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127:Stranger

作:◆wkPb3VBx02

「―――!」
獣の咆哮のようにエンジン音が夜気に響き渡り、それに続く形で男の笑声が後を追う。
地面の凹凸に合わせて車体が跳ね上がり、搭乗者の長髪が揺れる。
男は自分の運転がどれだけ危うげあろうと一向に構わず、アクセルを踏み砕かんばかりの勢いで踏み込む。
白い軽トラックの前面には既に目を覆いたくなる有様であり、運転手の技術が疑われる程傷ついている。
猪のように猛進する軽トラの速度は時速80キロを優に超えており、事故が発生すれば加害者・被害者ともに無事ではすまないだろう。
だが、男の目的こそがそれだった。
(誰でも、誰でもいい!誰でもいいから轢いちまえ!)
男の狂気を孕んだ双眸がバックミラーに映る人影を捉える。月明かりに照らし出された人物の特徴は銀髪に長身。
黒く露出の多い服を身に包んだ人影は片手に何かを持ち、こちらに向かって懸命に距離を詰めようと駆け寄ってくる。
(……車に勝てると思ってんのか)
男は人影を獲物と認識し、ハンドルを切ってほとんどスリップするかのように反転、慣性に逆らいながらさらに強くアクセルを踏む。
絶叫に近い音を上げながら軽トラックは加速、両者の距離を確実に詰めていく。
彼我との距離が十メートルまで肉薄した所で、男は人影の特徴を捉えた。
銀嶺の髪と瞳に右目を跨ぐ龍と炎の刺青、鍛え上げられた肉体もさることながら目を奪われたのは手に握る物とその表情。
一振りの美しい剣を携え美しい男が、嗤いながら追い駆けてくる。鋼の視線が男の視線と交わった。
悪寒。氷塊が背を滑り落ちたような感覚に怖気が立ち、眼前の美男子が只者ではないことを確信する。
次に来るべく衝撃に男は身構えた。が、衝撃はこない。
(避けられた?まさかあの距……)
突如、衝撃と共に目の前に下向きに突き出す剣先。前髪と伊達眼鏡が断ち切られ、視界の中央を大きく占めた。
「うぉッ!?」
座席がもう少し前にあったら、頭をばっさりと一刀両断されていたかもしれない。
「上か、クソッタレ!」
男は振り落とそうとブレーキを掛けるが、その直前にまた衝撃、美男が屋根から飛び降りる。
また反転し激しい衝撃に体が揺れ掛けていた眼鏡が外れたが、気にしている余裕は男にはない。
正面を見ればフロントガラスを挟んだ向こう側、月を背景に銀髪の男が剣を担いで立っていた。にやりと嗤い、口を開く。

「―――剣と月の祝福を」
先程の物とは比べられない程の危機感に全身の感覚が悲鳴を上げたのを男は聞いた。全身が粟立つ感覚が皮膚を支配する。
銀髪の男が動き出す前に長髪の男はアクセルを踏んだ。急発進した軽トラックが美男と肉薄し、金属同士の甲高い共鳴音。
トラックの側面に刃が突きこまれ、回転するタイヤが削り取られていく。
美男の顔が曇り、後方に剣を引きつつ跳躍しトラックと距離を置く。
男はこの好機を逃さなかった。と言っても攻撃に転ずるのではなく銀髪の男の横を通り抜け、そのまま振り返らず走り去っていった。
「……つまらぬ」
紅い焔のような口唇が鋼の嘆息を紡ぎ出し、端整な顔が失望と嫌悪に歪む。
「やはり眼鏡によい縁がないな」
その独白は相棒に当てたものだったが、相棒も同じようなことを考えているとは知る由も無かった。
「……つまらぬ。弱き者を斬った所が何の足しにもならぬ」
銀髪の美男は侮蔑を込めて自らを恥じるように呟き、その場を後にした。

「……クソッ……タレッ……!!!」
衣服の所々に裂傷を作りながら長髪の男は立ち上がった。
あれから死に物狂いで逃げ続け、追跡の気配がないことに油断してハンドル操作を誤ってしまい、海に落ちかけてしまった。
ボコボコの使えなくなったトラックが沈んでいく様はもの哀しく、男は武器を一つ失ってしまった。
上手く使えばもっと楽しめたかもしれないものを、と拳を握り締め剣を杖代わりにして体を支えた。
「あの銀髪、どんな手ェ使ってでも殺してやる」
先程逃げ出したとは思えぬほど、怒気を孕んだ口調で男は吐き捨てる。
溜まった鬱憤を晴らすため、男は獲物を求めて森の方に向かって行った――

【H-4/森/4:00】

残り95人
【ジェイス】
【状態】軽傷、欲求不満
【装備】断罪者ヨルガ
【道具】荷物一式
【思考】誰でも良いから殺す

【H-7/草原/3:40】

【ギギナ】
【状態】健康
【装備】魂砕き
【道具】荷物一式
【思考】強い者と闘う/他の場所に移動

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