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涼宮ハルヒの分裂・予想(というか妄想)


話は月曜日に遡る。

「あんた今度の日曜暇よね!」
「映画に付き合いなさい」
放課後、ネクタイを引っ張られ、部室に行くと思いきや、屋上に連れてかれた。懐かしいなぁとか思ってたら、
「知り合いにタダ券2枚貰ったのよ」
「みくるちゃんを誘えば横でワンワン泣きそうだし、古泉くんは途中で話の内容を全部把握して観てそうじゃない?
古泉くんには悪いけど、自分が納得してないものを横でナルホド顔で観られるのはちょっと嫌なのよね」
わからんでもないが想像で煙たがられる古泉にはさすがに同情するな。
「煙たがってなんかないわよ。ただこの映画を観るのに向いてないだけ。あ、有希は言わずもがなね」
まあ言われんでもわかるが、意外とあいつは興味津々に観ると思うぞ。
「で、あんたに白羽の矢をブッ刺したわけ。感謝しなさい!」
「いい、今度の日曜、朝9時半に○×駅前に集合! 遅れたら、死刑だから!」
そう言ってチケットを一枚たたき付け、階段を飛ばし降りしていく。相変わらず話を聞かず一方的なヤツだ。
「あ、一応他のみんなには内緒だからね!!」
まあいいさ。この学校に入ってからお前が関わらない休日は殆ど暇なのは事実だしな。

そんなワケで今日、いつもの様にちゃんと5分前には到着だ。
まあ5分前といえど自分より遅れてくる者にはいつもの様に仁王立ちで第一声に、

「キョンくんv」
そうそう、「キョンくん」って・・・・・・・・・え?
めちゃくちゃ可愛い女の子がハルヒの姿をしてそこにいた。


りーん、ごーんがーん♪

答えーはいつもわーたしーの胸にー♪


「お、遅れて来たの怒ってるのか?」
「え? まだ5分前だよ。怒ってるわけないじゃん」
「・・・・・・何かあったか?」
「何かって・・・服? 変?」
上に下にハルヒを見てたせいでなんか勘違いをしてる。
「いや、めちゃ似合ってるけど――」
思わずハルヒ相手にこんな一言が出ちまった。
「ありがと・・・・・・」
ハルヒが顔を真っ赤にして素直にお礼を言ってやがる。

デジャヴー。

クリスマス直前に起こった嫌な出来事を思い出しちまった。あん時は長門だったけどさ。
またパラレルな世界に来ちまったんじゃないだろうな?
「キョンくん?」
一時停止から再生状態に、そんな感じだった。
「行こう?」
「あ、ああ」
従ってしまった。今のこいつは朝比奈さんやいつぞやかの長門を彷彿させる感じだ。
困らせる様な事はしたくないと思っちまった。

歩きながらでも誰かに電話しよう、そう思って携帯に触れた瞬間、携帯が鳴り出した。
疑いもせずSOS団の誰かからだろうと思ったさ。
自分の冷めた体温が上昇するのを感じながら発信元を見ると予想通りSOS団団員の名前が表示されていた。
が、俺は少しも予想通りだなんて思わなかった。

『・・・キョン? こんな時間にゴメン・・・』
やけに熱く息苦しい声が耳元に掛かった。だが紛れも無く俺のよく知る声だった。

「・・・・・・ハルヒか?」
『そうよ・・・ 悪いけど今日の予定は中止よ。昨日から熱出ちゃって・・・』
「・・・・・・今俺が何処にいるのかわかってるのか?」
『うっさいわねぇ・・・ だから最初に謝ったじゃない。この埋め合わせはちゃんとするわ・・・ ホント悪かったわね・・・』
珍しく素直なやつだ。しかし間違いなく俺の知ってるハルヒだ。
「・・・まあ熱なら仕方ないさ。お大事にな」
『うん・・・ ゴメン』
プツンと切れた。

簡単な事さ。ここにもハルヒ、電話の向こうにもハルヒがいる。
はい、またデジャヴー。
節分の日以降の朝比奈さんを思い出した。・・・まさかモスグリーンの車は来ないよな?

