作:◆1UKGMaw/Nc
「っだあぁぁあああ!! 何だってんだちくしょうッ!!」
木々が鬱蒼と茂る森の中。
湿った土と落ち葉を蹴立て、背後にしつこく迫る気配を感じながら、出雲・覚は全力疾走していた。
時おり、風を切る音と着弾音が周りで聞こえる。
視界が悪く、障害物も多い森の中であることが幸いしてか、
追っ手の放つ銃弾はまだ一発もかすりさえしていない。
(つっても、このままじゃジリ貧だぜ……)
こちらは武器になるようなものは持っていない。
数分前に支給品を確かめたところ、入っていたのは『うまか棒50本セット』だった。
今大会屈指のハズレアイテムを引き当てる自分の不運を呪う。
「俺なんか悪いことしたかぁぁぁあっ!?」
覚の叫びが空しく森にこだました。
――楽しいな。楽しいな。
鬼ごっこなんて久しぶり。
学校を出てから、こんな風に楽しく遊んだことってなかったかもしれない。
楽しいな。
本当に楽しいな。
でも、彼は足が速いな。追いつけるかな。
ああ、そうだ。追いつく方法ならあるじゃないか。
頭を狙って、引き金を引く。
それだけでいい。簡単だ。簡単なのに……当たらないな。
困ったな。この銃は扱いづらいな。
どう見ても両手で扱う銃だし、しょうがないかな。
僕のEマグはどこにいったんだろう。
早く銃弾を当てて殺さないと。
このままじゃ逃げられちゃうよ。
困ったな。
本当に困ったな――
覚は、前方が明るさを増してきていることに気が付いた。
(! ありゃあ、森の出口か!? まずいな……)
森の中だからこそ、ここまで逃げてこれたのだ。
射線を遮る障害物が無くなれば、結果はおのずと知れる。
前方の視界が開けてきた。
潮の匂いのする強い風が覚の身体を叩く。
森の先は崖になっていた。その向こう、遠くに水平線が見える。
どうやら海に出たらしい。
即座に飛び込むことに決定。
だが、崖下すぐは岩場になっているのが相場だ。
できるだけ飛距離を稼ぐために、さらに加速する。が――
その時、覚の視界の隅に新たな人物が写った。
デイパックを背負ったまま崖に腰掛けて海を見ている、まだ幼い少女。
このまま飛び込めば自分は逃げ切れるだろう。
だが少女はここに残る。
そして、すぐ背後には殺人鬼。
考えるまでもなく、身体が動いた。
「ったく、しょうがねえなあ!!」
上体を振って強引に90度方向転換。
覚に気づいて、びっくりしたように振り返る少女に肉薄する。
「つかまれ、そこのロリイィィィィィッ!!!」
「きゃああああああああッ!!?」
悲鳴を上げる少女を掻っ攫い、そして――銃声が轟いた。
――咲いた。咲いた。紅い花。
きれいだな。ミラにも見せてあげたいな。
ああ、そういえばミラはどこに行ったのかな。
森の中かな。
きっと、鬼ごっこに夢中で置いて来ちゃったんだな。
ごめんね、すぐ戻るから。
彼は……、崖下に落ちちゃったのか。
死んじゃったかな?
それとも生きてるかな?
確かめたいけど、ごめんね。僕はもう戻らなきゃいけないんだ。
本当にごめんね――
片手に銃をぶら下げたまま、アーヴィング・ナイトウォーカーは森の中へと戻っていった。
「ちょっと、しっかりしなさいよ!」
海面に近い岩棚で、アリュセは覚の身体を揺さぶっていた。
左腕から血が流れている。
銃撃(アリュセは銃を知らないため、何かの攻撃としか分からなかったが)を受けた時に、
この男が自分を庇って撃たれたことは分かった。
崖から転落した二人は、アリュセの魔法でここに不時着したのだ。
アリュセ自身は飛行術を使ったつもりだったが、いかなる力が働いたものか、
せいぜい落下速度を殺すことしかできなかった。
「…つっ…大丈夫だってロリータ……かすっただけだ、傷口きつく縛っときゃ何とかなる。
それが終わったら、とりあえず……」
「とりあえず?」
「……うまか棒でも、食うか」
それだけ言って、覚は気絶した。
【残り117名】
【覚とアリュセ】
【H-3/海岸沿いの崖下/1日目・00:40】
【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり/気絶
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット
[思考]:現在気絶中
【アリュセ】
[状態]:万全
[装備]:不明
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:覚を介抱する
(アリュセの支給武器は他の書き手に任せます)
【H-3/海岸近くの森の中/1日目・00:40】
【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:ミラを探さなきゃ(ミラはエントリーされていませんが、探す気でいます)