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アンパンマン経済学

戦士タルカスでござる。拙者は今、頭大学の軽罪愕部に所属しておる。卒論の提出が
間近に迫っておるのじゃが、論文の要旨だけをここに発表しておこうかと思う。

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アンパンマンの世界における経済構造の考察及びジャムおじさんの正体について


アンパンマン――児童向けに描かれた独特の世界観で、根強い人気をほこるアニメで
ある。しかし、その世界にはどうしても納得のいかない多くの疑問が存在する。今回
はアンパンマンの世界における経済について考察してみよう。

普通、一国のGDP(国内総生産)は、三面等価の法則より、

Y=C+I+G+X−M

で表される(ただしY:GDP、C:消費、I:投資、G:政府支出、X:輸出、M:
輸入)。アンパンマンの世界には政府が存在せず、また貿易も行われていないようで
あるから、G、X、Mに関しては無視する。すると、

Y=C+I

という、至極簡潔な式が導かれる。アンパンマンの世界では、GDPは消費と投資の
みで決まると考えてよさそうだ。以下では、外国と接触のない「閉鎖経済」と仮定し
て考える。

まず、消費について考察してみよう。アンパンマンの作品中では、住民が物資を購入
する場面を確認することができない。それどころか、貨幣が流通している様子すらう
かがうことができない。ジャムおじさんは無償で学校などにパンを支給しているし、
アンパンマンは飢えた子供たちに惜しげもなく自分の顔を提供する。「てんどんマン」
や「かまめしどん」は、ばいきんまんに己の脳髄に相当する「天丼」「釜飯」を食べ
られてしまったとき、ジャムおじさんに天丼と釜飯を作ってもらっていた。ジャムお
じさんはパン職人のみならず、和食の修行も積んでいたのだ。道場六三郎もびっくり
だ。どうやらアンパンマンワールドの住人たちは、食糧をパン工場に頼りきっている
らしい。

普通、食料問題に関してイニシアティヴを持っている人間は、その世界を支配できる
ほどの権力を手に入れることができる。もしジャムおじさんがパンの供給量を減らせ
ば、住民たちは生命の危機にさらされることになるからである。そんなことになって
は一大事だ。カバオくんたちは、ジャムおじさんに「黄金もなか」を贈り、心底服従
しておかなければならない。

次に、投資について考察してみよう。投資には普通、「民間設備投資」「民間住宅投
資」「民間在庫投資」の3つがある。しかし、そもそも貨幣が流通していないこの世
界において、投資やらGDPについて言及するには無理がある。これではアダムスミ
スもお手上げだ。

「民間設備投資」は、例えばパン工場や、ジャムおじさん所有の兵器類、カバオくん
が通う学校の設備などがあげられる。「民間住宅投資」は、住民たちの住居増築を指
す。「民間在庫投資」に関しては、どうもアンパンマンワールドに余剰物資が存在し
ないことを考えると、無視した方がよさそうだ。

さて、ここまでアンパンマンワールドの経済を見てきたが、貨幣が流通していない点
からして、近代経済学の範疇で議論するのは不可能のようである。かといってマルク
スの言う「理想の共産主義国家」が成立していると考えるのは愚の骨頂だ。むしろス
ターリンの独裁国家に近い(後述)。

では、アンパンマンの世界では人々はどういう経済活動をしているのか? 以下に私
自身の仮説を述べる。これより、アンパンマンワールドは諸外国の経済に影響を受け
る「小国」と考える(マンデル・フレミングモデルを参照せよ)。

まず、食糧問題であるが、住民は自給自足をしている様子はないし、どこかで購入し
ている様子もない。唯一考えられるのは、ジャムおじさんの作るパンのみである。ア
ニメでは無償で支給しているように見えるが、ではパン作りにかかるコストはどうやっ
てまかなうのか。小麦粉も牛乳も、タダではない。おそらく、パンの原料は、存在す
るかどうか知らないが「こむぎこマン」や「わいるどターキー」といった一般住民か
ら提供されているのだろう。そしてそれら提供してくれた一般住民は、褒美として他
の一般住民より食料(パン)を多めに受け取っていると考えられる。では、パンの原
材料を提供することができない一般住民は、食糧確保のためにどうすればいいか。

ここで触れたいのが、パン工場に常備してあるジャムおじさんの兵器類である。アン
パンマンの顔をモチ−フにした「アンパンマン号」が特に有名であり、アンパンマン
そのものも生物兵器と分類されるであろうが、これらの兵器類をジャムおじさんはど
うやって入手したのであろうか?
 
