作:◆ZlP49.IyQM
「誘拐!?」
随分と元気を取り戻した要は、素っ頓狂な声を上げた。
というのも、白い犬と戯れていたところで、
「あ、要が笑ってる!」「笑ってるね!」「ロシナンテ効果だな!」「アニマルテラピーだね!」
と口々に喜びの言葉を言いながら戻ってきたアイザックとミリアにいきなり告げられた言葉が、
『聞いてくれ要、俺たちは参加者たちを誘拐することにした!』
『ゲームをぶちこわすんだよ!』
というものだったからだ
「そう、誘拐だ!」
「誘拐だよ!」
「わんデシ!」
褒められるのを待つ子供のような笑顔で頷くアイザックとミリア、
おまけに腕の中の白い犬まで、同調したように吠えるではないか。
要は頭が痛くなった。
確かに誘拐≠ニいう言葉は穏やかではないにしても、おそらくこの二人は参加者たちを逃がす、という意味合いで言っているのだろう。
それはわかる、わかるのだが……
「アイザック、なんだか私達ってヘンタイヒーローみたいだね!」
「ヘンタイヒーローって何だ?」
「ジャパンのヒーローだよ! それぞれの性格にあった色違いの全身タイツを着て、悪い奴らをやっつけるんだって
ちなみにリーダーはレッドみたいだよ」
「よし、じゃあミリアがレッドだ!」
「わぁい! じゃあアイザックはピンクね! リーダーの恋人の色」
「OK、レッドは俺が守ってやる!」
「わぁい、ピンクかっこいい!」
昔の戦隊ヒーローは、ピンクが人質担当だという話だが。
「チーム名とかもあるみたいだよ、何とかヘンタイって」
「うーん、義賊ヘンタイとか?」
「変態じゃなくて戦隊ですよ!」
要は耐えきれなくなって声を上げた。
「二人のやりたいことはわかる、むしろ賛成です。
でも、いくら何でも計画が薄すぎます! 第一その誘拐≠するなら一人一人しなければならないでしょう?、
それなら他の人を誘拐するとき、先に連れてきた人をどうするんですか、
連れて行くんですか、それともどこかで休んでもらうんですか?
休んでもらうんだったら、どこか拠点になるようなところを作っておかないと……そうだ、こことか!」
つい意見を続ける要をぽかんと見ていた二人は、しばらくの沈黙の後、
「……知性派だ」
「知性派だね」
目を輝かせてつぶやいた。
「……え?」
「すごい、すごぉい、ケンセツテキ意見だよ要!」
「くやしいが俺の負けだぜ!」
「要はイエローだね! 知性派の色」
「ミリア、何でイエローなんだ?」
「ええと、哲学的なことを考えながらカレーを食べるから、どんどん食べこぼしちゃってタイツが黄色くなったの」
それはただのだらしない人だ。
「へえ、要はカレーが好きなのか」
「……違いますよぉ、知性派はブルーですよ」
「あ、ロシナンテはどうするよ、ミリア?」
聞いちゃいない。
泣きそうになった要を、ロシナンテことシロが慰めるように見上げている。
「やっぱりホワイトだよ、白いもん」
「……わ、わんデシ?(また名前が変わったデシか?)」
シロは目を丸くした。
「よぉし、義賊戦隊デ・ラ・マンチャ誕生だ!」
由来はあの妄執に取り憑かれた老人の名前、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ……二人は未だにこのネタを引きずっていたらしい。
「誕生だね!」
呆れるイエローとホワイトを尻目に、レッドとピンクは高らかに声を上げる。
未だ暗い倉庫の中には、悲壮な空気などもはや微塵も見られなかった。
【E‐4/工場倉庫/一日目04:40】
【アイザック】
[状態]:超健康(眠くてハイ?)
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:「いっちょ元気に誘拐活動だ!」
【ミリア】
[状態]:超健康(眠くてハイ?)
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:「そうだね、アイザック!」
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)】
[状態]:健康
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:「こんなゲーム中止デシ!」
【高里要】
[状態]:元気を取り戻したが別の意味で疲れ気味
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:アイザックとミリアに同行させられる