作:◆91wkRNFvY
キーリは一人、雑木林を歩いていた。
当初はこんなおかしな状況に陥って大分混乱していたが、現在はとりあえず持ち直し、ハーヴェイを捜していた。
いつまでも落ち込んでたって仕方ないもん、さっきの場所、結構な人数がいた。
最初に殺された━━━━そう、殺されたのだ━━━━人たちみたいに、この状況を快く思ってない人が必ずいるはず。
なら、その人と協力してどうにかこんな場所から抜け出さないと・・・。
「ハーヴェイ・・・」
呟きが漏れるが、応える声は無い。
キーリが支給された武器は警棒の様な物だった。勢いよく振ると大きさが倍ほど伸びるのだ。
説明書によると「超電磁スタンガン・ドゥリンダルテ」と書いてあった。
良く解らなかったが、どうやらこの棒を相手に押し当て、指もとのスイッチを押すとシロナガスクジラも一撃だそうである。
シロナガスクジラも解らなかったが。
とぼとぼと歩いていると突如、頭上からけたたましい声が降ってきた。
「そこ行く小娘よっ、このマステュリュアの闘犬、偉大なるボルカノ=ボルカン様の部下として共に自由を勝ち取る気はないかっ!?」
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「えっと、あの、何か反応をして頂けると、当方としてもまことに嬉しい所存ですが」
あまりの奇天烈さにキーリはしばし言葉を失っていた。
黙り込んだ所為で何故か変人の口調がヤケに丁寧になっているが、気にせず、
「あのー、とりあえず降りてきませんか?すごく話し難いんですけど」
恐らくどこかの木の上にいるであろう変人に向けて応える。
「うむ、そうであるな。確かに、このままでは話し難いな。良いところに気が付いた!
お前をこの俺様の自由大万歳計画の部下一号に任命しよう。とうっ!」
ずべしゃあああああああっ!!
ごきんっ!!!!
盛大な音+何かヤバい音と共に上から落ちてきたのは、見た目が10代前半と思われる男の子だった。
「うわっ、大丈夫?」
「うむ、その気遣い、さすが部下一号。褒めて遣わすぞ」
コンマ単位で復活したボルカンは腕を組み胸を張ってみせる。
「あの・・・、私もう行くね、気をつけてね」
ボルカンが無傷なのを確認すると、係わり合いになりたくない(そりゃそうだろう)のか、早足で立ち去ろうとするが、
「ちょ、こら!待たないか!この俺様と一緒に自由を勝ち取りたくは無いのかっ!?」
慌ててキーリに追いすがり、
「この俺様の部下になるのなら、特別にこのハリセンを付けよう、お〜っ、すごい、何て太っ腹、ボルカン様ステキーー!!」
「ごめんね、私捜してる人がいるの、だからあなたと一緒に行くことは出来ないの」
立ち止まり、懇切丁寧に説明するが、目の前の男はそんなものを聞くような男ではない。
「そうか、なるほど、つまりこの俺様が自由を勝ち取る為の同士を捜してくれるというのだな!さすが部下一号!」
何なんだろう、この人、ボルカン?さっき落ちた所為で頭が?でも、自由がどうとかっていうのは落ちる前から言ってたし…。
「そもそも何で自由を勝ち取りたいの?」
「良くぞ聞いてくれた!しかしそれを説明するにはまず、あの小汚くとも忌々しい黒魔術士の話からせねばならないな!」
「黒魔術士?」
「そう、黒魔術士だ!ヤツは・・・」
キーリの問に、ボルカンが応えるが、全く頭に入らない。
元々キーリの世界には魔術などは存在しないため、魔術や魔法なんてものは物語の中の存在なのだ。
しかし、現在おかれている状況は全くもって物語じみている。今なら神様だって信じられるかもしれない。
神様がいるなら、どうか、ハーヴェイと会うまで無事でいられますように・・・。
「そういうワケでだ、この俺様が自由を勝ち取るにはあの憎き黒魔術士を打倒せねばならんのだ!」
「そっか、でもやっぱりごめんなさい、さっきも言ったけど、私は捜さなきゃいけない人がいるの」
実は全然ボルカンの話を聞いていなかったのだが、全く気にしていない。
「仕方あるまいな!部下一号がそこまで捜したいという相手だ、さぞ大物に違いない!」
また、勘違いが始まった。
「はっきり言ってこの俺様の頭脳と力さえあれば出来ない事は無いに等しいが、しかしだ。
この俺様に付き従う者がいるというのも悪くない、よって部下一号、お前の捜している相手とやら、この俺様も捜してやろう!」
「え、いいよ・・・、私は一人でも大丈夫」
「無理を言うな、お前の様な小娘がこんな場所につれて来られて何が大丈夫なものか、
部下を護るのも、このマステュリュアの闘犬、ボルカノ=ボルカンの役目だからな!
小娘、お前の命を狙うような輩が現れたら俺様が、このハリセンで相手がごめんなさいゆるしてくださいって泣くまで叩き殺してやるからな!
お前は安心してこの俺様の部下を捜すのだ」
「小娘小娘って、あなたは何歳なの?私は16歳だよ」
「ハン!小娘で十分よ、この俺様より2歳も年下ではないか」
ボルカンは地人という種族で、18歳、身長は130cm前後、基本的な地人男性の身長である。
だがキーリはそれを知らない為、どう見ても10代前半にしか見えないのだが。
もう考えても仕方ないのでその辺は流すことにした。
「わかったよ・・・、ここにいても仕方ないし、とりあえず移動しない?」
「そうであるな!この俺様と、ついでに部下一号の自由を勝ち取る為に、いざ進まん!」
歩き出した二人が、倒れている古泉を発見するのは数分後のことだった。
【E-6:一日目:01:50分】
【残り104名】
【闘犬ご一行様(キーリ・ボルカン)、古泉一樹を発見】
【キーリ】
[状態]:正常
[装備]:超電磁スタンガン・ドゥリンダルテ(撲殺天使ドクロちゃん)
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:ハーヴェイを捜したい、ゲームから抜け出したい。
【ボルカン】
[状態]:正常
[装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:キーリについて行く。打倒、オーフェン。
【古泉一樹】
[状態]:気絶状態
[装備]:なし
[道具]:デイバック一式。
[思考]:SOS団の合流