まず考えられるのは、「外注」である。アンパンマンはジャムおじさんの手作りと考
えられるが、一介のパン職人が「アンパンマン号」のような陸・海・空兼用のスーパー
戦車を製造できるかどうかは不明だ。これには諸説あり、ジャムおじさんが自作して
いるという説、近代兵器を製造することに特化した一般住民(これも存在は確認され
ていないが、例えば「死の商人マン」とか「かいじゅう戦車ちゃん」など)に発注し
ているのではないかという説がある。

パンの原料を供出できない一般住民は、己の特化した技術を活かし、ジャムおじさん
に兵器を提供してその見返りに食料を配給してもらっているのではないか、というの
が私の仮説である。兵器の製造もできない住民は、ジャムおじさんに「労働」を提供
しているのであろう。兵器製造に必要な材料を輸送したり、パン工場の地下室増築を
手伝ったりして、その報酬としてパンを得ているのではないだろうか。民間設備投資
と民間住宅投資も一般住民の労働によってまかなわれていたのだ。

ここで、「ジャムおじさん・死の商人説」についても説明しておこう。かなり昔か
ら、 ジャムおじさんは諸外国に武器を売買している「死の商人」であるという説が唱
えら れていた。これについての私自身の仮説を述べよう。

ジャムおじさんは、アンパンマンワールドのほとんどの食糧供給を担っており、加え
てアンパンマンをして町内を巡察せしめ、街の警察権まで掌中にしている。これほど
まで絶大な権力を担いながら、悪の道に手を染めていないとは考えにくい。

まずジャムおじさんは、一般市民の労働によって「アンパンマン号」を初めとする大
量の軍事兵器を手にする。もちろん建前は「住民の安全確保のため」だ。そして、余
剰した兵器を諸外国に売る。こうして外貨を稼いだジャムおじさんは、平和時に外国
の精度の高い兵器を購入し、近隣諸国で戦争が勃発した時に高く売りつける。これを
くり返すだけで相当の富を得ることができる。ゲーム界屈指の武器商人、クジャ(F
F9)もびっくりだ。

兵器を高く売るためには、近隣諸国が戦争状態になければならない。実はジャムおじ
さんは、自らが先頭に立って近隣諸国に戦争の火種をバラまいているのである。「ア
ンパンマン号」とアンパンマンの力をもってすればそう困難なことではない。ジャム
おじさんは現代世界史にも精通しているようだ。おそらく朝鮮戦争やベトナム戦争あ
たりを手本にしたのだろう。

近年になって、実は「ばいきんまん」でさえ、住民におとなしく労働を供出させるた
めの、ジャムおじさんの「操り人形」であるという説も浮上している。ジャムおじさ
んは、密かにばいきんまんと取引をしており、金と食料を提供する代わりにアンパン
マンと住民の眼前で闘うように契約しているという。ジャムおじさんに雇われたばい
きんまんをアンパンマンがやっつける。住民は一層ジャムおじさんに治安を任せよう
と考える。そして惜しみなく労働を提供する。民から「雑徭」税を搾取しようとする
ジャムおじさんの卑劣な策である。

以上に見たように、アンパンマンワールドの経済は、ジャムおじさんを中心にして構
築されていたのである。恐るべしジャムおじさん、闇取引に手を染めながらも、パン
職人&和食の達人であるとは‥‥。まさに現代のスターリン独裁国家‥‥。「民主主
義によって民主主義を否定した男」、A・ヒトラーも驚愕の念を持ってジャムおじさ
んを見ていることであろう。ヤクザとカタギの二つの顔を持つ男。おそらくサガ亡き
後の双子座の黄金聖衣はジャムおじさんの手に渡るだろう。サガですら成し遂げられ
なかったサンクチュアリ征服も、ジャムおじさんなら可能かも知れない。あとは本当
にスターリンの如く、側近を「粛清」しないことを願うばかりである。
【戦士タルカス】

参考文献:
「アンパンマンの秘密」民明書房、1998
「入門・ミクロ経済学」クレイジーダイヤモンド社、1996