作:◆1UKGMaw/Nc
気がついたら下は水だった。
「あれ?」
――ドボーン!
――ダバーン!
――バシャーン!
なんか水音が三つも聞こえた気がする。
三つ目が俺で、残りの二つは何だ?
とにかく水面に出よう。
息ができないくらいで死にはしないが、苦しいのは変わりない。
「ぷぅ……この展開なに?」
なんとか俺は水面に出た。
と思ったら意外と近くから盛大な水音が聞こえる。
「ぷ……! わ、何…み、水!? うそっ……足つって、ぷぁ…!」
溺れている女がいた。
バシャバシャと水を蹴立てて、なにやら楽しそうにも見える。
邪魔しないほうがいいのかと思ってしばらく見ていたら、やがてトプンと音を立てて沈んだ。
マジか。
「おいおいおい」
勘弁してくれと思いつつ潜る。
暗くて視界は悪いが、女が溺れていた位置なら分かっている。
沈んでいく女を見つけ、その身体を抱えようとしたところで……同時にその女を抱えようとしている男と目が合った。
「!!」
至近距離に来るまで全く気づかなかった。
突然のことに、がぼっと音を立てて口から空気が漏れ出る。
向こうも同様だったようで、途端に必死の形相になる。
男がその形相のまま必死に水面を指差した。
俺も同じ形相のままコクコク頷く。
「ぶはぁ!!」
「岸! 岸どっちだ!」
自己紹介なんてやってる場合じゃない。
水面に浮上するや否や、必死こいて岸を探し泳ぎ始めた。
それが二時間くらい前の話だったと思う。
今、俺――ハーヴェイ――と、目の前の男――ダウゲ・ベルガー――は、焚き火を囲んで向かい合っている。
あれから一時間もしないうちに岸には着いたんだが。
焚き火を起こす場所探したり、実際に火起こしたりで時間食った上に、
せっかく起こした焚き火を目を覚ました女に占領され、そんなわけでこの焚き火は二つ目だ。
もう一つの焚き火は、ベルガーの背後の岩陰にあり、こちらからは見えない。
どちらも場所を良く考えて作ったから、近くに来ない限り、対岸からしか見えないだろう。
「……ようやく温くなってきた。世界で二番目に不幸だぜ、今日の俺は」
「……じゃ、俺一番に立候補していいか」
服は焚き火で乾かしているから二人ともほとんど裸だ。
あの女――テレサ・テスタロッサと名乗った――も同様の状態のはずだ。
早く温まりたい一心で「一緒の焚き火でいいじゃん」と言ったら大層恥ずかしがったから、俺たちはこう言ったんだ。
「大丈夫、子供に興味ないから」
「右に同じ」
結果、二人とも平手打ちを食らった挙句、「あぁぁ、すいません!」と謝られてしまった。
怒れないじゃん。
ベルガーが、干してあった参加者名簿を手に取った。
「あんたも見といたほうがいいんじゃないのか? 知り合いが参加してるかも知れないぞ」
俺がその挙動を目で追ってるのに気がついて、ひらひらと名簿を振ってみせる。
知り合い……絶対参加して欲しくない奴と、できれば参加して欲しくない奴と、どうでもいいのが思い浮かぶ。
のろのろと俺の参加者名簿を手に取り、中を確認する。
えーと…………………………最悪だ。
ほとんど濡れたままの服を引っ掴み立ち上がる。
「おい」
「悪い。探してやんなきゃいけない奴がいた」
自分の支給品――笑えないことに炭化銃だ――を携えて言う。
「悪いけど、テレサによろしく言っといて」
「おい、本当に行くのかよ。そんな状態でしっかり身体動くのか?」
もう答えずに歩き出す。
背後でベルガーが嘆息したのが分かった。
そんなときだ――テレサの悲鳴が聞こえたのは。
【残り105名】
【死人と犬と大佐殿】
【C-7/湖のほとり/1日目・02:10】
【ハーヴェイ】
[状態]:健康/体温低下
[装備]:炭化銃
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:キーリを探す
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:健康/体温低下
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:とりあえずここで温まる
【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:健康/体温低下
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:とりあえずここで温まる