ある時、浦島太郎が浜辺を歩いていると、近所の子供たちが一匹の大きな亀を取り囲んでボコボコに集団リンチを加えていた。 浦島太郎は、 「こらこら、亀さんをいじめちゃいけない。」 と言って子供たちを追い払い、亀を海へ逃がしてやろうとした。 すると亀はこう言った。 「おお、あなたこそ千年に一度現われて世界を平和に導く伝説の勇者です。どうか私と共に海の世界へ行って、封印が解けて暴れだした邪悪な竜を倒して下さい。」 そんなことを言われても、浦島太郎は自分が伝説の勇者だとは到底思えなかった。 「いや、俺はただの漁師で、勇者ではないから、そんなことはできない。」 「そこの丘の上にほこらがあって、その中の台座に剣が刺さっているでしょう?」 浦島太郎は言った。 「ああ、どんな力持ちでも、凄腕の剣士でも、高貴な王侯貴族でも抜けなかったそうな。」 亀は言った。 「伝説の勇者であるあなたなら抜けるはずです。行って、抜いてみて下さい。」 そこで浦島太郎は丘の上のほこらに行き、台座の剣を抜こうと手にかけた。すると、剣が光って当たりは光に包まれた。気が付くと、浦島太郎は剣を台座から引き抜いていた。 浦島太郎はその剣を持って亀のところへ行くと、亀は言った。 「おお、それこそ伝説の勇者の証。さあ、私の背に乗って下さい。私と共に海の世界へ行きましょう。」 こうして浦島太郎は亀の背に乗って海の世界へ旅立った。 「残念ながら、今のあなたでは邪悪な竜を倒すことはできないでしょう。そこで、塩堆神の助言を求めてください。ただし、塩堆神はそう簡単には教えてくれないので、海辺の岩穴で待ち伏せして捕らえることです。この時、塩堆神は色々な姿に変身しますが、決して離さないことです。そのうち根負けしてあなたに知恵を授けてくれるでしょう。」 そこで浦島太郎は、海辺の岩穴に身を隠して塩堆神が来るのを待った。 やがて潮が満ちると塩堆神が体を休めにやってきた。浦島太郎はすかさず塩堆神に飛び掛ってしっかりつかんだ。 塩堆神は怒って様々な姿に変身した。ウミヘビ、ウツボ、トビウオ、リュウグウノツカイ、アザラシ、オットセイ、イルカ、…。しかし浦島太郎は決して離さなかった。 とうとう塩堆神は根負けして元の姿に戻り、言った。 「なんだ若者、一体このワシに何を訊きたいのだ。」 浦島太郎は言った。 「海の世界の邪悪な竜を倒す方法を教えて下さい。」 塩堆神は言った。 「それならば、ここにあるソロモンの指環を持っていきなさい。この指環は戦乱で海に流されてきたのを魚が拾ってワシに届けてきたものなのだ。この指環をはめると、鳥はおろか魚の声をも聞き分けることができるようになる。道すがら、魚の声に耳を傾けるがよい。そうすれば龍を倒すことができる。」 こうして浦島太郎はソロモンの指輪を身につけて、竜のいる城へ向かった。 魚たちは言った。 「竜の城は竜宮城」 「竜宮城は邪悪な竜の棲むところ」 「邪悪な竜には家来が大勢いて」 「正門から入ろうとすると途端に袋叩きに遭う」 「だから裏口からコッソリ入れ」 そこで浦島太郎は竜宮城の裏口に回ってそこからコッソリ入った。 そして今度は竜宮城にいる魚たちの声に耳を傾けた。 「竜宮城の主は邪悪な竜」 「邪悪な竜は長らく地底深く封印されていたけれど」 「時間が経って封印が解けた」 「封印が解けたら大暴れして」 「国を2つ3つ滅ぼした」 「そんな邪悪な竜が帰ってきてお腹をすかせている」 「そこで今晩の食事はフグ鍋だ」 「たとえ邪悪な竜といえどフグの毒に当たればただでは済むまい」 「お出しする食事の中にフグの毒を入れてはなるまい」 そこで浦島太郎は台所にコッソリ侵入し、邪悪な竜に出される巨大な鍋の中に、毒の詰まったフグのキモをコッソリ入れておいた。 そして更に魚たちの声に耳を傾けた。 「竜宮城の宝物庫にはすごいものがある」 「邪悪な竜を倒す竜王の宝珠がある」 「それをもって戦いを挑んだら」 「きっと勝てることだろう」 そこで浦島太郎は竜宮城の宝物庫にコッソリ侵入して、竜王の宝珠を盗み出した。 そこで浦島太郎は剣を抜いて襲いかかった。 しかし竜もさるもの、毒に苦しみながらも浦島太郎の攻撃を軽くあしらって、浦島太郎を殺そうとした。 と、その時、竜王の宝珠が光を発して浦島太郎を包み込んだ。光が消えると、浦島太郎は筋肉ムキムキのマッチョマンになっていた。 浦島太郎は邪悪な竜がひるんだ隙に3メートルも飛び上がって一刀両断、邪悪な竜を倒した。 こうして邪悪な竜は倒され、海の世界は平和を取り戻した。 「私は乙姫と申します。元はこの竜宮城の主だったのですが、邪悪な竜が復活して竜宮城を乗っ取られてしまいました。邪悪な竜は更に、私に妻になれと言ってきましたが、私が拒否すると、呪いをかけて私を亀にしてしまいました。しかしあなたが邪悪な竜を倒してくれたおかげで呪いが解けて元の姿に戻ることができました。さあ、これからは私と共に竜宮城で暮らしましょう。」 こうして浦島太郎は竜宮城で乙姫様と楽しく暮らした。 すると、浦島太郎は故郷が急に寂しくなって、乙姫様に帰りたいと言った。 乙姫様は言った。 「それではこの玉手箱をお持ちください。もしまた竜宮城に戻りたかったら、これを開けてはなりません。」 こうして浦島太郎は竜宮城を後にした。 ところが、故郷に帰ってきてみると、建物も人もすっかり変わっていて、見知っている人がいない。色々な人に話を聞いてみると、300年ほど前に浦島太郎という男が亀の背に乗って海へ入り、それっきり行方不明になったという。 つまり、浦島太郎が竜宮城で3年過ごしている間に、地上では300年の時が流れていたのだった。 浦島太郎は驚き、嘆き悲しみ、混乱した。そして、取り乱して玉手箱を開けてしまった。 すると玉手箱から煙がモクモクと出て浦島太郎を包み込んだ。浦島太郎は鶴に変身していずこともなく飛び去った。 |