作:◆a6GSuxAXWA
どれだけ歩いたのだろう。
どこをどう歩いたのかも、もう覚えていない。
この島が危険な場所で、誰かに殺される危険はあると承知していて――そして、そうなっても良いと半ばまで考えていた。
「……くそッ!」
吐き捨てる。
考えれば考えるほど苛立ちが募る。
まるでマグマのようにどろどろとした暗い灼熱感が胸に渦巻き、こびりついて離れようとしない。
――狂犬――――――十円玉――こ、ろ、し、て――――魔法使い――――――堕落――3B――――反撃するぞ――
――――白鮫――――――ドア――――落下――――イヴの決闘――鏡――――大蛇――――――黒い炎――煙草――
――王国――――女王――――鮮烈なブルー――黒犬――――蔦の繁茂する――――――僕の悪魔の違う一面――――
――DD――――――ツーパターン――――超ド派手なデビル・バトル――――影――甲斐氷太は、物部景に決闘を――
手近にあった木の幹を、思い切り殴りつけた。
痺れるような痛み。
それも、一瞬だけだった。
「くそ、くそ、くそッ!」
胸の灼熱感が、徐々に脳髄を侵していく。
苛立ちばかりが募り、解消の手段は見つかりそうもない。
怒りのままに黒鮫を召喚し、周囲の木々を薙ぎ倒し、噛み砕く。
黒鮫が、ひときわ大きな木に激突する。
たわむ大樹。黒鮫が身を捩る。
脳を直接殴りつけられたかのようなダメージのフィードバック。
ふらつくままに、無造作にバッグから掴み出したカプセルを咀嚼する。
噛み砕き、啜り、嚥下。
「……っく」
浮遊感。
無駄な思考を押し流す、圧倒的な快楽の奔流。
日常の汚泥を残して意識が宙に浮く。
精神と肉体の一体感。
己の血管の一本一本を巡る血潮の流れすら自覚できそうな開放感。
爽快?
爽快なのか?
これが? これが? この程度が?
「――ふざけんなッ!!」
折り損ねた大樹を、いともたやすく黒鮫が叩き折った。
次いで召喚された白鮫が、その幹を粉々に噛み砕く。
「っくしょ……どうしろってんだよッ!?」
叩きつけられる木片すら無視し、甲斐氷太は絶叫する。
ぱらぱらと木片が地面に落ち、鮫たちが姿を消し――そうして、
「もう、いい。もう知った事か」
カプセルの効果でハイになった意識が。
自暴自棄になった理性が。
そして戦いを求める巨大な空虚が、最悪の決断を下す。
「遊びでも何でも良い――くたばるまで戦ってりゃ、無駄な事も考えずに済むか」
カプセルも量さえ摂れば、燃費が悪かろうが悪魔との同調が鈍かろうが、ある程度は補える。
浮かべた笑みは獰猛で、酷薄で、怜悧で――そしてひどく、空虚だった。
【B-6/森の中/一日目/12:59】
【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。カプセルの効果でややハイ。自暴自棄。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:とりあえずカプセルが尽きるか堕落(クラッシュ)するまで、目についた参加者と戦い続ける
※『物語』を聞いています。 ※悪魔の制限に気づきました。
※現在の判断はトリップにより思考力が鈍磨した状態でのものです。
※森の木が十数本ほど折り砕かれています。
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