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152:暖かな金色の導き

作:◆69CR6xsOqM

「これで気絶中に殺戮者に見つかる等ということはないだろう」

ヒース・クリストフはブギーポップを茂みの中に隠し終えると、独白し、立ち去っっていく。
そしてその背中が見えなくなった瞬間、ブギーポップは眼を覚ました。いや、瞼を開いた。
「行ってくれたか。本調子でないとはいえ悪いことをしてしまったな」
無言で立ち上がり、濡れた外套と帽子を脱いで軽く絞った後デイパックに仕舞い込む。
先ほどの自分は確かにおかしかった。
自動的であるはずの自分が相手に世界の敵であるかどうかを問いかけ、しかも誤認。
武器を持った屈強な戦士を相手に無手で正面から打ちかかったのも、
宮下籐花の身体能力を引き出しきれなかったのも通常ではないことだ。
しばしの間黙考し、一つの結論を出した。
『僕の能力ではない…僕という存在そのものに…制限が加えられている』
恐らくは、宮下籐花を介さずに長時間浮かび上がり続けたせいで思考にノイズが混じったのだ。
そのせいで力も充分に引き出せず、戦術をも誤った。
今現在も、ブギーポップの意識は薄く消えかかってきている。
このゲームが開始されて初めて自分が浮かび上がったのは0時半頃。
それから考えるに、自分が連続で浮かび上がり続けられる限界は約3時間。
3時間ごとに一度、宮下籐花に戻らねばならないらしい。
そして再び浮かび上がることのできるまでの時間は不明。
世界の敵を前にして自動的に浮かび上がってしまう自分には少々不利な制限だ。
だがそれも今更どうしようもない。不気味な泡はそっと瞳を閉じ、呟いた。
「宮下籐花。竹田くんのためにも君の健闘を祈るよ」
そして頭をたれる。

しばらくの沈黙の後、宮下籐花は眼を覚ました。
「あれ?…ここは」
森の中にいたはずの自分が突然、湖の湖畔の茂みに濡れ鼠でうずくまっている。
しばしの困惑。そしてしばしの間黙考し、一つの結論を出した。
『私、あの変な人に驚いて逃げちゃったんだ。
 慌てていて、それで湖に落ちて、ここまで這い上がったけど気を失っちゃったのね』
そう都合のいいように記憶を改竄し、立ち上がる。
今はまだ気温が低い。何かで身体を温めないと風邪をひいてしまうかもしれない。
背負っていたデイパックを開く。ブギーポップの衣装がたたまれて入っていたが、籐花は気にも留めない。
防水加工はされているらしく、衣装以外に濡れてしまったものはないようだ。
しかし肝心の火をおこすものがない。誰かとあって交渉するしかないのだろうか。
籐花は今の自分の状況を佐山・御言から逃げ出す前に伝え聞いて理解していた。(そう記憶を改竄した)
今のこの異常な世界の中で誰かと会うのはとても怖い。
しかし自分から動かなければ状況は変えようがない。
「先輩。頑張りますから。だから、帰ったらご褒美下さいね」
そして小さく震えながら南の森の中へと入っていく。少しでも人目を避けるためだ。
人に会いたいからと簡単に見つかるように移動しては怖い人の不意打ちを喰らうかもしれない。
籐花は自分が先に相手を見つけなければと、目を爛々と輝かせて周囲を見渡しながら歩いていく。
そして数分の後に、深夜の森の中焚き火であろう暖かな灯りを見つけた。
飛び上がって喜びそうになったが慌てて両手で口を押さえ、声を抑えこむ。
爆発寸前の鼓動を強引に押さえつけ、相手を確認しようと恐る恐る籐花は灯りへと近づいていく。
木々の間から覗き込むと、焚き火の明かりに紅く照らされた少女が見えた。
黒い髪に金のメッシュ。金の瞳に金色の道服を着込んでいて、その腰には警棒のようなものを挿していた。

「そこにいるのはどなたさん?気配バレバレなんだけどな」
「うひあっ?」
金色の少女はにこやかに籐花のほうを振り向いた。
見ると籐花は腰を抜かしてその場にへたり込んでいた。
デイパックを抱きしめて完全に硬直している籐花を見て苦笑する。
「ごめんね〜、敵意は感じないし脅かすつもりは…ちょっとあったんだけどね。
 そこまでのリアクションされるとは思わなかったな〜」
「あ、あ、あっあののの、わ私はは…」
少女はやさしく諭すように籐花の肩に手を置いた。
「はい、落ち着こう。深呼吸して、はい、スゥ〜〜〜」
「あ、ははい、スゥ〜〜〜、………ハァ〜〜〜」
「わたしは李麗芳。あなたのお名前は?」
「み、宮下籐花といいます!」

こうして、二人は出会った。この出会いが何をもたらすのか…まだ誰も知らない。

【E-7/森の中/一日目、03:35】

 【宮下籐花(ブギーポップ)】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。デイパックの中にブギーポップの衣装
 [思考]:麗芳との会話/ゲームからの脱出

 【李麗芳】
 [状態]:健康。
 [装備]:凪のスタンロッド
 [道具]:支給品一式
 [思考]:宮下籐花との会話/ゲームからの脱出

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