作:◆cCdWxdhReU
「それで折原さん。 戦力の把握というのもっとも大事なことの一つです。
あなたの支給アイテムはなんです?」
ビルの一室で動かず、長い時が流れたとき。少女、萩原子荻はふとそんな質問をした。
「支給アイテム?」
「そうです。まさか見てないんですか?」
「いや、静雄に会ったりでバタバタしてて。そういえばそんなものあったね」
彼女と行動を共にすることになった男。
こんな状況でも笑みを絶やさないその男の名は、折原臨也。
情報屋と名乗ったその男は、彼女の問いにそう返した。
「知らないで今まで平気な顔をしてきたんですか?
ちょっとあなたに対する認識を改めなければいけないかもしれませんね」
子荻は呆れて言う。キレ者であると感じた私の直感は間違いだったのであろうか。
「君のライフルがあれば当面は大丈夫と思っただけさ」
臨也はあははと子荻の気持ちも知らず笑う。
「はぁ、それで貴方のアイテムはなんなんです? デイバックを開けてみてください」
そう言うと臨也はわかったよといい傍らのデイバックのジッパーを開き、手を突っ込む。
「えーと、いいのが入ってるといいんだが。お、これかな?」
臨也が手を子荻に向かって突き出す。
その手の中には光沢を持ったジッポーライターがある。
「…………これですか?」
「そうみたいだね。他にはそれらしいものは何も入ってないみたいだし」
別段ショックを受けたわけでもなく臨也はそんなことを言ってのける。
「たぶんかなりハズレの類だと思いますよ。これは」
まぁ仕方ない。手に入ったもの全てが当りアイテムの類ばかりってわけではない。
そのうち有効な武器も手に入るであろう。
子荻はそう判断し、そのことについてはもう追求しないことにする。
「それは貴方が持っていていいですよ。好きにしてください」
そう言って子荻は疲れたように壁に背をつける。
とりあえず少しだけ寝よう。
常に神経を張ったままでは後半になる頃には保たなくなってしまう。
いまやれることはこれだけだ。だがあとで絶対生きてくる。
子荻はそう判断すると眸を閉じた。
どうやらこのライターが支給品だと思ってくれたようだな。
折原臨也は決して表面に出さず、胸を撫で下ろした。
先刻この少女、萩原子荻に見せたライターは元々偶然持ち合わせていたものに過ぎない。
そして彼の本当の支給武器は胸ポケットに隠されていた。
薄い携帯電話のようなモバイル。
小さなデイスプレイ、番号とアルファベットが刻まれたボタンが付いたそれには説明書が付いていた。
『【禁止エリア解除機】
このアイテムは3回だけ指定した禁止エリアを一定時間解除します
一回は1時間。一回は3時間。一回は6時間です。
なおこのアイテムを使用した瞬間にエリアは解除されますが、
解除中に放送を挟む場合は解除されたことと残り解除時間が放送されます』
このアイテムは萩原子荻的に言えば『当り』に該当するものだろう。
しかしこれが本当に生きるのは後半戦。エリアが増えてきたときだ。
それまではこのアイテムはこの少女にも知らせずに文字通り自分の胸の中に秘めておこう。
さっき萩原子荻の言った戦力の把握はたしかに正しい。
だが自分は相手の戦力(道具類)については把握済みだ。
情報というのは高価なものなんだよ萩原くん。
臨也はそう心の中で呟いた。
その時だった。
頭の中に声が響こうとしていたのは。
【残り95人】
【C−4/ビルの2階/一日目、06:00】
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
[思考]:ゲームからの脱出? 萩原子荻に解除機のことを隠す
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
[装備]:ライフル
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:ゲームからの脱出?