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第113話:三人目のカードの持ち手

作:◆a6GSuxAXWA

 ヴァーミリオン・CD・へイズは、荷を整理して北東、G−6の森へと歩き出していた。
 時計はI−ブレインの脳内時計を合わせ、先程のH−5の岩場に放棄。
 とりあえず手ごろな石を一つ近くの岩にぶつけて、尖った破片を手に。……素手よりはマシだ。
 名簿と地図も捨てた。
 いくら自分に埋め込まれた生体コンピュータ――I−ブレインが欠陥製品だからと言って、画像の一枚や二枚を記憶できないほど記憶領域も狭くない。
 次いで義眼を抉り出して、髪に仕込んだ演算素子を接続。
 硬化した義眼を分解して中を調べなおすが、残っていたもので使えそうなのは有機コード程度だ。
「…………」
 先程の女はともかく、いつ「やる気」になった参加者が襲ってくるとも限らない。
 そう考えて無言を貫いた事が、ヘイズの命を救ったのだろうか。
 ――あの二人の騎士の紋章の浮かんだ箇所は……
 奇形的に情報処理に特化したI−ブレインを駆使して身体情報を徹底的に洗い、代謝系の情報に紛れて違和感のある部位を走査。
 殆どの違和感は、原因不明の能力低下に根ざすものだ。
 それでも根気良く検索を続けると、やっとそれを見つける事ができた。
 呪いの紋章と呼ばれたそれは、己の知る世界の紋章――論理回路とは若干構造を異にするものだった。
 異なる系統の構造や、未知の力の働いている部分も多い。
 ――だが、どうにもならねえほどじゃねえな。
 慎重に侵入防止用の防壁を潜り抜け、己の情報を偽って侵入を試みた。
 原因不明のI−ブレインの機能低下による演算効率の悪さと、予想以上に手強いガードに、何度も辟易する。

 と、比較的浅い層までの侵入ながら、一つ重要な事実が判明した。
 紋章には盗聴機能があり、音声は開催者側に筒抜けである事。
 ――アブね……
 独り言でも漏らしていたら、魂を消し飛ばされる所だった。
 だが、これで自分にもカードが一つ手に入った。
 更に断片的な情報から推理を幾つか組み合わせれば、他の機能も何とか把握できる。
「……さて、『破砕の領域』は直径20cmが良いところ、か?」
 周囲に響かない、主催者側にも不自然に思われない程度の声で、呟く。
 情報の海に干渉し、物体を破壊する情報解体。
 ヘイズは音を出すことで空気分子を振動させ、情報解体用の論理回路を構築できる。
 効果範囲内にある物体は、防壁の張られたもの以外、大概の無機物、有機物を破壊できるが……
「人間相手にゃ、ちょいとキツいか……『虚無の領域』は無理だな」
 やはり威力が落ちている。情報的に強固な人間相手では、大した威力も無いだろう。
 普通に殴りつけたほうがよほど痛い。
 I−ブレインの一時的な機能停止を代償に、あらゆる存在を消滅させる『虚無の領域』などは到底無理だ。
「とにかく、必要なら相手の武器吹っ飛ばして……装備無しでも強けりゃ、逃げるか」
 スポーツ科学が発達し、オリンピックすら形骸化した更に後の住人だ――肉体は、常人よりも鍛えられている。
 銃器の扱いも心得てはいるし、I−ブレインによる動作予測もある。
 が、一度でも負傷してしまえば動きに支障が出る。やる気になっている連中にとっては良いカモだ。
 ――だが、カードが一つ手に入った。
 呪いの紋章の情報。
 主催者打倒を目指す参加者――あの悪魔使いも、どうせこのクチだろう――に対して筆談か、有機コード伝いに相手の頭に直接送るか何かで提示すれば……


 眼前に、森が迫ってきた。
 ヘイズはそのまま森に紛れつつ、紋章の解析を続ける。
 ――トイレの消臭剤引いて、不運は使い果たしたと思いたいもんだが……


 【G−6/森の中/一日目2:24】
 
  【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:健康
[装備]:尖った石
[道具]:デイバッグ(支給品一式)、有機コード
[思考]:1.休息入れつつ呪いの紋章の解析 2.主催者打倒を目指す人間との接触
[備考]:紋章の盗聴その他の機能に気付いた。

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