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財産の管理

泉獺 H15.9/27
 ある人がカスピ海の油田開発の商談に出かける時、家来たちを呼んで、自分の財産を預けた。それぞれの力に応じて、一人には五千万円、一人には二千万円、もう一人には一千万円を預けて出かけていった。
 早速、五千万円預かった者は出て行き、それを元手に、主人の人脈をフル活用してマルチ商法を行ない、ほかに五千万円もうけた。
 二千万円預かった者は、それを元手に、ネットでIT株をデイトレーディングして、ほかに二千万円もうけた。
 一千万円預かった者は、出て行って主人の金を銀行に預けた。

 さて、かなり日がたってから、家来たちの主人が帰って来て、彼らと清算を始めた。
 まず、五千万円預かった者が進み出て、ほかの五千万円を差し出して言った。
「御主人様、五千万円をお預けになりましたが、御覧下さい。マルチ商法でほかに五千万円もうけました。」
 主人は言った。
「忠実な良い家来だ。よくやった。お前は少しのものにも忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。」
 次に、二千万円預かった者も進み出て言った。
「御主人様、二千万円をお預けになりましたが、御覧下さい。株取引でほかに二千万円もうけました。」
 主人は言った。
「忠実な良い家来だ。よくやった。お前は少しのものにも忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。」
 ところで、一千万円預かった者も進み出て言った。
「御主人様、あなたはリストラできない所をリストラし、これ以上合理化できない所を合理化される厳しい方だと知っておりましたので、恐ろしくなり、出かけて行って、あなたのお金を銀行に預けておきました。しかしこの超低金利の御時世なので、利息は手数料ほどにしかなりませんでした。御覧ください。これがあなたのお金です。」
 主人は答えた。
「怠け者の悪い家来だ。わたしがリストラできない所をリストラし、これ以上合理化できない所を合理化するのを知っていたのか。それなら、わたしの金を投資信託にまわしておくべきであった。そうしておけば、帰ってきたとき、もう少しマシな利息付きで返してもらえたのに。
 さあ、その金をこの男から取り上げて、一億円持っている者に与えよ。だれでも持っている人は更に与えられて勝ち組になるが、持っていない人は持っているものまで取り上げられて負け組となる。この役に立たない家来を外の暗闇に追い出せ。不景気で再就職もままならないから、そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。」
 こうして一千万円預かった家来は、無一物で追い出された。

 さて、かなり日がたってから、神がやって来て、彼らと清算を始めた。
 五千万円預かった家来はマルチ商法が破綻して、主人の財産と主人の友人関係・親戚関係を全部失い、マルチ商法の被害者たちから訴えられて、主人ともども逮捕された。
 二千万円預かった家来はITバブルが崩壊して、主人の財産と自分の財産を全部失い、その上借金まで背負い込んで、ついには破産した。
 追い出された家来はそれから、ハローワークに通い詰めて再就職し、地味にコツコツと暮らした。
 だれでも不正な手段や大地に根を下ろさないなりわいをする者は、たとえ成功してソロモンのような栄華を誇っても、いずれはうたかたの夢と消え去って、本当の負け組になる。地味にコツコツと働く者こそが、いずれは報われて、本当の勝ち組になるのだ。
(おわり)

元ネタ:『新約聖書』「マタイ福音書」25.14-30 タラントンの教え
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