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108:年表干渉者

作:◆91wkRNFvY

「ひひひっ、しかし何だなぁ、さっきから誰とも会わねーなァ」
「構わん、その方が安全で良い」
「オレとしては危険になってくれた方が死ぬ確率が上がって嬉しいんだけどよぉ」
「私が困る、茉衣子くんと会えなくなる確率が上がる」
 歩いて茉衣子を捜す以外に有効な方法があるとも思えず、先ほど湖から北に少々行ったところだった。
 当然、歩く以外にすることもないので会話をして気を紛らわすしかないのだが。
「そもそもだな、エンブリオ。私はキミを・・・」






<アスタリスク>

介入する。
 
実行。
 
 
 
終了。






「キミを・・・、っとこれは…」
 月明かりの下、エンブリオと会話していたはずだが、突如、周囲が暗闇に包まれた。
 そして、目の前に徐々に現れてきたのは、常に微笑を浮かべる見覚えのある少女だった。
 
「お久しぶりです、宮野さん」
「キミか、久しいというほど時間は経ってはいないのではないかな」
 一瞬で相手が誰かを判断し、応える。
「そうかもしれません」

 いつの間にか、目の前には軽くウェーブがかったセミロングの少女が立っていた。
「それで、親切にも今回の顛末について私に説明してくれるというのかね?」
「今回は少々厄介なことになってしまいました。その件について、わたし達はあなたの助力を必要としています」
「我々より上位世界の存在が、下位世界の人間の手を借りるというのかね?」
「はい、わたし達だけではこの空間の歪みを正常に戻すという事は不可能と判断しました」
 平行世界は横だけではない、縦に存在する上位世界。
 その上位世界の住人である彼女の力すらも及ばないという今回の騒動の原因は一体何なのか。

「聞こう」
「では、時間もありませんので簡潔に。
 あなた達の時間でつい半日前、何者かがあらゆる平行世界を始めとした異世界へアクセスを開始しました。
 それは正しい時間線では無いので、わたし達はすぐさま対策を立て、対応しました。
 ですが時及ばず、異世界から集められた100名強の人々は、その何者かの造った空間へと放り込まれてしまいました」
「なるほど、それが我々というわけだ。で、そのU.N.オーエン氏は誰なのかね?」
 宮野の問に少女は首を振り、
「判りません、周到に準備していたのか、何度か逆アクセスを試みましたが全て遮断されてしまいました」
「ふむ、しかしキミがここにこうして来れるという事は、そこまで上位の世界の存在の仕業では無いという事か?」 
「はい。恐らくわたし達と同等か、少々上の能力といったところです」
 今まで微笑を湛えていた少女の顔が急に真剣になった。

「もう時間がありません、わたしが相手に悟られずに干渉できるのはここまでのようです。
 最後に宮野さん。あなたの捜している方は、ここより西に2,5kmほど行った場所にある公民館にいます」
「何?本当かね!それは助かる。これで当面の行動が見えてきた」
 宮野の目的は、エンブリオを茉衣子に使わせ、この状況を打破することである。
 自分のEMP能力がフル活用できるのなら、それも合わせて使えばどうにかできない事も無いだろう。
「では宮野さん。わたし達も現状を打破する方法を探します。どうかご無事で」
「うむ、そちらもな」

 そう言って、微笑みに戻った少女は徐々に薄れていった。






<インターセプタ>
 この事件、鍵を握るのはやはり宮野秀策のEMP能力では無いだろうか。
 相手の目的は見えないが、おそらく実験・観察といった類だと推測する。
 この世界はわたし達の世界ではない、故に守護するべき時と空間では無いかもしれない、だが。
 宮野秀策や光明寺茉衣子が巻き込まれている以上放ってもおけない。
 願わくば、彼を始めとした全ての人が、正しい時間線上に戻れるように、叶えば。





<アスタリスク>

終了する。

実行。
 
 
 
終了。





「私はキミを・・・」
 立ち止まり、口ごもる宮野。
「へっ、オレが何だってんだい、ホレられても困るぜ?けけけっ」
 唐突に普段のアルカイック・スマイルに戻ると、
「何でもない、ただキミを相棒と認めたわけではないと言いたかったのだ、ほれ、さっさと行くぞ。
 こんな所で立ち止まっていても何も始まらん、まずは私の最愛の弟子を捜さねばな!」
「へっ、そのお弟子さんとやらは何処にいるのか判ってるのかい?ここの場所は結構広そうだぜ?けけっ」
 
「ふむ、そのことなのだが、何故だか解らないが茉衣子くんは西にいるような気がしてきたぞ、
 故に私は茉衣子くんのいると思われる西に向かって駆けようと思うが、異存はあるかね?」
「オレが死ねるんなら何でもいいぜ、さっさとやってくれ」 
「茉衣子くんに会ってから初めてキミの役割が果たせるというものだ」
 そして宮野は西へ向かう。

【D-6/湖のほとり→西へ向かう/1日目・05:00】

 【宮野秀策】
 [状態]:健康
 [装備]:『自殺志願』
 [道具]:デイパック(支給品一式)×2、エンブリオ(ゼロスの支給品)
 [思考]:茉衣子に逢ってエンブリオを使わせる。
【残り98人】

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