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131:lonely dog

作:◆Sf10UnKI5A

「ハァ……ハァ……ハァ……」
 一本の木の根元、腰を下ろし、幹に体を預けて荒く呼吸している者がいる。
 甲斐氷太。彼は住宅街から全力で数百メートルの距離を駆け、草原(E−3)に到達していた。
 走る間に興奮も冷め、落ち着いた甲斐は自分が圧倒的苦境にあることを改めて自覚する。
 武器も無く、支給品も無くし、あるのはただ煙草のみ。
 ――これでさあ殺し合ってください、なんて言われてもなあ?
 自嘲の笑みを浮かべ、煙草を取り出し口に咥えるが、
「チッ、火がねえんだった……」
 煙草を箱に戻し、自分が体を預ける巨木を見上げる。
 それは、太く大きな巨木だった。
 幹の直径は5メートル、木の高さは20メートルはありそうだ。
 ――奇妙なもんだなあ、おい。
 見える範囲に、他にもぽつぽつと木が生えているが、どれも大した大きさではない。
「これもココの異常さってやつかよ……」
 ポツリと呟く。
 天使と名乗る少女。ウィザードを連れ、躊躇無く銃を撃つ謎の格闘女。
 彼が出会った人間は、景を除けばわずかに二人。
 しかしその二人ですら、『悪魔』なんて常識外れな力を使う自分から見ても、
 十分常識外の存在に思えた。
「しっかし、どうすっかねえ……」
 地図も何も無い状態で下手に動き回るよりは、明るくなるのを待って行動するのが得策。
 かと言って、巨木の根元なんて一際目立つ場所に留まるわけにもいかない。
 住宅街に戻ることを考え、
「……いや、無理だな」
 十数分前、一瞬で修羅場と化した家のことを思い出す。
 考え、……そして甲斐は一つの考えを得た。
 立ち上がり、辺りを見回すが動くものは皆無。
 そして、再び木を見上げる。

「木登りなんて、ガキの頃以来だな。……よっ!」
 甲斐はゴツゴツとした木の表面に手を掛け、よじ登り始めた。
 近くの枝を掴み、体を引き上げる。
 ある程度太い枝に足を乗せれば、あとは簡単なものだった。
 あっという間に木の上層まで登り、一際太い枝に座る。
「はっ、思ったより快適じゃねえか」
 周りを見回せば、鬱蒼と茂る枝葉が内部を外界から切り離している。
 身を隠すにはうってつけの、この空間はまるで、
 ――秘密基地、か。本当にガキの頃と同じじゃねえか。
 ガキ大将と呼ばれた過去を思い出し、わずかに笑う。
 ここなら、少なくとも夜明けまでは誰にも見つからずに済むだろう。
 ――こんなデケエ木を登ってまで人を探すようなのがいなければ、な。
 いるわけねえか、と甲斐は笑い、煙草を取り出して、……そしてまた戻した。

 【残り96名】

 【E−3/草原・巨木の上/一日目 03:05】

 【甲斐氷太 (002)】
[状態]:平常
[装備]:無し
[道具]:煙草(残り14本)
[思考]:夜明けまで休息

2005/06/13 改行調整

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