作:◆gzzG2LsYlw
階段を降り終えた二人、師匠とオーフェンが近くを歩いている三人の人影を見つけた。
なにかを一瞬考えた師匠が、突然大声で言った。
「とまりなさい!」
気づいた三人は警戒しているが、師匠は遠慮なく近づいた。
「おや、キノじゃないですか。」
「なんだ?」
「知り合いか?」
オーフェンと、三人のうちの一人、イルダーナフが同時に言った。
「え? どこかでお会いしましたか?」
呼ばれたキノは意外そうな顔で聞く。
「師匠の顔を忘れるとはいい度胸ですね。」
口元をニヤリと動かして脅すように言う。
キノの顔色が変わった。
「ま、まさか師匠? ええ、でも、その・・・・・・。」
「ええ。なぜかこの世界に来てから体が昔のように、そう、若返ったようです。何故かはわかりません。」
キノはかなり驚いた様子で、
「そ、そんな。名簿で見たのでいるとは思ってましたが、まさかこんな・・・。信じられない。」
「気に入りませんか?」
「いえ、そんなこと・・・・・・ないです。」声が徐々に小さくなった。
ふと師匠はなにかに気づいて、
「おや、そのパースエイダーは・・・・・・。」
キノはうなずいて、
「ええ、前に師匠からお借りしたものです。ここでも運良く手に入れられました。」
「そう、それは良かったですね。」
なんとか気を取り直してキノが笑顔で言う。
「・・・・・・そうだ、師匠、一緒に行動しましょう!」
師匠はさも当然そうに、
「それはできません。」
「え、何故ですか!?」
「あなたはここで私に殺されて死ぬからです。ここでは最終的にたった一人しか生き残れない。
あなたも知っているでしょう?」
「で、でも一緒になんとかすれば!」
「いいえ、だめです。こんな不可思議な世界で、“なんとか”なんて通用しません。
私とあなた、最後に残る可能性があるのはどちらか一人です。」
そう言って一度言葉を切る。
「・・・・・・」
師匠が優しそうな笑顔で続けた。
「・・・・・・何度も教えたはずですよ、キノ。生き残るためには、そのときできる最大限の努力をしろと。誰かを殺めることになっても遠慮などするなと。」
「そう・・・・・・ですけど・・・・・・でも師匠と殺し合いなんてできない!」
「あなたがなんと言おうと、私はここであなたを殺します。・・・・・・決闘をしましょう、キノ。わかりましたか?」
少しも相手の意思など聞く様子のない彼女のその眼が、本気であることをキノに告げた。
「ルールは以前教えたことがありましたね。ではその通りに。」
「・・・・・・はい。わかりました。」
もはやなすすべはないと悟ったキノは言った。
「っでもアンタ、」なにかを言いかけたオーフェンにすかさず師匠が怒鳴る。
「オーフェンっ!! ・・・あなたはそこで黙って見てなさい。」
ヴィルとイルダーナフの方を向いて、少し落ち着いた声で、
「あなた達も。これは私とキノの問題です。手出し、口出しは無用です。」
そう言いながら右目で微かにウィンクした・・・・・・様にヴィルには見えた。
向かい合う二人。
「師匠、パースエイダーは?」
「ええ、ここに。」と懐に手を入れて師匠が言う。
そして二人は背中を向け合う。
「いいですか、数えますよ。・・・・・・」
「・・・・・・3!」
二人は大股で一歩前に出る。
「2!!」
もう一歩。
「1」
二人は呆れるような速さで振り向き、構え、撃った。
――ズドン!!
キノは眉間に、目と目の間のど真ん中に、猛烈な衝撃を受けて後ろに倒れた。
「ッぐ!」揺らぐ視界・・・・・・。途切れる思考・・・・・・。
師匠は、腹のど真ん中に、猛烈な衝撃を受けて後ろに吹っ飛んだ。
腹部から入った弾丸が背中と一緒に破裂する。まるで背から真っ赤な花が咲いているようだった。
そしてほんの数秒――キノには永遠とも思える時間だった――が過ぎる。
(・・・・・・生きている?)
目の前を転がる石をぼーっと見る。そして気づく。
「ま・・・・・・さか・・・・・・!」
ふらつく頭を押さえながらキノが駆け寄る。
「師匠!!どうしてっ!!!」
額の痛みも忘れて自分の師匠の肩を掴む。
「・・・・・・キノ・・・・・・甘いですよ・・・・・・。狙いはきっちり眉間に・・・・・・」
パチンコを手にした師匠が、か細い声で言った。
「そんな、師匠!! 師匠らしくないです!!」
地面を真っ赤な液体が、容赦なく広がる。
「いいですか・・・・・・?
キノ。必ず・・・・・・必ず、最後まで生き残りなさい。どんな・・・・・・ことを・・・・・・しても。」
静かな笑顔でそう言って、駆け寄ってきたヴィルとイルダーナフに、
「この子を・・・・・・よろしくお願いしますね・・・・・・。最後はこの子のために・・・・・・死んであげて・・・・・・。」
と本気か嘘か、わかりかねる言葉を、
いたずらそうな、穏やかな笑顔で言った。
「愛していますよ、・・・・・・キノ。」
そして、息を引き取った。
そして時間は過ぎる――
師匠をその場に埋めて、一人で淡々と、黙って墓を作ったキノは、
「しばらく一人で・・・・・・」
そうつぶやいて、とぼとぼと歩き出した。
察したヴィルとイルダーナフ、そしてオーフェンは、その後を、少し距離をとって、追い始めた。
【キノの師匠 (若いころver)(020)】
[状態]:死亡
[装備]:なし
[道具]:ダイヤの指輪(墓の中)
【オーフェン(111)】
[状態]:普通
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:とりあえずキノ達について行く。
【キノ (018)】
[装備]:『カノン』 師匠の形見のパチンコ
[道具]:支給品一式
[思考]:ショック状態
【ヴィルヘルム・シュルツ(010) 】
[装備]:ベネリM3(残り6発)
[道具]:支給品一式
[思考] キノを追う
【イルダーナフ(103)】
[装備]:ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り20発)
[道具]:支給品一式×2(ブルー・ブレイカーの分)
[チーム行動方針]:イルダーナフの知り合い(カイルロッド、リリア、アリュセ)を捜す。
【C-5/階段上り口付近/1日目・05:30】
2005/05/23 執筆者校正受取