも言ったでしょ?」
「いや、次は君が寝る番だろ。交代で寝ようと……」
風見は景の言葉を無視し、彼に近づき、――そして唐突に彼の背中を叩いた。
「!? くぁっ……」
背中全体に激痛が走るが、なんとか景は悲鳴を呑み込んだ。
それでも、顔に浮かぶ苦しみの色までは消す事が出来ない。
「やっぱり全然治ってないじゃない。こんな状況で痩せ我慢がカッコイイわけないでしょ。
大体まだ二時間ちょっとしか経ってないのよ? とっとと寝て、少しでも回復させなさい」
「……それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「ええ、精々甘えてちょうだい。
後になって、その怪我のせいで大事になったりしたら、どうしようもないんだから……」
――参ったな。これじゃ僕が頼りっぱなしだ。
「それと、迷惑かけてるなんて思わないでよ?
アンタと私じゃ鍛え方が全然違うんだから、気にすること無いんだからね?」
「……そいつはどうも」
「どういたしまして」
――本当に参ったな。
考えを見透かされ、フォローまでされてしまった。
かなわないな、と素直に思う。
景は横になって毛布を被り、そしてまたすぐに眠りに落ちた。
【残り94名】
【C−3/無人の商店街、雑貨屋/一日目/06:15】
【物部景(001)】
[状態]: 睡眠中。背中に打撲傷。(処置済み)
[装備]: 折り畳みナイフ、頑丈な腕時計
[道具]:リュックサック(水入りペットボトル一本、支給食料(半分)、缶詰一個、地図、方位磁石、懐中電灯、救急箱)
[思考]: 1.交代で仮眠をして疲労を取る。 2.知人とカプセルの捜索
【風見千里(074)】
[状態]:見張り中。心身ともに健康。
[装備]: グロック19、及びその予備マガジン一本、頑丈な腕時計
[道具]: デイパック(水入りペットボトル一本、支給食料(半分)、缶詰三個、筆記具、懐中電灯、ロープ、弾薬セット)
[思考]: 1.景を休ませる。 2.知人の捜索
2005/06/13 改行調整