すぐに助けを求めた。
一番頼もしい寡黙な宇宙人・長門有希に。
が、話し中だった。またプチデジャヴ。あの時期も珍しく通話中だったな。
長門が話しそうなヤツ、消去法で考えれば話し相手は――
ニヒルな笑顔の超能力者・古泉も通話中だった。
やっぱり異変は起きてるんだな。
ならば最後の望みを託し、最もキュートで最も頼りない未来人・朝比奈さんに――
「キョンくん、早く行こ」
ハルヒに手を引っ張られた。
しかしいつもなら「何すんだ!?」とか「やれやれ」なんて感想しか出てこないのに、不思議と嫌な気分ではなかった。
急ぎ足は赤信号で止まり、ふと仲良く手を繋いでる姿に気付いたハルヒはハッと手を離し、
「ご、ごめん・・・キョンくん」
と、顔を真っ赤にした。駄目だ、耐えられん。
「ハルヒ、取り敢えずその「キョンくん」ってやめてくれないか。せめていつも通り呼んでくれ」
「そ、そうだよね、ごめん」
こんなに謝るハルヒも貴重だ。

「キョ・・・キョンv」
・・・心なしか語尾にハートマーク付いてなかったか? 俺もそうとう頭がおかしくなっちまったかな。

映画館を目の前に救いの手が来た。古泉からの電話だ。
『単刀直入に言いますが涼宮さんと一緒ですね? 何か変わった様子はありませんか?』
「・・・ハルヒが二人いる気がするんだが、俺はまた変な世界にいるのか?」
『なるほど・・・ いえ、多分大丈夫だと思いますよ。超能力者も宇宙人も、おそらく未来人も健在です。・・・そういう事ですか』
良かった。あんまり聞かない「良かった」だが。
『二人の涼宮さんは一緒にいるんですか?』
「一人は熱出して家で寝込んでるよ。もし二択なら多分本物はそっちだ」
『そうですか。これから合流しても大丈夫ですか? 先程長門さんとも話したんですが直接見てみない事には・・・』
『それでは・・・そうですね、2時間後位にそちらに行きます』
なんとなくわかっちゃいたが、古泉も、おそらく長門も今日の俺達の行動わかってたな。
2時間後、映画館の椅子に座って再び立つのに適度な時間だ。
「さっきから誰と話してたの?」
「谷口だ。あいつも相当暇だったらしく構ってほしいんだとよ」
「ふーん。あ、中に入ったら電源切っといてよね。映画の最中にバイブだろうが音鳴ってるの許せないのよね」
セリフだけ聞くといつものハルヒなんだけど、その表情はいつものしかめっツラではなく、朝比奈さんにも匹敵する笑顔だった。

映画の内容は大雑把にしか覚えてない。要所要所で表情を変えるハルヒの方が気になったからさ。
内容はちょっとミステリアスな感じの入った恋愛もの。
俺はいつものハルヒとこれを観る予定だったのか? 想像出来ん。

しかしさっきから思ってたんだが、元々性格以外がパーフェクトな女さ。それが性格も良くなったら、お約束と言われようが一度は思うね。
こっちの方が良いんじゃないか?
もしかして4年前のハルヒはこんな感じだったとか。



映画館を出ると、かなり不自然な偶然を装って古泉が現れた。
「よかったらみんなでお昼でも食べませんか」とか言って長門と朝比奈さんを呼んだ。
今呼んだ割には揃うのが早いなぁ、おい。
ハルヒ、心なしか落ち込んでないか?


ハルヒの相手は朝比奈さんに任せてほどほどな声で会議が始まる。
「今日の早朝くらいからでしょうか、違和感を感じたんです。
そしてあなたに電話する前、9時半くらいでしょうか、その違和感がふくれあがった。
おそらく家にいる方の涼宮さんが起きたからでしょうね。まさかとは思いましたが」
まさか別の時間からやってきたとか・・・
「違う」と長門。
「ここにいるのは紛れもなく涼宮ハルヒと同一の存在」
じゃあなんなんだよ。お前ならわかるんだろ?
「私の担当ではない」
と、長門は古泉を見る。
「僕が感じた限りでは、ここにいる涼宮さんからは閉鎖空間に近いものを感じます。
おそらく、神人の通常空間版と言ったところでしょうか?」

神人。ハルヒのストレスが溜まると灰色の空間を作って建物をぶっ壊しハルヒの変わりにストレスを発散する存在。
「そんなのがどうしてハルヒの姿で表にいるんだよ?」

「おそらく涼宮さんはどうしても今日あなたと・・・出掛けたかったんですよ。 だから『分裂』してまで来た、と」
・・・相変わらずメチャクチャというか。

「しかしそんなにあの映画観たかったのか?」
少し間があって古泉が肩をすくめた。なんだよ。

ところでどうして性格が違うんだ? 実はもっと女の子らしくなりたかったとか?
「ティンカ・ティンク・・・」
長門がポツリとつぶやく。
「なんか言ったか?」
「なんでも・・・」

