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第385話:狂犬はその狂気を増し

作:◆a6GSuxAXWA

 どれだけ歩いたのだろう。
 どこをどう歩いたのかも、もう覚えていない。
 この島が危険な場所で、誰かに殺される危険はあると承知していて――そして、そうなっても良いと半ばまで考えていた。
「……くそッ!」
 吐き捨てる。
 考えれば考えるほど苛立ちが募る。
 まるでマグマのようにどろどろとした暗い灼熱感が胸に渦巻き、こびりついて離れようとしない。
 ――狂犬――――――十円玉――こ、ろ、し、て――――魔法使い――――――堕落――3B――――反撃するぞ――
――――白鮫――――――ドア――――落下――――イヴの決闘――鏡――――大蛇――――――黒い炎――煙草――
――王国――――女王――――鮮烈なブルー――黒犬――――蔦の繁茂する――――――僕の悪魔の違う一面――――
――DD――――――ツーパターン――――超ド派手なデビル・バトル――――影――甲斐氷太は、物部景に決闘を――
 手近にあった木の幹を、思い切り殴りつけた。
 痺れるような痛み。
 それも、一瞬だけだった。
「くそ、くそ、くそッ!」
 胸の灼熱感が、徐々に脳髄を侵していく。
 苛立ちばかりが募り、解消の手段は見つかりそうもない。
 怒りのままに黒鮫を召喚し、周囲の木々を薙ぎ倒し、噛み砕く。
 黒鮫が、ひときわ大きな木に激突する。
 たわむ大樹。黒鮫が身を捩る。
 脳を直接殴りつけられたかのようなダメージのフィードバック。
 ふらつくままに、無造作にバッグから掴み出したカプセルを咀嚼する。
 噛み砕き、啜り、嚥下。

「……っく」
 浮遊感。
 無駄な思考を押し流す、圧倒的な快楽の奔流。
 日常の汚泥を残して意識が宙に浮く。
 精神と肉体の一体感。
 己の血管の一本一本を巡る血潮の流れすら自覚できそうな開放感。
 爽快?
 爽快なのか?
 これが? これが? この程度が?


「――ふざけんなッ!!」


 折り損ねた大樹を、いともたやすく黒鮫が叩き折った。
 次いで召喚された白鮫が、その幹を粉々に噛み砕く。
「っくしょ……どうしろってんだよッ!?」
 叩きつけられる木片すら無視し、甲斐氷太は絶叫する。
 ぱらぱらと木片が地面に落ち、鮫たちが姿を消し――そうして、
「もう、いい。もう知った事か」
 カプセルの効果でハイになった意識が。
 自暴自棄になった理性が。
 そして戦いを求める巨大な空虚が、最悪の決断を下す。
「遊びでも何でも良い――くたばるまで戦ってりゃ、無駄な事も考えずに済むか」
 カプセルも量さえ摂れば、燃費が悪かろうが悪魔との同調が鈍かろうが、ある程度は補える。
 浮かべた笑みは獰猛で、酷薄で、怜悧で――そしてひどく、空虚だった。


【B-6/森の中/一日目/12:59】

【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。カプセルの効果でややハイ。自暴自棄。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:とりあえずカプセルが尽きるか堕落(クラッシュ)するまで、目についた参加者と戦い続ける
    ※『物語』を聞いています。 ※悪魔の制限に気づきました。
    ※現在の判断はトリップにより思考力が鈍磨した状態でのものです。
    ※森の木が十数本ほど折り砕かれています。

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