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第295話:哲学の小径

作:◆MXjjRBLcoQ

 保胤は暗闇の中を歩いていた。月も星もない、夜ではありえない闇の中、傍らにはあの化け百足、足元に数多の蟲たち。
 彼らはただ親しげにキチキチと笑う。
 敵意はない。なんとなしにだが、保胤にはそれが分かった。
 彼らは皆、蠱毒の成れ果てなのだ。
 食われたもの。倒れたもの。生き残り、そして退治されたもの。死は必然とはいえ、怨に飲まれた彼らの死は、いずれにせよ安らか
なものではありえない。
 そして今、自分は彼らと同じ道の上にいる。
 吸精術は使えない。山一つを飲み干し、確実に相手を屠る術は、しかしその先に、やはり確実な自滅が待っている。
 まったくもって不便な力だと保胤は思う。諍いを止めることも身を守ることもできない。
 しかも、セルティの話では、自分は千年も過去の人間らしい。
 名簿を見ても、見慣れぬ名のほうが多く、昨日見た夜空の星も、自分の知っているものとは少しばかり異なる。
 知らない技術、知らない武器、知らない道具。おそらく一人では、自らの置かれた状況すら満足に理解できないだろう。
 だから彼らは笑うのだ。
 自分が彼らと同じ立場に立ち、強力な切り札を失い、しかもこの殺し合いの場で人に頼らなければならないことを、親しみと侮蔑を
もって笑っているのだ。
 保胤は暗闇を歩く。道に凹凸はなく歩きやすい。考え事をするにはいい場所だ。
 まず、どうすればこの殺し合いをとめることが出来るのか。
 いったん蟲毒の壷に入れられて密閉されてしまえば、後は利用されるだけである。最後の一人になることに意味は無い。
 やはり、これを皆に伝えていくのが最善だろう。幸い電話もある、彼女たちにも手伝ってもらい呼びかけていこう。肝心なのは諍い
に疑問を持たせることだ。躊躇いは戦場でこれ以上ない足かせとなり、その分だけ積極的な争いは減る。話し合いの機会も増える。
 ただ話し合いに持っていくには、こちらもそれなりの戦力が必要だろう。
 身を守るには、やはりある程度強い力のある符が必要になる。さしあったって欲しいものは墨とつづりに筆、そして霊力のある木と
水。後者の2つは少し入手が困難だろうが、最終的には主催者たちと話し合い、場合によっては争う必要がある。早いうちに用意して
おきたい。
 と、そこまで考えて保胤は足を止めた。
 主催者たちは時間も超えることが出来る。千年後でもそのようなことは不可能だそうだ。そのような存在が、果たして何を目的にし
て蠱毒を扱っているのだろう。蠱毒で得られる効果はいくつかあるが、そこまで高度な術というわけでもない。保胤は時間を越えるた
めに書を志した。その時間を越えた者達は、はるかに格上のはずだ。しかし保胤ですら、蠱毒で得られる程度の効果なら、もっとうま
いやり方がいくらでもあるのも事実である。

――やはり自分の推論が間違っているのだろうか。

 保胤はまた歩き始めた。無論、考えるためである。
 否、この儀式のようなものが蟲毒でなくとも関係ない。利用するために一人を選び出すことにはちがいない。
 殺して、生き残って、それでも得られるものは何も無いのだ。皆にそれを理解してもらわなければならない。
 それだけでこの戦いがどうにかなるわけでもないだろうが、漫然と待っているだけでは、時を逃してしまう。
 一人の女性の姿が、白檀の香りとともに脳裏に浮かんだ。
 行動の上で機を待つ。さしあったっては話し合いの素地を作ることだ。これだけの多種多様な参加者が集っているのだ。協力する時
が来れば、おのずと道は開けるだろう。
 道に終わりは見えない。かしゃかしゃという足音を聞きながら、保胤は暗闇を歩いていく。

【A−1/島津由乃の墓の前/1日目・09:45】
『紙の利用は計画的に』
【慶滋保胤(070)】
 [状態]:不死化(不完全ver)、昏睡状態(特に危険な状態ではない) 夢のようなものを見ている
 [装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
 [道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
 [思考]:最後の一人になる無意味さを皆に伝える/静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている


【セルティ(036)】
 [状態]:正常
 [装備]:黒いライダースーツ
 [道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
 [思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/保胤が起きるまでこの場に待機
[チーム備考]:『目指せ建国チーム』の依頼でゼルガディス、アメリア、坂井悠二を捜索。
       定期的にリナ達と連絡を取る。

2005/06/02 修正スレ118

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