「ちょっとトイレ行ってくるね」とハルヒが立つ。
「・・・で、どうするんだ? このまま放っておくのか?」
「組織側の人間としては神が二人になった事になります。僕たちとしてはさすがに困るので穏便に消えてもらえれば・・・」
すると朝比奈さんが声を上げて、
「えっ? えっ? け、消しちゃうんですかぁ?
あのぅ、こ・・・こっちの涼宮さんもいいかなぁなんて・・・
あ、いつもの涼宮さんが嫌なわけじゃないんですよ」
俺達がひそひそ喋ってる間にこっちのハルヒとずいぶん仲良くなってしまったようだ。
このお方は事の重大さがわかっているのだろうか。いや、俺も少しは思いましたけど。
長門はどうなんだ?
「観測対象が増えただけ。観測対象が増えれば私のような観測者も増える可能性がある」

朝倉の顔が浮かんだ。
「それは困るな。長門一人いれば俺は充分さ」
「・・・・・・」
長門がジッと見つめてくる。なんかまずい事言ったかな?
「神うんぬんは置いといても今回ばかりは古泉寄りだな。で、どうするんだよ。まさか赤い球ぶつけんのか?」
「いえ、あれは閉鎖空間限定の力です。
全く方法が無いわけではありませんが、仮に出来ても、さすがにあの姿に攻撃するのは躊躇してしまいます」
そりゃわかるが、それじゃどうすんだ?
「神人は主に涼宮さんのストレスによって生まれます。つまりストレスを解消させればいいわけです」
どうやって?
「涼宮さんのお見舞いに行ってきて下さい。それでダメならまた検討しましょう」
俺一人でか?
「その方がいいでしょう。元々あなたと行く予定だったんですから」
余計苛つかせなけりゃいいがな。
「・・・わかったよ」
「キョン?」

席を立つと同時にハルヒがトイレから帰って来た。
「ちょっと出掛けてくる」
「え・・・」
「・・・すぐ戻ってくるよ」

「さて、問題なのはこれからかもしれませんね。長門さん、こちらの涼宮さんが閉鎖空間を発生させる可能性は?」
「ゼロではない」

「・・・もっと別の時に聞きたいセリフですね」

古泉がやけに早く用意したタクシーで数分、そして今はハルヒの部屋の前。ノック。
「なに?」
「俺だ。入っていいか?」

「キ、キョン!?」

「こういう姿のお前を見れるのも貴重だな」
数分前までもっと貴重なハルヒと一緒だったんだが。
「何しにきたのよ。クレーム? まあ今のあんたには言う権利はあるけど今は聞く気になれないわ。後日にしてちょうだい」
クレームを言う程暇じゃねぇよ。見舞いに来る程度には暇になったがな。
「・・・悪かったわね」
「そんな落ち込むなよ」
「お、落ち込んでなんか無いわよ。あんたに貸しを作ったのが・・・」
なんかブツブツ言ってる。

「映画なんて何時でも観られるだろ?」
「・・・・・・」
「俺、来週も暇なんだ」
しばらく沈黙した後、ムクリと起き上がって、
「あたしお昼まだなの。貰って来て」
自分の家でも人を雑用扱いか。

昼飯を持ってハルヒの部屋に行く途中、古泉から電話がかかった。
『こちらの涼宮さんは消えたようです』



その後の話だ。

「いい、今度の土曜、朝9時半に○×駅前に集合! 遅れたら・・・死刑だから!」

そんなワケで再び(と言っても今度は土曜日だが)、いつもの様にちゃんと5分前には到着だ。
まあ5分前といえど自分より遅れてくる者にはいつもの様に仁王立ちで第一声に、

「遅い!」
「時間には間に合ってるだろ」
「いつも行ってるでしょ、団長より遅れることは許されないのよ。あたしなんか30分前から待ってるんだから!」
「ハリキリすぎだろ。俺にそんな早く来いって言うのかよ?」
「張り切ってなんか無いわよ! ・・・まあ、先週はあたしのせいで潰しちゃったから許してあげるわ」
・・・ベタな話のマンガやアニメなんかだと「やっぱり分裂ハルヒの方が良かった」とか思うんだろうな。
「何ブツブツ言ってんのよ、ホラ!」
ハルヒが力強く手を引っ張って来やがった。
「何すんだ!?」
「早く行くわよ! あたしは良い席で映画を楽しみたいのよ!」
お前が楽しめるような内容の映画じゃなかったけどな。
「やれやれ」
ちなみに2人ともタダ券は無い。




漫画だと平気なんですけど文章を掲載すると小っ恥ずかしくなるのは何ででしょう。
7・8割携帯で打ってたのでミス無いか心配です。

本物見て追記:
案の定ハズレてた。
しかし意外なところだけ当たっててビックリした。


早く戻りなさい!