作:◆1UKGMaw/Nc
――ミラ、ミラ、どこにいるの?
一人はいやだよ。さびしいよ――
森の中を、アーヴィング・ナイトウォーカー(以下、アーヴィー)は歩いてゆく。
その手に狙撃銃を携え、うつろな目であたりを見回しながら。
絶対に見つけることのできない人を、ただただ求め続ける。
ふいに、足を止める。
誰かがいる。
姿は見えないけれど、誰かがいる。
ミラかな?
アーヴィーが足を止めたのを確認したのか、その誰かの声が聞こえた。
「こちらは争うつもりはない。君と話がしたいだけだ。
……今から出て行くが、撃たないでもらえないだろうか」
――ミラじゃなかった。
でも、ミラのことを知ってる人かもしれないな――
「わ、分かりました。ぼ、僕も争う気なんてありません。ほ、本当です。
僕も、あ、あなたに尋ねたいことが、あ、ありますから……」
アーヴィーのその言葉を真実と受け取ったのか、しばらくして少し離れた木の影から男が姿を現した。
「私は竜堂始。君の名前を教えてもらえないだろうか」
「は、はい。ア、アーヴィング・ナイトウォーカーです」
ファーストコンタクトがうまくいったことで少し安堵したのか、始の顔に僅かに笑みが浮かんだ。
「アーヴィング君、私は人を探している。竜堂終という名の少年と、鳥羽茉理という名の女性を見なかっただろうか」
アーヴィーはしばし考える。
ここで出会った人物はまだ一人だけだ。
「い、いえ、見てません。背の高い男の人には会いましたけど、その人たちは、し、知りません」
始は、その言葉に僅かに落胆した表情を見せる。
だが、すぐにまた元の表情に戻ると、アーヴィーに礼を言った。
「そうか。いや、ありがとう。ところで君も私に聞きたいことがあるんだったね」
そうだ、ミラのことを尋ねなくては。
「は、はい、あの、ミラっていう小さい女の子を見ませんでしたか?」
「ミラ……?」
怪訝な顔を見せる。
参加者名簿には一通り目を通したが、ミラという名前はなかったはずだ。
「いや、見ていない。というより、その少女はここにはいないはずだよ」
アーヴィーは、目の前の男が何を言っているのか分からなかった。
ミラがいない?
そんなわけはない。
なんでそんな嘘をつくのだろうか。
「参加者名簿は確認したかい? これがそうだ、見てみるといい」
言って名簿を取り出す始。
そこまでいうなら確認しようと一歩踏み出したところで、勝手に右腕が跳ね上がり始の額にポイント。
左の義手で銃身を支えてそのまま引き金を引いた。
――ターン!
あれ? とアーヴィーが思ったときには、とっさに回避しようとした始の額から血飛沫が舞っていた。
「くっ!?」
銃弾はかすめるだけに終わったのか、目の色を変えるとアーヴィーに向かって駆ける。
「はあぁっ!」
渾身のパンチがアーヴィーの頬を捉える。
成す術もなく吹き飛んだアーヴィーは背後の木に叩きつけられ、白目をむいて気絶した。
「どういうことだ?」
会話はうまく進んでいた。
なにより、このアーヴィング・ナイトウォーカーという青年からは敵意が全く感じられなかった。
なのに、この結末だ。
額の血を拭い、アーヴィーを見る。
右手にはまだ狙撃銃を握ったままだ。
とりあえず武装解除しようと近づき、かがみ込もうとした時――またアーヴィーの右手が跳ね上がった。
「な」という始の言葉と銃声が同時。
始の身体が銃弾に弾かれ、のけぞる。
着弾した額には、淡く光る、だが幾分欠けた竜の鱗。
相殺しきれなかった衝撃に、その内側から新たな鮮血が舞った。
(!……やはり、力が弱まっている! まずい!!)
そう思った始の鼓膜に、再び銃声。先ほどと寸分違わぬ位置に、再び衝撃。
欠けた鱗に明らかなひび割れが走る。
普段ならばどうという事はない衝撃に脳が揺さぶられ、足の動きが始の意思を離れる。
「ぐぅっ!?」
(この…、男は……!)
そして、始は見た。
白目をむき、よだれまで垂らして、明らかに気絶しているアーヴィーの顔と。
神業的な速度で排夾し、三度照準を合わせる二本の腕の、非現実的なアンバランス。
その銃口の向く先は――
(すまん……茉理ちゃん! 終!)
――銃声。
最後の銃声で少しだけ意識が回復した。
朦朧としたままのアーヴィーの瞳に大輪の紅い花が映る。
アーヴィーは「きれいだな」と感想を漏らし、「きれいだね」と傍らでミラが言ってくれたような気がした。
【竜堂始 死亡】
【残り102名】
【G-4/森の中/1日目・02:30】
【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:ミラを探さなきゃ
(ミラはエントリーされていませんが、探す気でいます)
(ミラはエントリーされていないという情報を得ました)
[備考]:H-3 → G-4へと移動しています。
竜堂始のデイバッグは、現状G-4に放置されています。内容不明。
2005/04/03 修正スレ3